旅鞄には甘いお菓子と少しのスパイスを 4
クラスに戻ると既に班分けは終了しており、グループごとに机に分けられて話し合いがされていた。そして俺の席は......。
「宇野、榊原、五十嵐、嬬恋、京、白花。」
ちょっと待て、明らかにヤバい組み合わせが一つあるだろ。なんで宇野と五十嵐が同じグループなんだよ。元恋人よりも関係性で言えば悪いぞ。多分五十嵐が余ったんだろう予想は出来るが、だからってそれはないだろ。今だってずっと携帯のメッセージみたいなの見て話す気無さそうだし。うわぁ......座りたくねぇ。というか面子も若干謎だな、てっきり水仙はいると思ったが......見た感じ小原に吸収されたか。なんか小原にめっちゃ睨まれてるし。
「......はい、狐神彼方です。よろしくお願いします。」
榊原と白花は返事を、京と嬬恋は軽く会釈を、宇野と五十嵐はこちらに目線さえ寄越さなかった。今回は俺が完全に放置したから何の文句も言える立場では無いので甘んじて受け入れよう。しかし経緯は知りたい。
「水仙は向こうに言ったんだな。」
とりあえず身近な京に声を掛けた。
「......ん。小原さんが......絶対って......。」
やっぱりあの女か。どんだけ俺の事警戒してんだよ。
そして次は榊原へ。
「どうして宇野がここに来たんだ?」
榊原ともこのグループの他の誰とも仲がいいとは聞いていない。しかし答えはかなり意外だった。
「僕もよく分からないけど、五十嵐さんに『ここに入ってもいいか』って聞いてたよ。五十嵐さんも『好きにすれば』って感じだったけど。」
なんでそんなよく分からない理由で空気がこんなに悪くなんなくちゃいけないんだよ。
白花に目線を送る。
『頼む、どうにかしてくれ。』
『......まぁグダってても何も解決しないわね。』
「よし!じゃあ狐神君も来たことだし、京都のどこに行きたいかみんなで話し合おー!!まだ場所は決まったってわけじゃないけど、仮決定ってことでね。私はねー......」
そんな感じで白花がメインとなって話を進めてくれた。最初は気まづい空気が流れていたが、話し始めれば思いの外スムーズにいった。とはいえ白花だけに負担をかけていると、榎本に怒られもするだろうから俺も極力話には加わるようにした。俺がここにいる全員と一応関わりがあったのが幸いした。
宇野を除いては......。
「こんなふうに皆様とお話するだけでも楽しいですわね!宇野さんもそう思いませんこと?」
「......」
「せ、折角の旅行ですので、もしよろしければ宇野さんの行きたいところも教えて頂けませんか?」
「......」
嬬恋がわざわざ気を利かせて話題を振ったにも関わらず、宇野は何も聞いていないように無視を続ける。何の目的があって接触したかは知らないが、間違いなくみんなから良く思われてないだろう。しかもうちのグループにはそれを包み隠さない人がいる。
「あなた一体何様なの?わざわざ嬬恋さんがあなたなんかに気を利かせて声をかけてくれたのに無視するなんて。狐神君でさえそれを察してトイレに見窄らしく逃げ込んだのに、あなたは図太く居座ってる。はっきり言うわ、邪魔よ。」
俺の事を敢えて言う必要はないだろと突っ込みを入れたいが、流石にこの空気でそんなことは言えない。
「......よくもそんな大口叩けんな。俺を騙して陥れて、クラスで孤立してるお前なんかが。お前だっているだけで迷惑なんだよ。つーか口を開くなブスが、うぜぇんだよ。」
「あら、あなたって言葉を話せたのね。てっきり私みたいなブス女に振られてショックで話せなくなっちゃったのかと心配したわ。そしたらあまりに惨めですものね。」
「......黙ってろ。殺すぞ」
......地獄すぎる。ここまで来ると流石に白花も口が出せない。俺でも分かる、変に口出しすることはマイナスでしかない。本人たちもそれは察していた。
「......そうね、元はと言えば私があなたを騙した訳だし、あなたの怒りは最もね。今からでも他のグループに入れないか聞いてみるわ。」
そう言って席を立ち、遠井先生の方へ向かっていく。けれどそれを止めた手があった。
「五十嵐さんが、抜ける必要は無いと思います......。それに、理由は分からないですけど、五十嵐さんに許可を得て入ったのに、その態度は良くないんじゃないかな......」
いつもの榊原からはあまり聞けない言葉に少し驚いた。恋は人を変えるというが。しかしこれには宇野も黙っていない。
「......随分とかっこ良くなったな、榊原。」
別に榊原は間違いは何も言ってないのだからもう少し自信を持ってもいいと思うんだけどな。俺は禦王殘とか大鵠さんで慣れたからか、別に宇野を怖いとも思わなくなってきてるし。
「......止めた。これに至っては俺が100悪い。みんな済まなかった。ちょっと外の空気吸って落ち着いてくる。」
「お?」
そう言うと頭を掻きながら廊下へ出ていった。その表情には悔しさや情けなさが見えた気がした。あれだろうか、「五十嵐さんに未練がまだあって、それを忘れられないで今回同じグループになった。でもどうしても目の前にすると素直になれなくて、ついきつい言葉を言ってしまう。しかしそこに新たに榊原君という人が現れたせいで荒波はより激しく、そして清濁合わせた2人の感情が五十嵐さんという華奢な体に容赦なくぶつけられる。それはまるで」
「お前はいつも楽しそうだな。」
「あらゆるものが妄想を捗らせますからね!」
とりあえず一時の危機は脱した感じだろうか。
後ろでは「その手を離しなさい」と冷たい五十嵐の声が聞こえた。




