旅鞄には甘いお菓子と少しのスパイスを 13
残る部活動は2つ。
そのうちのひとつの弓道部を訪ねた。
高校生のよく思うところであろう『運動部には所属しておきたいけど、あんまりガチでは動きたくない』その願いを叶える部活代表ということもあり、それなりの人数いる。確かにその文言は間違ってはいない。他の部活とも比べて運動量は少ない。だがうちの弓道部はそこら辺の学校とは一線を画すことがある。
「今は何してるんですか?」
「早気の人の治療ですね。射法八節の六、会を保持できず早く矢を放ってしまう人の治療です。精神的な問題ですので個々人にもよりますが、うちはまず呼吸法から確認してます。お腹に手を当て、気の流れを感じるように。」
「何時間ぐらいやってるんですか?」
「1日1回だけ試合のように4回打たせる機会を設けてます。皆中を2日連続すれば終わりです。」
ようはそれが出来なければずっと早気を治す治療か。最後の一矢がどれほど精神的にキツいかは想像に固くない。他にも夏の合宿にて、灼熱の太陽の下、異常な暑さの砂の上でひたすら立つ、座るの動作をさせられたと聞いた。柔道にもある左座右起とかだろうか。勿論悲鳴を上げることも顔を歪めることも不必要な動作も禁止されていたらしい。精神力を上げるとかなんとか。並の運動部の方がまだマシだと思える気もするな。
代永と榊原は弓道部として活動している。代永は性格上こういった部活は合っていると思う。精神的な強さとか、信条を曲げないとことか、若干男勝りなところもあるところとか。逆に榊原はすぐに辞めそうという気もしたが、思いの外頑張っているらしい。途中から入ったにも関わらず部の人は素直に受け入れてくれたらしい。
「前回の大会は全国4位。ホントすごいな。」
「入賞を逃しているところですごくもなんともない。中途半端な同情ならいらないよ。」
なかなかストイックな部活だこと。
『スコンッ』と的に矢が中る音が響く。似たような競技でアーチェリーがあるが、あれは的の中に得点がある。けれど弓道はあくまで当たったか外したかの2択。とてもシンプルで分かりやすく、個人的にはこちらの方が好きだ。
まだ榊原は弓を持たせて貰えないようでゴム弓で練習していた。よく分からないが姿勢や持ち方等を注意されている。一方の代永は丁度前の人が矢を放ち終わり、番が回ってきた様子。どんなものかお手並み拝見させて貰おうかな。
「......」
「......狐神君、どうかしたの?......綺麗だね。」
綺麗、確かにその言葉が1番しっくりくるか。別に代永のことをどうと思ったことは無い。けれどなんというか、佇まいというか、所作というか、あの練習をしているのだから当然と言われればそれまでかもしれないが、洗練されたものを感じた。
「中る。」
「......だね。」
『スコォン!!』と音が響くと、小さく「かっこいい」と声がどこからか聞こえた。
なぜか分からないが、でも確信に近いものとして、代永が構え、矢を放った直後には中ることが分かった。素人目にも案外分かるものなんだな。これはあれか、漫画とかである『あいつ、強いな』みたいな身に纏う空気で分かるあれか。......違うか。
「まぁ仮にもリーダーの一人だもんな。」
「代永をずっと見ているのはいいが、資料の確認はもう済んだのか?」
弓道部の人から一瞥される。資料の確認はもう済んでいるため、速やかに俺と鶴はその場を去った。
「狐神君っ!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。鶴の手前、あんまりぶっきらぼうな態度をするのは良くはないか。振り返るとゼーハー言いながら袴姿で走ってきた榊原がいた。
「どないした?」
「あ、いや、つい後ろ姿が見えたから追いかけて来ちゃった。特に用事があった訳じゃないんだけどね。」
初恋か。そういうのは俺じゃなくて五十嵐にでもやればいいのに。そういえばあの体育祭の後何かあったのかは気になるところだな。
「五十嵐とは体育祭後どうなんだ?」
「え?あぁ、あんまり進展はない、かな。まぁでもまだまだ時間はあるからもう少しアタックしてみるよ。」
だいぶ前よりも前向きになったな。てっきり感触悪かったからどうしようとかそんな言葉が出ると思っていたが。これなら俺が特に何かこいつにすることはないかな。
「まぁ長期戦は最初から分かってたからね!それと......」
何やら耳打ちしたいことがあるようでこちらに手招きをする。別に鶴は言いふらすことなんかしないからこんなことしなくてもいいと思うんだけどな。というかシンプルに他人の顔にあまり近づきたくない。
「その、京さんと水仙さんから言われたんだけど、桜さん?とはどうなったのかなって。」
どうなったかって、白花のこととかあるから俺からアクションとかは起こすとかは考えてないけど、出来れば今度関わりたくないというのが本音だが。多分あの2人は俺と桜がいい感じになってるのかとか、もしかしたら付き合ってるとか思ってんだろうか。俺があいつと付き合うわけなんてないのに。
「お互い本音で語り合えたけど、別に今以上の関係とかはないと思う。あいつはどう思ってるか知らないけど、少なくても俺からは特に接点とかは持つ気ないよ。」
「?付き合ってないってこと?」
「悪いがあの女だけはごめんだ。いつか殺されかねない。」
最後の言葉冗談なのか本気なのか分からない様子だったがとりあえず引いてくれたので俺も仕事に戻る。止めていた足を動き出し、向こうもその反対方向に向かって戻っていった。
「狐神さん。鶴さん。」
「今度は代永か。」
「......どしたの?」
「あの犯行予告の件、どう思うか聞いておきたいと思いまして。」
一応リーダー達全員に修学旅行の犯行予告があったことは伝えた。だが知っての通り、件のことは樫野校長により迅速に対応された。強いて言うのであれば、指示役というか黒幕というかが見つかってはいないが、動きはないから正直忘れかけてはいた。
「どうも何も、もう解決でいんじゃないか?黒幕は足跡をしっかり消すタイプの人間だし、これ以上何かするとは思わないが。」
「ならばあんなことしても校長先生に直ぐに解決されることも予測されるかと。それも加味しての周到さがあるようにも感じました。」
「校長先生の力量を自分の目で確かめたかったとか?」
今後企てている更に大きな作戦とかの為に、とか?




