旅鞄には甘いお菓子と少しのスパイスを 11
情けない話、俺は華麗にショットなどを決めることなど出来ずに何とか打ち返すことが関の山だった。なので普通に強めの球が来ると場外に吹き飛ばす。その度に野次が飛ぶ。
反対に鶴は華麗なショットを沢山決めていた。それは速さとか強さとかではなく、狙った箇所へ打つ正確性。また直接点数は取れなくても俺は相手が何とか拾った球くらいなら返せる。それを前衛に上がってもらった鶴が決める。そして鶴が激しい動きをする度歓声が上がる。
一進一退の攻防が続き、とりあえず最初のゲームは俺たちが取った。
「梶山、少し頼みがあるんだが......」
「うん、そうだね。」
鶴、スコートからジャージへ変更。
「ふざけんな!」
「狐神てめぇぶっ殺すぞ!?」
「梶山もすんなり渡してんじゃねぇ!!」
しかしこれには今まで黙っていた女子部員が敵になる。恐らく女子部長だろう、1人が前に出る。
「強い女子がいるからと許してたが、てめぇら全員外周行ってこい。」
「え、いやさっき行ってきたんすけど......」
「行け。」
これでようやく試合に集中することが出来た。
とはいえ俺の集中力なんぞたかがしれており、男子が外周を走り終える前に試合は終わりゲーム1-3で俺らの負けだった。
「反省点は多いね。」
「うん。この後少し時間いいかな?」
梶山とペアの人は俺たちの勝利に喜ぶことはなく、何とか一息ついた様子だった。そして俺と鶴の試合の反省点を2人で言い合っていた。俺が何した訳では無いが、ああいった人たちが本当に強くなっていく人なんだろうな。
「......次、行こっか。」
思いのほか楽しかったのか、鶴の顔が綻んでいた。結果はどうであれ、少しでも楽しめたのであれば良かった。
俺より一足遅く制服に着替えた鶴が帰ってきたので、俺と鶴は次の部活動へ足を向けた。
「憂鬱だ。」
「......?」
扉を開けると画面に向かい合う人や、何やら動画のようなものを投稿しているのか、よく動画投稿者が使うようなマイクや丸い照明の前で話す人が見えた。
「お、久しぶりだな?あれか、生徒会の視察か。......まぁちょっと気まずいよな。」
「......そうね、うん。あいつは?」
「園芸部の水やりが終わったらって言ってたから、そろそろ来るとは思う。」
するとそれに呼応するかのように遠くからこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。出来れば会いたくなかったんだけどな。
「お疲れ様でーす!!あれ、狐神君!?どしたの?入部!?」
「生徒会として来た。視察だよ。」
「しさつ?」
「正しく部活してるか見に来たの。荒井も立ち話させるんじゃなくて座らせなさいよ。お2人とも、こっち。」」
飯島の案内でパソコン部の空いた席に案内された。どうやら今日は山田はいないらしい。
部長である荒井とその補佐というかの飯島に部活の予算や行動について聞いた。今やパソコンやネットといったものは現代の市場を大きく占め、常に時代の最先端の技術が現在進行形で進化している。この部ではそれをSNSなどを通して分かりやすく解説したり、また便利なExcelやワードのショート動画、お悩み相談などを行っているらしい。実際に売上や利益なども出ており、それは正規の方法で報告されていた。その額に普通に驚いた。今や学生でも並のサラリーマンとかよりもずっとお金を稼ぐこともできるらしい。書類上の問題はなく、鶴は部員の活動を見て回った。かく言う俺は少し私情を挟ませてもらい、体育祭以降の桜について聞いた。
「......良くも悪くも、以前として変化は見られない。それとなく狐神のことを聞いても、大きな感情の変化は無いように見える。......ただ、あいつの闇に気づけなかった俺たちが何を言えた訳じゃないが。」
「私たちはこれからも桜を見守っていくつもりよ。あなたのような被害者を出さないためにも、桜を加害者にしないためにも。」
桜の動向、心根は現在どうだかは分からない。でもこの2人が前よりも厳重にあいつのことを見てくれるというのであれば、それに越したことはない。俺からは特に何も言うことは無かった。いや、一つだけ確認したいことがあった。
「ちなみにあいつは修学旅行に反対とか言ってたりしたか?この前匿名で修学旅行反対の意見が届いてな。」
「いや、むしろ嬉々としてたと思う。どこに行くかとか、クラス違うけど合流できないかとか聞かれた。」
「うん、あの子イベントは結構楽しむ派だし。それに今は私たち以外にも心許せる友達も多いしね。」
それはそうか。そもそもあいつには人を使うなんて頭は無いか。気に入らなければ直接来るだろう。
そろそろ帰るかと席を立とうとした時、後ろから勢いよく桜が突っ込んで来て、そのまま机にめり込んだ。
「ねぇねぇ何話してたの!?私も混ぜて!!」
「部活資金や活動等形式張った内容の報告を聞いてたんだよ。お前はなんも分からんだろうけどな。」
「あぁ!?今凄い私の事馬鹿にした!!お金とか部活のことでしょ!?私だってそのくらいわかるよ。仮にもこの学校に受かってるんだよ!?」
「どうせ鉛筆転がして受かったんだろ。」
どうやら図星だったらしく、地団駄は踏むが反論の言葉が出ないらしい。すぐに「道子ちゃんー!!」とヘルプを出すが、頭こそ撫ではすれ、それ以上は何もなかった。
話した感じ、本当に印象は変わらないな。白花と関わりを持つだけに仮にも俺の事を殺そうとしたとは思えない程。その肝っ玉はどうなっているのか。
 




