手折られた秋桜 20
「あのウェディングドレスの子って名前なんて言うの!?」
「確か2年生の水仙て人だよ。あの馬って結局誰だったのかな?」
「いや、馬はどうでもいいわ……」
なるほど。
「将来あんな子と結婚出来たら死んでもいいわ。」
「お前はあの馬と付き合うのが関の山だろ。」
「マジであの馬なんだったんだし。」
なるほど。とりあえずは俺の正体はバレずに住んだらしい。橄欖橋先輩と様子を見に行った時に深く帽子をしていたことが幸いしたな。とはいえここで俺がまた同じ役職に戻れば直ぐにバレてしまう。今度は走者の衣装回収の仕事に入った。
残り気になる人としては京くらいだったため、そこまでは粛々と仕事をこなした。やがて最終レーンに京は姿を現した。水仙としてはここで京のことを応援する予定だったが、流石に先程のダメージがあったのか、未だに顔を赤くしている。まぁ無理はないか。
そして京がピストルの音にめちゃくちゃビクつきながら走り始めた。何となく分かってはいたがレースは最後方。みんなが取り終わった箱から紙を取り出し部屋に入る。先程の水仙のことがないように衣装係にはきつく言っておいた。俺から言われたことに不服そうな顔をした者もいたが、「水仙にあんな顔させたかったのか?」と言うとみんな押し黙った。
思いの外今回のレーンはみな衣装に苦戦しており最後に入った京もみんなとほとんど同じタイミングで出てきた。
「袴か。」
和服は着るのに大変時間はかかりそうだが、後で聞いた話だとある程度セッティングができている簡単に着付けできるものがあるらしい。それだと初心者でも割と直ぐに着れるとかなんとか。靴は草履ではなく革ブーツを履いていた。ハイカラ、というやつだろうか。
京の姿を見た観客は水仙の時と同等の盛り上がりを見せた。その声にまた転げそうになりながらも必死に残り100メートルを駆けていった。
「龍ちゃん可愛いよー!!」
と先程とはうってかわり、水仙も元気を取り戻していた。その声に京が手を振りまた観客がどよめき京が困惑する。最早決まりきった流れなのだろうか。
やがて京も4着でゴール。京の運動神経なら上々だろう。
「お馬さん……来て……なかった。」
「……何言ってんだ?早く脱げ。」
何となく勘づく人には気づいてしまうものか。変装は割とよかったと思うんだがな。暴力事件解決の時もそうだが、京は変なところで勘が働くからな。
「……イジワルな……白馬の王子様。」
「お前実はSっ気あるだろ。」
横に首を振る京だったが、存外的外れでもないだろうなと感じていた。
現在うちのクラスは6色中4位。他学年も勿論関係はしてるがそれでもうちの学年から見れば良い順位だと思う。1位は4組と11組の白組だった。とはいえその差も大きなもの出なく、残す3つの競技で全然挽回は可能な範囲だった。俺自身に勝ちにそこまで興味は無いが、以前のテストよりあった特権などがほぼ確実に関わる以上、例年以上にみんな勝ちは狙ってくるだろうな。
そしてラスト3つは怒涛の盛り上がりを見せ、その1つ目、騎馬戦が始まろうとしていた。普段お淑やかな女子が荒ぶる姿も盛り上がりはするが、やはり男子のそれには敵わない。最初に女子パートが終わったが、結構あっという間に終わった感がある。前座とは言わないが女子もそれは分かっていた。
そしていよいよ男子の番。この競技は学年一切関係なく、各色40近い数の騎馬が真正面からぶつかり合う。一昨年などの映像を見させてもらったが、その迫力は普通に声が出るくらいに興奮したものだった。
俺たちが戦うのは黄色と黒色。流石に全色と戦う時間も体力的余裕もない。そして俺の騎馬は上が宇野、下に俺と小淵と仁志の駒だった。宇野自身は野球部のエース的ポジションでもあるから戦力としては強いと思う。だが俺と小淵はそこまで体力に自信があるわけじゃないから、3騎ほど潰せればいいと思ってる。
その結果。
「騎馬が躓いて1歩目で敗退なんて聞いたことねぇぞ!!」
「すまねぇって……」
「まぁ、別に小淵もわざとじゃないだろ。確かに俺たちは負けたが色としては勝ったし、今はそれで終わりにしよう?次にきりかえようぜ。」
「仁志は優しすぎる気がするけどな。まぁいいや、次はしっかりやれよ。」
今回は珍しく俺ではなく小淵のミスにより最初から事故した。俺は別になんとも思ってはいないが、確かに上に乗る陽キャからからすればイラつくことなのだろう。特に熱血系運動部は。
「で、なんでわざと転んだ?」
一応は2人には聞こえないように小淵に聞いてみた。俺は後ろだったし何となく小淵の様子が変だったから気にはなっていた。確信はあるし、それは小淵にも十分伝わったようであまり抵抗することなく話した。
「……苦手なんだよ、こういうガチのぶつかり合いは。全員参加だから辞めることもできねぇし。だから多少は責められてもこっちのがマシだと思っただけだ。あいつらに言うのか。」
「いや、別に言わないが。俺だって全員参加じゃなきゃ絶対にこんなの参加しないし。痛い、疲れる、勝っても特に嬉しくない。参加する理由が思い当たらない位だ。」
とはいえ日陰者だけがいる体育祭などない。
「でもそうじゃない人もいるだろ。高校生なんだし、この日にいろいろ勝負を仕掛ける人だっているだろうし。そいつらの覚悟まで俺たちが踏み躙るのはどうかとは思う。1回既に迷惑かけたんだから、2回目はせめて全力でやってやれよ。」
「……お前、変わったな。でも、確かにそれはそうかもな。」
変わったのかな、自分自身ではよく分からない。でも面倒くさいと言いつつ参加はしてるし、手を抜くこともしてないから変わったのかな?
「ハチマキし忘れて即退場とか聞いたことねぇぞ!!」
「すまねぇって……」
結局俺らは黄色の誰とも争うことなく勝負が終わった。そして続く黒組とはそれなりに戦ったが2騎ほどを倒すとこちらもハチマキを取られ負けてしまった。色としては黒に負けて黄色に勝った、そんな感じ。
他の騎馬も見たかった気持ちもあったが、俺らも参加してるとなるとそんな余裕はなかった。そして他の色ではやはり運動神経が秀でている人達が勝利に多大に貢献していた。




