下らない暇つぶし 6
セパタクローの簡単なルール紹介。
『腕、手に触れてはいけない。
ボールは3回まで触れてよい。それが同じ人でも可。
サーブは決められた円から片足を離さずもう片方の足で蹴る。投げる人と蹴る人は別である。
特にローテーションなどはない。』
めちゃくちゃざっと言うとこんな感じ。ルールはそこまで難しくないがやはり求められるものはかなり高い。一回動画を見たが想像以上に激しいものだった。サッカーのオーバーヘッドを毎回やってるようなものだし、それをブロックする人もかなり痛そうだった。蹴った後は上手く受け身を取らないと背面から真っ逆さまだし。
「ほんとにこれ勝てるのかな、正直かなり不安。」
「......大丈夫だとは思うけどね。」
「ここで負けたら何か奢って貰いましょ。」
鶴とノアと話しながら開始まで待つ。いつぞやの過激派だろうか、後ろから視線を感じる。
『俺たちの鶴ちゃん、ノアちゃんと何楽しそうに話しているんだ。』
『違うんです。そんな気は一切ないんです。』
『二人と話してても何も楽しくないってか!?』
『違うんです。楽しいですけど……』
『やっぱり邪な感情じゃないか!!』
もういいや。無視しよ。
そして定刻となり向こうのサーブから始まる。恐らくサーブを蹴った人が部の人だろう。いきなりすごい速度で玉が飛んでくる。それを春風さんが何とか取ると、瀬田会長が上手くトスをし高く上げ、禦王殘が蹴る。
『バアァァン!!』
パルクールの人がそれを受けきれず弾かれたボールが壁に当たる。その速度は多分部の人より速い。パワーに物言わせた感じだろうが相手への牽制にはとても有効だろう。正直仲間の俺たちでさえ怖いくらいだ。
「......すごいね。禦王殘君。かっこいい。」
「いいわよー、もっとやっちゃてー。」
正直仲間の俺さえ怖いくらいだ。
基本アタックとブロックを禦王殘がやり、そのサポートを2人がやるといった感じらしい。禦王殘は身長も高いし脚も長いし体つきだけですでにかなり有利で、それを存分に活かしている。向こうもどうやらそれに対し技術で勝負を仕掛けてきてる。パワー、体格などのフィジカルvs技術。会長は負ける要素がないと言っていたが勝負は一進一退。これではどちらが勝ってもおかしくない気がする。
と思っていたら瀬田会長が一気に仕掛けた。俗に言うツーアタックをし、まんまと点数を取っていった。ツーアタックとはバレーで使われるもので、トスと見せかけて相手コートに直接落とすというもの、だった気がする。禦王殘の蹴りを受けとめるため、下がったところを狙った、というノアの解説。そして次の得点もツーで取った。ここで一気にバランスを崩しその後も得点が続いた。その途中では禦王殘が相手の腕を狙って当てたというものもあった。技術も普通にありそうだ。
試合は10点を2ゲーム行う。前半は10対6と勝利。しかしもしこれで向こうのチームが後半勝てば延長線となり、そうなるとこちら側に勝ち目はなくなる。こちらは交代できる要員などいないし、逆に向こうはベンチで肩を温めている。それに比較的ラリーが短いのが救いだがこれで向こうが持久戦なんかに持ち込んできたらもうそこで詰む。
「こーがみ。」
難しい顔をしてしまったのか、休憩中の瀬田会長に頭をわしゃわしゃされる。いかん、俺が不安そうな顔をしていればそれが3人にも影響するかもしれない。
「いいから黙って見てろ。少しは先輩らしさを見せてやる。」
そう言うと再びコートに戻っていった。
そして始まった後半戦。向こうはなんと全員メンバーを変えている。確かに多少なりとも体力は消費しているだろうが何も全員変える必要はないのではないのだろうか。しかしすぐにその理由がノアと鶴から説明される。
「ちょっとまずいわね。新しく来た人たちはボールを拾うのに特化してるって感じ。やっぱり体力勝負に持ち込んできたわね。」
「......点はこっちが有利だけど明らかにこっちが動かされてるね。多分これでこっちが疲労困憊になったらまたメンバー変えて今度は一気に攻められるって感じかな。」
点数は5対2。みんなの顔を見る限り最後までこのペースを維持するのは厳しそう。一体どうすれば、何かいい手はないのだろうか。
「.....でも」
「まぁ問題ないわね。」
「え、なんかいい作戦とかあるの?」
「作戦なんて呼べるものじゃないけど、強いて言うなら諸刃の剣ね。とは言ってもデメリットはあんまりないのだけれど。」
ノアが指さすほうを見ると丁度春風さんがトスを上げる所だった。けれど先ほどと違うのは禦王殘のいる位置だった。先ほどはネットの前にいた。というかそれがセパタクローの普通だと思う。けれど今禦王殘がいる位置は。
「何で2人よりずっと後ろに?なんならコートから出ちゃってるし。」
そして春風さんが高めのトスを上げる。これも先ほどまでと違いネットよりかなり手前だ。そして後ろで構えていた禦王殘が勢いよく駆け出し、まるでメキメキと音がしそうなほど踏み込むと凄まじい高さまで跳んだ。ネットよりも高く飛び捉えたボールはまるでサッカーの世界大会で見るようなボレーシュートのようだった。ボールはギリギリコート内に入り凄まじい爆音を響かせバウンドし、またこちらのコートに帰ってくるほどだった。
「......もしこれが取られたらこっちは返せない。でも打ち合いを続けるより体力を温存できる。つまり決まれば得点を得られるし、決まらなくても体力の減りがさっきより少ない。」