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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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天明大火 12

朝6時、そのちょっと前。

多分俺の体質だと思うが、慣れていない場所だとわざわざ目覚ましをかけていなくても問題なく目を覚ます。多分体が緊張状態にあるからだろうか。眠気も残ってはいるが、ここでもう一度布団に戻れば絶対に起きられない自信がある。

顔を洗い軽く歯磨き、寝巻から洋服に着替えて身だしなみを軽く整える。

そのくらいに榊原も起きた。ちなみに榊原は昨夜俺が部屋に戻ることには布団に包まって眠っていた。若干目じりが赤くなっていたところを見ると、罪悪感が湧いた。

やがて部屋を出て食堂に向かう。みんなまだ頭が動いていないらしく、低い声で何やらぼそぼそ言っているのは分かった。しかしそれとは正反対にすごい遠くの距離にいるにも関わらず明石の声はすごい響くな。頭にガンガン来るから少し自重してほしい。

「なぁ、お前白花に告ったって本当か?」

普段声を掛けられない不和を一瞥したが、煽りとかではないらいしい。まぁ白花の様子から煽れるものではないと感じたんだろうな。

「.....ん。」

「まじかよ。まぁあの外見の良さと性格の良さなら落ちて当然か。んで、どうやって告ったんだ?」

「......普通に。」

「お前、起きてんのか?」

「......ん。」

だめだ、頭はそれなりに働くが口を開くのがめんどくさい。というか体を動かすものめんどくさいな。

やがて不和の回収係の本坊が迎えに来てくれた。本坊も俺を怪訝な表情で見てはいたが何も聞かなかった。しかしこれは想像以上にめんどくさいことになったな。まぁけしかけたのは俺なわけだが。

案の定席に着くと恋の亡者である嬬恋が目を椎茸にしてメモと録音機とカメラを持って待ち構えていた。他の連中も程度の差こそあれにたような感じか。白花に何か話をさせる前に俺から何か言ったほうがいいか。

「それでそれで「朝からうるさい嬬恋。......昨日は普通に白花に告って振られただけだよ。だがどうやら白花は告白を受けるのが初めてらしくてな。だからどうすればいいか分からないらしくて、今みたいな状態になってるらしい。」

「え?白花さんが告白されたことないなんて、まさかそんなことあろうはずがございませんわ。」

それはみんなも同感らしく、俺の言葉に納得はいっていない様子だった。実際白花が告白をされたことがあるかどうかは知らない。ただ少なくてもそういった男の影を匂わせたことはなかった。だからこそライブの時は焦ったわけだし。

「そうやって特別扱いされるから、普通のことを経験してこなかったんじゃないか?」

「あぁ.......確かに聞いたことありますわね。いわゆる高嶺の花にようなものですからね。」

高嶺の花、すごいしっくりくるな。採用。しかしこの際丁度いい、どうせなら今晩の予約も入れておくか。

「でもそうだな、玉砕覚悟だったが案外ワンチャンありそうだし、今夜もう一度チャレンジしてみるか。」

「ふざけんじゃねぇ」「今度は俺だ」「させねえよ?」様々な声とともに男子に押しつぶされた。朝っぱらこんなめんどくさいことは辛いが、それで白花の変な態度を誤魔化せるなら意味はあったかな。


朝食の時間も限られているので、やがてみんなご飯をお腹に入れると本日の行動班の準備に入った。一瞬だけ白花がフリーになったので、一応言葉をかけておくか。

「どうした、体調でも悪いのか?......それともまさか本気で俺「うるさい。」」

それだけ言うと足早に部屋に戻っていった。まさか本当に俺に惚れているなんてことはないだろう。でも演技ではないし、そもそも仮に演技だったとしても、俺の告白にたじろぐなんてデメリットしかないだろうし。......まぁいいや、俺も準備に入ろう。


先生から注意事項や時間の確認、諸々を聞き終わった後、各班ごとに行く場所に向けて移動を開始し始めた。ただうちは他の班と少し違い、一緒に行動する式之宮先生が職員会議が終わるのを待っていた。その間にやがてホテルのフロントには俺ら以外の生徒はほとんどいなくなった。喧騒から静寂に、こちらのほうが落ち着くな。

「すまんな、みんな。待たせてしまった。」

式之宮先生は若干駆け足でこちらに向かって走ってきていた。俺はマッサージチェアで体を解していたところだから全く時間は気にしなかった。にしても式之宮先生も若干緊張しているように見える。それもそうか、いくら警備の人間とそのマネージャーがいるとはいえ、守るべき対象が世界に名前が通る人間が2人もいるのだから。何かあったら解雇だけでは済まないだろうな。

「君たちの行動については既に受け取っている。私たち大人3人は基本的に回りにいるが気にしないで楽しんでもらえると助かる。」

いささかそれは難しいと思うが、まぁしょうがない。精々できる限りで楽しむとするか。

「じゃ、じゃあ早速行こうか、みんな!」

行動班のリーダーとして挙手した榊原の声に、少し頼りなさを感じつつも、俺らもホテルを出た。


最初の場所の伏見稲荷神社までは少し距離もあり、また、本日はたくさんの場所を歩くため、惜しみなくバスを使う選択肢を取った。そして観光地ではよくある一日乗り放題を利用した。ほとんどの生徒がこれを利用して回るだろう。観光客のニーズに合わせたよくできたプランだと思う。だが問題はそこなじゃない。

「気まずい......」

「狐神さんが撒いた種でしょうに。」

昨夜の件があり、俺と白花、そして宇野と榊原と五十嵐がとても気まずい空気となっている。なので安全地帯は深月と嬬恋、京しかいない。

「いや、まさか白花があんなになるとは思わなかったし。榊原が急にあんな男気見せるとは思わなかったし。」

「全部言い訳にしか聞こえませんわ。」

そうですね。責任転嫁ですね。

「嬬恋大先生にお伺いしたいのですが、気まずくなってしまったこのような状況を打開する方法に心当たりはないでしょうか?」

「あまり私を舐めないでくださいまし。勿論ありますとも。この歩く恋愛図書館と呼ばれた私をなめないでくださいませ。こういった場合にはまず他校の生徒から喧嘩を売られます。そして「ありがとう、冷静になれた。」ちょっと!?」

いつの時代に修学旅行先で他行の生徒と喧嘩なんて起こすんだよ。それもこっちにはバックに3人も大人がついているんだぞ。

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