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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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旅鞄には甘いお菓子と少しのスパイスを 10

「うん、私もこっそり見させてもらったけれど良かったんじゃないかしら。とりあえずは同好会として許可って感じね。」

なんかあれだな、雛鳥を見守る母鳥みたいな。まぁもう今更だしいいか。

「でも今回みたいにいい人たちばかりではないから気をつけてね。」

「例えば?」

「そうね、一番過激だったのはこの角印を狙って武力交渉に来た人達がいたわね。」

どこの誰かは知らんが無謀な勝負をした者もいたな。

「確かに密室にはなるからそういうことをする人たちも考えられるのか。そんなのも相手にしなきゃいけないのは大変だな。」

「上に立つ者の責務よ」とかっこよく言い放って行った。

結果は明日にでも伝えられ、またその説明が入る。安西と峰澤は喜ぶと共にこれからの更に具体的な動きを確認していった。俺たちの仕事は終わったため、あとは2人に任せる形となる。

「でも面接官の立場だと普通に楽しかった。」

「そうですね、この前自分自身が面接を受けたばかりですが、人の話を聞くことは楽しかったです。」

俺の生徒会の仕事も多様性が出てきて、面接の他にも業務を任されていた。

「なるほど、部活動視察。よし、ノア、別の仕事をくれないか?」

「ダメよ、しっかり頑張ってね。」

前回料理部に行って酷い目にあったから嫌なんだよな。あの時は水仙の冤罪があったから、今行くのとは話が違うと思うけど、でも淀川さんとかを退学にさせたこともあるし。

後ろから袖を引っ張られる。

「......行こ?私も行くから。」

まぁ鶴がいればそこまで酷い目には合わないと思うけれど、いや逆に嫉妬とかで痛い目見る可能性はあるな。

「行きたくない......」

「......少しだけでいいから、頑張れそうかな?」

もう完全に駄々こねる子どもを諭す親じゃん。


部活は前回のと異なり、最初はテニス部に来た。

遠くから梶山がショットを打つ姿を見つつ、少しの間、部活全体を眺める。高校生が男女混合の部活に入る理由は何となくわかる。異性が同じ活動をしていれば、自ずとテンションが上がるからだろう。場合によってはそこで付き合ったりする人も多くいると思う。ある意味とても青春してるんだろうな。

ボールの出費が少し気になるところではあったので、もう少しだけボールを長く使うように伝えた。以前であればラケットで殴られただろうが、今回は舌打ちだけで済んだ。実に平和な事だ。

「狐神君」と何故か梶山に呼ばれた。別に呼ばれるようなことは何もしてないんだが。

「ごめんね、もし良かったらではあるんだけど、少しだけ時間貰えないかな?具体的に言うと1試合分。」

ん?

「ん?」

よく分からないままテニスのユニフォームを着せられラケットを持たせられる。靴も同じサイズのものを倉庫から引っ張り出して履かされた。そしてコートに立たされた。

「梶山?どういうこと?」

「えっと、急にごめんね?どうやら部活の先輩たちが昨年の運動部対生徒会に参加出来なかった事が悔しいらしくて、この場で叩きのめしたいんだって。先輩たちは引退はしてるから、試合は僕たちとだけなんだけど。」

「いや、叩きのめすって......」

「?ご褒美でしょ?」

ふざけんな、俺をお前と同じ発想するような人だと思うな。確かにもしこれで俺がドMならウィンウィンだが、前提が違うんだよ。

「あとまぁさっきボールを長く使って欲しいって言ってたよね。僕達も状態の悪いものを使うことに感じないものがないわけじゃない。だからその交換条件に彼女にも試合に出てもらうことにしたよ。」

歓声が上がるほうを見るとスコート姿の鶴がこちらに向かって歩いてきていた。俺は何となく直視することに罪悪感を覚え目を背ける。しかしそんなものお構い無しにすぐ側まで来た。

「......試合、頑張ろっか。」

「一応聞くが、ボールを長く使って貰うためだけにこんな試合認めたの?」

「......うん、ダメだったかな?」

いや、勿論スコートは正式なスポーツウェアだし、それをそんな風に見ることはしないけどさ、そうじゃない人だっているじゃないですか。絶対それ目的だろ。

「よし、じゃあやろうか。」

相手は梶山と女子のミックスだった。ルール上問題は無いと思うが、あまりに実力が離れすぎてると思うんだよな。俺は学校の体育くらいでしかテニスなんてしたことないぞ。

しかしそんなものは関係なく勝手に試合が始まった。一応ルールは保体のテストで覚えてはいるが、それとこれでは全く勝手が違う。

「とりあえずレシーブだから球を返す「スッパァッン!!」......砲撃?」

どうやら相手の女性は相当俺の事が嫌いなのか、凄まじい弾速でサービスエースが決まった。「......ぎは......す」など物騒な言葉も聞こえた気がした。果たしてテニスで人は死ぬのか。

そして次は鶴のレシーブ。先程までの速さは出ていないが、それでも相当な速さのサーブが鶴のすぐ横を通っていく。俺は思いっきり体が反応してしまったが、鶴は一切動かずにボールだけを見ていた。判定はフォルト。線ギリギリだったがナイスジャッジ。

「......うん。大丈夫かな。」

続くセカンドサーブ。サーブの威力こそ落ちたが、さすがは全国レベル。安定性も備えて回転を加えてきた。それに鶴も翻弄される。強い球が来ないと確信してきた相手2人が前に攻めてきた。そこに一閃。

「「「おおっ!!」」」

会場は鶴のフェイクとそのレシーブの速さに驚きの声が聞こえた。決して力任せな打ち方では無い。しっかりとスイートポイントを把握し放った。

「......頑張ろ?私も頑張るから。」

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