旅鞄には甘いお菓子と少しのスパイスを 7
正直修学旅行自体行きたくない生徒は一定数いると思う。団体行動が苦手な人達は尚更だ。高いお金を払って居たくもない人たちと一緒に2泊3日とかは地獄すぎる。その気持ちは分かる。でもそれをここまでのリスクを冒してまでやる理由は多分単純に行きたくないだけではない気がする。というかもし行きたくなければ休めばいいだけだ。親も学校に予告状紛いなものを出されるくらいなら休ませることは認めるだろう。
「ちなみに樫野校長の部屋にそれが来たのはいつですか?」
「ん?昨日だよ。」
「ありがとうございます。」
というと日にち的に行き先が京都に決定する前に手紙が出されたのか。今日京都へ行くことが決定したわけだし、確かに京都は最有力候補では事前に分かってはいたが、京都へ行きたくないなら京都と本決定するまで待つべきだし。というと目的地への文句では無い。修学旅行自体は前々から分かっていることだから、もし中止させたいのであればもうちょっと前から動き出せただろう。となるとメンバーに納得がいかなかったのか?
「......宇野?」
いやいや、まさか。確かにあいつの挙動不審感は否めないが、それならそもそも五十嵐に頼んでグループに入るわけないか。というかそんなピンポイントで俺の周りの人間になるわけないか。
「修学旅行に行きたくないのなら休めばいいから、そうなると休めない理由があるとか?それでいてあの時に決まってたのはメンバーだったからメンバーに納得ができてなかったとか?」
「可能性としちゃあるだろうが、班員構成は生徒任意。嫌なら変えられる。あの時狐神と廊下にいたが、班員決める際に揉め事みてぇな声はどこのクラスからもしなかったよな?」
「いや、俺そこまで耳良くない。」
「まぁいい。修学旅行が嫌ならもっと前から行動は出来る。普通は担任に相談するのが普通だとは思うが、どうやらそんな話は無さそうだな。」
2人の先生の顔を見て判断する。
「となると何か急な事情により旅行に行きたくなくなった、か。正直これも違う気がするな。とりあえず各クラスで変な動きがあった奴を片っ端から捕まえていくか。」
少し言葉はあれだが禦王殘の意見が通された。
そして話し合いが終了したあと、すぐに各リーダー達にその事が伝わった。やはりみな旅行が潰されるのはあまりよく思っておらず、協力の姿勢を見せてくれた。しかし何となく分かってはいたが、特に怪しい人物等は見当たらなかった。
「もしかしたらリーダーの中に犯人がいるのかもね。」
「協力を仰いだあなたがそれを言うのですか。」
樫野校長から直々に呼ばれ、各リーダー達からもらった情報を伝えた。しかしそれだけで終わらず、何故か校長室でお昼を一緒に食べさせられている。俺は母さんに作ってもらった鮭の塩焼き弁当、樫野校長はひじきと野菜のサラダだった。一応コーヒーを淹れてもらったから、退席はしないが。
......でも樫野校長の言葉に一瞬だけ嫌な予感が過ぎった。
『裏切り者がいるんじゃない。裏切る者がいるんだ。』
以前大鵠さんがそんなことを言っていた。禦王殘は一々気にするなと言っていたが、大鵠さんは嫌味なことは言うが、決して当てずっぽうな事は言ってないと思う。流石に結構前のことだから関係ないとは思うが。
「分からないよ?君たち旧生徒会、現生徒会は他のリーダー達より強い絆で結ばれているかもしれないけど、他の人たちはそういう訳では無いからね。」
「......例えば誰が怪しいと思いますか?」
俺の返答が少し意外だったのか、箸を止め、俺の方を見つめる。何となく今樫野校長が考えていることは分かった。ま前の小熊先輩と同じだ。誰が裏切り者であれば俺が面白い反応をするのか。
「てっきり『そんな人いませんよ』とか言うと思ったよ。でもそうか、確かに少しずつでも成長しているんだね。強固な信頼は強い武器になり得るが、それに妄信して弱さになってはいけないからね。例えば誰か、と言われれば、やっぱり不明瞭な人が1番怪しいかな。ま、でも今回はリーダー諸君ではないね。」
単純に俺のリアクションを見たかっただけということか。悪趣味なことで。
「樫野校長から言ったんじゃないですか。でも何でですか?」
雑だから、一言だけそう言った。俺も俺なりにその雑さとやらを考えてはみたが分からなかった。
「新聞の切り抜きだが所々にあるささくれのような後から左利きだと分かる。この文字だが新聞でこのサイズの文字には基本明朝体を使う。だがこれはよりにもよって行書体を使ってる。素人だ。ゴシック体でもどうかと思うが、行書体なんて見づらいものを市販には使わない。多分新聞を取ってない家なのだろう。でも今のご時世そんな家庭は沢山ある。そしたら都合よく近くで新聞を発行している場所、考える必要すらないけどうちの学校の新聞部とかだろうね。そして新聞部のコラムの一部を行書体で書いているそうだ。何が言いたいのか分かったかな?」
「......え、分かりません。」
「出来れば分かって欲しいなぁ。これを書いた犯人は簡単に足がつくような杜撰さを持っているということだよ。そしてそんな人はリーダーにはいないと思う。付け加えるならあの『犠牲が増える』という言葉の信憑性も薄くなるということね。」
実力を認めているからこその違うと断言できるのか。犯人までは分からずとも犯人でない人達は分かると。
長い話をしたからか、水筒の水をゴキュゴキュと飲んでいた。




