旅鞄には甘いお菓子と少しのスパイスを 22
いきなり修学旅行から加わるというのは流石に難しいということで、普段の授業より参加することになった。時間に関しては極力来れる日に来るという形だが、一歩前進?なのかな。
流石は有名人とあって教室の扉を開けた瞬間からどよめきが凄かった。写真を撮ろうとする人もいたが、さすがにそれは許されなかった。うちのクラスだけ他クラスより1人分多くなってしまったがそれは致し方なし。
「去年2年7組で、海外に留学していたのもあって、今回皆さんと同じクラスで学ばせて頂きます、根元深月と言います。少し取っ付き難いことあるかと思いますが、是非フランクに接してもらえると嬉しいです。あと、もし出来たらでいいのですが、苗字があまり好きでは無いので、名前で呼んで下さると嬉しいです。......こんな感じかしら。」
深月が遠井先生に目配せをすると、ざわめくクラスメイトを遠井先生が静めさせる。
「根元さんは普段仕事で忙しいため、元々土日に補講という形で授業をしていました。これからは平日も時間が取れるということで、皆さんと同じように授業を受けてもらうことになります。それから狐神君。校長から面倒は全てあなたが見るようにと伺ってますが、問題ないですか?」
突然出てきた俺の名前に、クラスの人たちからは『なんで?』という視線が飛んでくる。そういえばその言い訳考えてなかったな。にしても、全部ぶん投げてきたのかあの人。いや、確かに俺が逆の立場なら、知らない環境に知り合いがいたら頼みたくはあるが。
「嫌とは言えない状況かと。」
「では根元さんの席は狐神君の隣がいいですね。」
「あ!だったら席替えしたいっす!」
そこで高梨が声を高々にそう言った。流石にこの前したばかりだろとも思ったが、自分の席、と言うよりかは俺の席をよく思わない人達はその意見に同調する。かく言う俺も日々堅苦しい思いをしていたから全力でその流れに乗る。すると何故だか白花には後ろから結構な重さで蹴られた。
「......分かりました。些か早い気もしますが、一部だけ席を変えるのも不公平です。早く終わらせますよ。」
俺が深月の横になるのは確定として、それ以外はみんな普通に席替えを行った。勿論俺と深月の関係について聞きたそうにしている人はたくさんいたが、深月に配慮して聞いてくる人はいなかった。俺は半自動的に1番後ろ1番窓側から1つ右。1番窓側には深月が座った。
「こういうことには慣れてると思った。人生経験豊かだから。」
「そんなことないわ。寧ろ不得意の分野だもの。」
深月の吐き出す空気は揺れ、手先は震えていた。俺は留年や浪人などはしたことないが、多分1つ下の人と同じクラスにいることは想像以上にきついのかもな。これであと1年半くらいもつのだろうか。とはいえ俺も心が折れそうな時は結構深月に支えられた。不器用なりにでも打つ相槌は嬉しかったし、出されたお菓子はどれも涙が出るくらい美味しかった。そんな人が今困っているのであれば、こちらもそれに応えなければいけないかな。
「みづ「深月さんの前の席の水仙美桜って言います!私料理大好きでいつか会いたいなって思ってて!!」」
水仙が見たことないくらいテンション上がっていた。確かに前深月の事少し話した時にソワソワしてたから、それが目の前に来て爆発した感じか。なんだか新鮮だな。深月も「ど、どうも」と動揺はしてるが別に悪い気はしてなさそうだな。深月の性格はあるが、でも確かに趣味?が合うことは友達に取ってとても重要な事だな。
そして俺の隣は気まづそうな高梨、前の席はなんだか久しぶりの永嶺といった感じか。とりあえず前の席ほど圧力は無いので助かった。
何となく分かっていたが、やはりこの年代の1つ歳が違うというのは若干関わりづらい部分もあるのだろう。みんな話したいだろうということは空気から読み取れるが、実際に話しかける人はそう多くはなかった。普段の様子から見るに、だいぶ深月も頑張ってはいる。けれどそれはある意味しょうがない事だと思う。
したら1回離れさせるか。
「深月、修学旅行について遠井先生から話があるそうだ。行こ。」
「え、えぇ、分かったわ。」
深月を連れ出した後の教室の雰囲気は分からないが、廊下へ出た際に出たため息が安堵のようなものであるのは直ぐに分かった。
「ありがとう、やはりなかなか感じるものあったわ。」
「遠井先生から話があることは本当だからな。別に何も感謝される謂れはない。ちなみに京都で美味しいお店とかって知ってたりするのか?それだとなかなか強いんだが。」
「お店は一応いくつかは知ってはいるわ。」
良かったな京、もしかしたら好きな雰囲気のお店もあるかもしれないぞ。




