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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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旅鞄には甘いお菓子と少しのスパイスを 15

「なんでこんなことに......で、勝負する料理はどうやって決めるんだ?」

なんか勝負を仕切っている小原に投げかけてみる。もし水仙が苦手で俺が作れそうな料理なら可能性はあるかもしれないな。

「何がいい、美桜ちゃん?」

「じゃあパンケーキで。」

「いっそ清々しいな。」

これ勝負じゃなくて見せしめだろ。俺が一体何をしたと言うんだ。

視察とか監査とかはもう終わっているので俺がここにいる理由は何も無いんだが、流石に簡単には帰してくれそうにない。これ以上長引かせてもどうせやらされるのであれば早めに終わらせるとしよう。


始まりのゴングがなると、俺と水仙は材料を見る。流石料理部だけあり、少なくても俺の知る調味料やパウダー系などはほとんど揃っていた。しかしそんな特殊な素材を使えるほど俺も料理が出来るわけでない。つまり必要なことはたくさんの材料を使った料理ではなく、最低限の素材で作り出すこと。

「とりあえず、卵、上白糖、薄力粉、ベーキングパウダー、牛乳、バニラエッセンス、塩、このくらいかな?」

「なるほど、基礎は大丈夫そうだね。あまり沢山の素材を使ったところで味どうし喧嘩しちゃうからね。」

なんで敵の水仙がいかにも先生みたいなポジションにいるんだよ。

俺の選んだ後に水仙も色々選んでいたが、俺にはそこまでの余裕は無い。あんなのでも料理の腕は凄まじい。俺はとりあえず俺の出来る全力でやるとしよう。


今回はもちもちよりもふわふわの為に強力粉ではなく薄力粉を選んだ。正直拘りはそのくらい。あとは特に何も言うことなく、よくあるパンケーキの作り方をなぞらえた。失敗、という程でもないとは思うが、やはりメレンゲ作りは難しい。角が立つまでに温度が少し暖かくなりすぎてしまった。流石にこれに気付かない料理部ではないだろう。

そんな感じで20分ほどぐらいだろうか。俺と水仙のパンケーキが出来た。わざわざ合わせたのかは知らないが、2人ともふわふわパンケーキを目指したのか、似たような見た目となった。しかし向こうの方が俺のより膨らんで見える。

「ねぇ、文化祭で狐神君が作ったパンケーキ覚えてるかな?私はホールの手伝いで作れなかったんだけど、正直驚いたんだ。料理部じゃないクラスメイトの男の子がこんなに美味しそうなパンケーキを作れるだなんて。......私もひとつ貰ったけど、悔しかったな。だから今ここで雪辱を晴らさせてもらうね。」

笑う水仙はいつもの笑顔ではなく、不気味に対抗心を燃やす笑顔だった。水仙はこと料理の勝負などにはこんなにも対抗心バチバチに笑うのか。別に俺は俺が勝てるなんて端から思ってないから、悪いが全然対抗心が湧かない。

「お好きにどうぞ。」


実食。

まずは水仙のパンケーキが出てきた。俺も水仙のパンケーキを食ったが、やはりとても美味しく感じた。パンケーキの上に載った焦がしたキャラメルは芳醇な香りを放ち、甘さは控えめ。これが甘いパンケーキと上手く絡まっている。乗ってある濃厚なアイスクリームは食感や味変として大きな役目を持っている。また重曹を入れているのだろう、俺のと比べてよりふわふわ感があった。俺もその知識はあったが、知識があると実践で使えるは全くの別物だ。

「どう?美味しい?」

何故か水仙ではなく小原がすごい自慢げに話しかけてくる。別にお前が誇るものは何も無いと思うが、後ろにいる水仙の為にも感想は述べるか。

「めちゃくちゃ美味しい。普通にお金出しても食べたいくらいだ。美味しんだが......」

「は?何?文句あるの?」

コメントがいちいちキツいな。言論の自由がない。

「......俺の気のせいかもしれないけど、俺のだけみんなのと比べて香りとか食感が更にあるような気がする。もしそれが俺のことを考慮してくれたのなら、そんな気遣いが出来るところもすごいいいなって......気のせいかもしれないが。」

「......ちょっと手元狂っちゃったの、たまたま狐神君のに行っちゃっただけだよ。」

「あ、そうなんだ。失敗したのを俺に流す判断は間違ってないが、俺は味覚以外は敏感だから、次やるときには「……」痛いっ!?」

小原からフォークを腕に刺されたが誰からもフォローが入らなかった。やはりこの部活は全面的に俺の事を敵視しているらしい。そんななか何故俺のパンケーキを品評をされなければいけないのか。


やがて2人のパンケーキを食べ終わり、審査員の5人の結果がまとまったらしい。その結果、5:0で水仙の勝ちだった。圧倒的敗北。分かってはいたし別に勝てるとも思っていなかったので、その場で鶴を連れて去るとしよう。

「......大丈夫?狐神君のもすごい美味しかったよ?」

鶴は何故か慰めてくれたが、俺としては別に気にしていないのだが。

「もうヤダ。生徒会帰る。」

「待って。」

審査員の小原がまだ俺に帰るなという。最早これはイジメと言って差し支えないのでは?

「確かにあなたの料理は美桜ちゃんのには負けてた。でも正直美桜ちゃんじゃなければ間違いなくあなたが勝ってた。あなたのことは好きじゃないけれど、忖度なしにあなたのパンケーキは相当美味しかった。それは私たち全員が感じたわ。その上で聞きたいの。普通に家で練習してここまでの物は作れないと思う。どうしてここまでレベルの高い物を作れたの?」

俺は別に気にしてはいない。自分の才能のなさには自覚がある。努力をしたところで並程度。そんなのが一心に部活を頑張っている水仙に勝てるなんて思っていない。

......申し訳ないのはあの人に教わっているにも関わらずそれに応えられなかったことだ。

「プロに教わってるからな。」


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