旅鞄には甘いお菓子と少しのスパイスを 12
続いてはダンス部。人数が非常に多い部活の一つで俺の知り合いでは鏡石がいる。実績は目を見張るものがあるが、人数が多い分いざこざが多く報告され、特に大会前のメンバー選抜の際はそれはそれは荒れるよう。俺として意外だったのは男子よりも女子の方が人数が多く、その主権も女子が握っているとの事。女子の掴み合いまで勃発するらしいが、個人的には是非見てみたい。
「今は大会に向けてだいぶ仕上がってるから、言葉あれだけど邪魔はしないで。」
勿論邪魔はする気はない。というかだいぶ今も苛立ってるな。他の部活もそうだけど、あんまり監査みたいなの来られて歓迎ムードの方がおかしいか。ダンス部の書類を鶴が確認しているため、俺は少し時間を持て余していたので彼らのダンスを見ていた。
ヒップホップ、ジャズ、ビバップ、ブレイク、ロック、ハウス、ドギー、クランプ、ワック、ヴォーグ、レゲェなどなどジャンルはあるらしい。俺も詳しくは知らないが、大体1人1ジャンル、となっている訳でなく、全てのジャンルを学び、そのうえで得意を磨いていくそうな。そして大会で決まったジャンルを選抜という形でメンバー決めを行う。
今回は人気のヒップホップが選ばれたらしい。ほぼ全員がその選抜を受ける。そして昨日その選抜メンバーが決定し、その練習中らしい。
「今あそこで踊っている人はあそこで踊れなかった人たちの思いも背負って踊る義務がある。それは本人らも分かっている。立てなかった奴らは部活に来させてない。精神的に無理だからな。つまり生半可な覚悟の奴なんてここには誰も居ないんだよ。だから来てもらってなんだが、ここでそんな不正みたいなことをするやつなんて誰もいないぞ。」
「......分かってます。それを確たるものとして来てるだけですので。」
ここのダンス部は一部ファンからダンサー宛てに贈り物などもあるらしい。金銭や危険なものは勿論だめだが、そこにあまり縛りはない。一応生徒会もそこはチェックしてるが問題はなかった。
鶴が電卓で数値を出している間、同じパートをみんなは練習していた。素人目では素晴らしいの一言だが、リーダーらしき人はそれを許さなかった。感情的に怒鳴るなどはなかったが、冷静に誰がどこをどんな感じでダメなのかを指摘する声は部員を締めるのに良いのだろう。
やがて休憩に入るとみんな携帯を片手に飲み物を浴びるように飲む。遠目だったが携帯には先程のダンスの映像が流れていた。休憩中も反省会のようなものをしているのだろう。俺も夏休み白花のためにジャンルは全く違うがダンスの練習をした。自分の映像を見返した時に素直に思ったことは、不細工だなと思った。顔はまぁ勿論そうなのだが、カメラがある、人に見られていると思うとダンスも自分が思ったように踊れない。要は人の目やカメラなどの視線があるといつもより動きがままならなくなる。それは精神的なものだろうし場数を踏むことが1番だと思う。でも彼らと圧倒的に違うのが彼らのダンスに注がれる期待値だと思う。舞台に登れなかった部員のもの、この高校だからレベルは高いだろと無意識のもの、先輩方が作り上げてきた信頼などのもの、その途方もない膨大なプレッシャーがどれほど彼らの足枷となるのか、俺には想像も出来ない。それを踏まえて自分を客観的に見れば、きっと思うことは多くあるだろう。事実映像を見るほとんどの生徒が苦い顔をする。この学校の部活が強いと言われる所以かな。
「......終わったよ。問題もなさそうだから行こっか。」
鶴がそう言った時、全体を1回通すと指示があった。どうせならそれをみたいと鶴に言うと、もう一度席に座った。一応確認も取ったが「客っぽいのがいるのは別に構わん。ただ素直に感想は聞かせろ。2人の意見も欲しいところだ。」ということで了承を得た。
クラスは35人のビッククラス。時間は本番想定の2分20秒。準備が整い、ダンスが始まった。
「......そんな感じだ。どう思う?」
いや、脱帽の一言だった。迫力、演出、ダンスのキレ、体幹、リズム、シルエット。本当に体育の授業程度の知識で申し訳ないが、本当に凄いの一言しか無かった。......まぁこの人は多分俺のコメントにはあまり期待していない感じだからいいけど。
「......表情が少し強ばっている印象だったかと。勿論一生懸命さは凄い伝わったんですけど、魅せることに力が入りすぎてる気がしました。あと、多分なんですけど、ブレスのタイミングが人それぞれになってしまってる気がしました。そこまで統一出来ると次のモーションが力技でなく、自然と揃うかと思います。あとは......ちょっと難しいんですけど、ビッククラスで統一感を出すことは非常に重要だと思います。大人数の統一された動きは精錬されるほど輝くと思います。でもそれとイコールとして、多分個性が消えちゃってるかなと印象がありました。個性を消してこそのビッククラスとも考えはあると思いますが、私はちょっと気になりました。......なので、表現力を重点として取り組んでみてもいいのかな、なんて思いました。例えば即興ダンスなどやってみてもいいのかなと。みんな多分今ダンスを楽しく感じている余裕もなさそうなので......。」
うん、間違いなく素人の意見じゃないよね。コーチとかそこら辺の人ですか?なんでか俺が凄い幼稚な意見に聞こえてくる。
「......驚いた。なるほど、ブレスや表情は課題と私も感じたが、即興ダンスか。......確かに彼らは今『踊ってる』というよりも『踊らされてる』に近いかもしれないな。したら1回初心に戻すか。ありがとう、蓬莱殿さん。」
「......いえ、素人なのにでしゃばってしまいすみません。でも本当にダンス凄かったです。ありがとうございました。」
「いや、私の方こそキツい態度を取ってすまなかった。ありがとう。......あぁ、狐神もおつかれ。」
なんか、つれぇわ。
「あ、すみません。一言だけいいですか?」
許可を得るとステージでへばっている女のとこへ向かった。周りから少し視線が刺さり若干気まずかったが、一応伝えなければと思った。
「......何。煽り?見てわかんでしょ、あたし疲れてんの。」
「わざわざ煽りに来るとか暇かよ......。めっちゃかっこよかった。教室とは全然違う雰囲気だったけど、一生懸命さはちゃんと鏡石だったと思う。上手くは伝えられないけど、お前のこと少し好きになれたと思う。そんなダンスだった。」
「は?......うるさい、帰れ。......かえっ......とっとと......帰っ......うわぁん!!」
「えぇ!?なんで泣く!?」
あ、そっか、俺なんかに『少し好きになれた』って言われたのにシンプルに恐怖を感じたのか。これは精神的にキツい今申し訳ないことした。
「ごめん!つい口から零れた言葉だったんだ!怖がらせるつもりはなかった!多分俺の勘違いで少しだって鏡石のなんか好きになってないから「死ねぇ!!」痛い!?」
何故だか分からないが、周りの人達からは「とりあえず今日は帰っとけ。あとはまぁ、ありがと。」などと言われた。俺は殴られた頬を冷やしながらその場を後にした。




