天明大火 14
笑ってくれてよかったじゃねぇよ。全然よくねぇよ。いや、ある意味謎に怒る京を笑顔にできたのはまぁ良かったと言えば良かったが、俺のメンタルはもう致命的だよ。どうすんだよ、もう目的地に着いちまったぞ。
伏見稲荷神社は思ったよりも広く、全て回るとなると何分かかるか分からない。とりあえず本殿と千本鳥居に行くことになっている。一ノ峰まで登ってみたいという話も上がったが、最初から山1つ歩くのは流石にキツい。
「狐神君......隣......いい?」
別に班行動だから別に構わないが、わざわざそんな宣言しなくても。ご丁寧なこって。
やはり京都でも中でも有名な場所ということもあって、本殿にもそれ以外にも多くの人がいた。俺も若干気後れするくらいだ、京が俺の腕に抱き着いてきたがそれを追っ払うことは流石に抵抗があった。
「でも流石に抱き着くのは止めて。他の人に勘違いさせてられる。はい、これあげるから。」
「私の事便利な道具......都合のいい女と思ってません?」
「なんで若干嬉しそうなんだよ......。仕方ないだろ、あの3人はそれどころじゃないし、白花や深月は有名人すぎるし、俺はこれだし。まぁ我慢しろ。」
「......ぁ、......うん。」
「狐神君てなかなか図太い性格してらっしゃいますね。」
「なんのことやら。」
そこら辺の景色を見ると狐の像がいくつもあった。京都について調べているときに稲荷大神のお使いとして狐が祀られているらしい。白花からは「なんか親近感とか湧くのかな?」なんても聞かれた。親近感も何も俺はタンパク質でこれらは銅に錫を混ぜた合金かなんかだろう。何が近しいのやら。しかし実際にこうして目の前に来ると何というか、目には見えない、なんかこう、エネルギー的な、何かを感じなくもない気がする。
触ってみると苔がついており、それのせいか、感触としてはぬめぬめして気持ち悪い。細かな箇所はいくつもひびが入り、一見なんとも見えないがいつ壊れてもおかしくない。中には虫が巣食っていた。まるで狐に取りつく寄生虫のように。
「親近感、ね。」
千本鳥居で有名なだけあって、その景色は本当にすごかった。ちょっと中二病かもしれないけど、異界の扉みたいな感じがすごかった。横から見るとところせましと鳥居が並べられており、本当にぎゅうぎゅう詰めといった感じ。なんでこんな風にしたのかちょっと興味も沸いた。みんな各々で写真を撮ったり、撮り合ったりしていた。俺も風景として保存したかったので、カメラを起動させて画面を見る。いつの日かこんな写真を懐かしむのだろうかなど考えつつ。
想像以上に稲荷大社で時間を食ってしまったため、三十三間堂は飛ばすことになった、すまない三十三間堂。
そして少し速足でついた清水寺。予想通り、凄まじい人でごった返しており、正直かなり進む気にならなかった。京や深月も表情から同じことを考えているのだろう。しかし折角京都に来たのだから、頑張ってみよう。
よく清水の舞台から飛び降りるという言葉はあるが、実際は飛び降りることはできないようだ。京都初心者からすればそれすらも知らなかった。しかしそこから見える景色は大層見事なもので、なんとなくあの言葉の意味は分かる気がした。歴史は別に好きではないが、確かにこういった神社などに来るとその場所の歴史には興味そそられるな。
今の時期は紅葉が綺麗で、恐らく四季の中で最も人気がある時期だと思う。外国人観光客も思ったよりも多くいた。観光客の話が意図せずして耳に入ってきたが、この国について褒められることはやはり悪い気はしない。だがあまりにもその数が多すぎる。予想はできていたが、少し距離を置いていた大人組とはぐれてしまった。とはいえ今のところ白花や深月はしっかり身バレ防止はしているし大丈夫だとは思う。しかし特にマネージャーにはそれは通じないだろう。距離を開けていた白名に距離を詰める。
「ちょ!?ちょっと、近いよ!?」
「仕方ないだろ、マネージャーに怒られたくはない。」
「で、でも......」
みんなとは少し離れた位置にいるため、俺たちの声は聞こえない。てっきり罵倒でも飛んでくるかと思ったが、流石に周りにこんなに人がいたら変なことはできないか。しかし白花の表情はよく見えなかったが、どうやらまだ俺と接することに抵抗を持っているらしい。俺のほうは吹っ切れているため、白花にも早く戻ってきてほしいものだが。
「悪いが人込みがある程度収まるまでこのままでいてくれると助かる。」
人の多さは時間と共に増え、今や前に向かって歩を進めることだけでも怖いくらいだ。見た限り他の女子たちも男子がうまくリードしてくれていた。こうなってしまってはゆっくり観光とは言ってられない。ここで転びでもしたらだるま倒し形式で大事故に繋がりかねない。抵抗はめちゃくちゃあるだろうが、手を握らせてもらった。
「わっ!?」
「無理言っているのは承知だがあんまり声は出さないことを勧める。黙ってついてこい。」
俺の言葉にゆっくりだが一度頷くと、その後は静かなものだった。清水寺から降りるとある程度人も分散し、普通に歩ける程度になった。よくニュースとかでコミケとかで人込みの映像を見ると改めてあれやばいな。もはや集団行動で国技に指定できるだろ。
「大丈夫か?」
俺たちは一番最後に寺を出たらしく、少し心配そうな宇野が話しかけてくれた。他の人達を見るに流石にあれには堪えた様子だった。やはり女子のほうが摩耗が激しかったようで、嬬恋以外はダウンしてしまっている。
「......お前、さては男か?」
「仰りたいことは分かりますが、流石に失礼では......。私はすでに幾千ものコミケという戦場を超えておりますので。」
あぁ、成程。すごい納得できたわ。
見るとようやく大人組もあの波を超えられたらしく、こちらを見ると安堵した様子を浮かべていた。
「......したら俺は一回ダウンしている人に飲み物買ってくるよ。榊原と宇野はみんなを見ててくれると助かる。」
それだけ言って俺は一回みんなと別行動をした。




