手折られた秋桜 18
俺らの色は良くも悪くも安定性があり、バランスは取れていた。しかし爆発力のある人が来るとたちまち陣形などは崩れ敗北を喫した。勝敗は2勝3敗。他の色も勝ち負けあり抜きん出ているところはなかった。
続く竹取物語では女子たちの激しい攻防が見られた。竹を取り合う姿はバーゲンや年明けの福袋などを取り合うおばさん達を想起させられたがそこは黙って見届けた。俺は竹が自陣に入ったかどうか判定する係だったが、特に厳密に見ずとも半分近く入ってれば旗を上げてそれだけだった。普段女子がここまで砂まみれになることはあんまり見られないため新鮮味もあったし、これは競技としても普通に面白かった。特にお互い竹の数が同じで残り1本を取り合うところはサバンナに生き抜くハイエナを彷彿とさせる、俺たちがいかにしてご飯を簡単に手に入れることができるかを改めて感じた社会風刺画にも見えた。
続く六つ巴綱引き。これは6方向に結ばれた縄を引っ張る競技だか、多分六つにも別れているのは珍しいと思う。この縄を作成した時が一番時間がかかった。普通の綱引きとは違い、1つの縄を引っ張る人数は7人と少ないが、これを6方向なのでそれだけで42人集まることになる。そしてこの競技の最も難しいのは、1色が勝ちそうになった時、他の色が場所を少し移動して勝っている色の反対側に移動することが出来る点だ。それをすると勝っていた色は直ぐに元の場所に戻されてしまう。勿論各色移動できる範囲は限られてはいるが、それでもこの競技で簡単には勝たせてはもらえない。事実タイムアップまでかかったグループはいくつもあった。
そして先程までの激しい競技から小休止、半分お遊びに近い着ぐるみリレーの順となった。こちらは得点も他の競技より圧倒的に少なく、ほとんど点差はつかない為気楽にやる人が多い。ただ条件という訳ではないが着ぐるみを着る以上、俺や吉永などの男は基本的には出れず、可愛らしい着ぐるみというかコスプレというかをしても許される人が参加する。そのため出るのは基本的に女子、もしくはネタ狙いの陽キャ男子くらいだろう。前に京と水仙が出ると言っていたがあの二人はなんの問題も無いだろう。寧ろ最適解に近いものと言える。
レースが始まると50メートルほど離れた箱に向かいそこで中から紙を取り出す。書かれたアルファベットの簡易的な部屋に入り、そこで着替えて100メートル先のゴールを目指す。この競技の点数が低い理由の一つとして、着替えに掛かる時間が平等ではないからというものがある。以前の資料だと着物の巻き方、体型のせいで服が合わないなどの問題があったようで毎年色々試行錯誤しているらしい。競技を廃止すれば?とも思うのだが、男女共にこの競技は人気らしく、どう至ってもその結論には辿り着かないらしい。
今回俺はゴールテープを持つ人を担当している。しかしなかなかの暑さになってきたため、帽子を深く被ってそこに立った。やがて第一走者の準備が出来、俺と橄欖橋先輩のゴールテープの準備も完了する。そして間もなくピストルの音が響き、こちらに向かって走り始めた。
「……桜いんのかよ」
桜はダンス後も変わらず元気な姿で着替えに入った。そして間もなくすると勢いよく飛び出てこちらに向かってきた。その格好はカエルのレインコートとカタツムリのイラストが大きく描いてある傘。小柄な人には可愛くも見えるのかもしれないが、少なくても桜は可愛くもないと思うしただひたすらに暑そうだった。
「あ゛っづいよ!!この気温で通気性ゼロは本当に良くないと思うよ!!カエルの蒸し焼きか!?」
「俺に文句言うな。準備した奴は知らんが俺ではない。」
「無理無理!もう脱ぐ!!でも3位かぁ。まぁいっか。」
点数が軽いのもあって、みな桜のようにあまり順位は気にしていなかった。
そして注目株、1番か2番人気の水仙がコースに入った。その瞬間に明らかに観客の熱量が上がった。しかし当人は水仙としては応援している京を近くで見たい一心らしく、周りの人間がそこまで期待していることを自覚していないらしい。
「よーいスタート!」
水仙は2着で箱までたどり着くと『F』と書かれた部屋に入っていく。そして他の人達も続々と各部屋に続いていく。
「ん?」
その時部屋の後ろの方から「水仙さんどこ?」「『F』入った!」「早く早く!!」など、明らかに水仙に着させる為なのであろう服を入れているのが見えた。袋に入っていたため、何の服かまでは見えなかったが、明らかに平等性に欠ける行為だった。
「まぁいいか。別に水仙に悪いことしてる訳じゃないだろし。」
「楽しみだね~」
「そうですかね。」
もう一方のゴールテープを持つ橄欖橋先輩は思いの外この競技を楽しんでいた。
しかし2着で入ったにも関わらず、8着の人が出た現在もまだ水仙は出てこない。流石に遅いと思い、1着の人がゴールテープを切ると、俺と橄欖橋先輩は水仙の元へ向かった。その時には既に最後に入った人も出たあとだった。