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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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手折られた秋桜 11

そしてようやくここで午前の部が終わり、昼食となった。

父さんと母さんは海沿いにあるレストランを予約しているため、そちらでご飯を食べて帰るそうだ。高校生にもなっていつまでも親がいると何となく嫌だという思春期の男子の気持ちを分かってくれている。それに俺が普通に体育祭に参加出来ているのも確認出来たことというのもあるだろう。競技中、視界の端で両親と遠井先生、樫野校長が話しているのが見えた。何を話していたのかは聞こえなかったが、なんとなくの予想はつく。

とりあえず時間は限られているので持参したおにぎりを持ち、『運営委員会』と書かれたテントへ向かう。そこでは既に生徒会メンバー達と先生がご飯を片手に話し合いをしていた。

「すみません、遅れました。」

「あぁ、狐神か。丁度今から午後の部の確認をしようとしていたところだ。少し行儀は悪くなってしまうが昼食を摂りながら聞いてくれ。それでは改めて確認するぞ。」

式之宮先生の指示の元、午後の動きを改めて確認した。基本的には事前打ち合わせとほとんど同じだったが、予想していた人数よりも来場者の人が多い。一応生徒に入場券を渡して、その関係者しか来れないように取り計らっているが、それでも母数が母数だ。分かってはいたが、色んなところで迷子だの紛失物の報告をいくつか俺も貰っている。基本対応は先生に任せてはいるが、先生方もかなりギリギリの対応らしい。もしかしたらこちらにも先生たちの対応が振られるかもしれないとのこと。午後からは太陽達や瀬田さん達と話すことは難しそうだ。

「あぁ、それとそうだ。午後から各競技にて応援団とチアリーディング部の応援が始まる。特に私たちに任せられている対応は無いが、先程決まった内容だったら一応共有しておく。」

応援団とチアリーディング、明石と京か。.......京か、まぁいいや。先生も言ってた通り俺らの対応はないし、あいつも普段の部活の応援で大人数には多分慣れてるだろ。


やがて昼食の時間は終わり、放送部が後半のプログラムの案内をし、そのままの流れで保護者会から挨拶が入った。正直これは保護者に向けた話が主であるため、俺ら生徒はあまり話を聞いていなかった。まぁ俺は特にそれどころではなかったわけだし。

『続きまして、各色によるマスゲームとなります。こちらの競技に関しましては、得点となる競技では無いため、各色楽しんでご覧頂ければと思います。』

「ついにこの時が来たね。準備はいい!?」

「それはダンスのってことか?それとも例の件の答え合わせって事か?」

なんだろう、普通であればこの後女子高生とダンス踊るっていう人生で最後になるかもしれないチャンスにとても心踊らない自分がいる。

「どっちもだよ!!まぁ私と密着した状態だと、ダンスも推理もままにならないかもしれないけどね!ドキドキしちゃってね!!ね!!!」

「そうだな、多少でもドキドキしたいものだな。.......ちなみに桜は俺と手を握ることに対して何か感情が動いたりするのか?」

普通他人の手や身体に接触することは、嫌悪感がある人が比較的多いと思う。また嫌悪感とまではいかなくてもマイナスなイメージ。特にそれが女子から男子に向けたものだと尚のことそのマイナス要素はありそうだが。

「そうだね、確かに実篤君以外の男子に触れる機会はしばらくないかな。でもねー、ドキドキしてるよ!!」

「そか。」

相変わらず元気な笑顔でそう言った。けれどきっとそのドキドキはこの男子高校生と踊るシチュエーションや、推理の成り行きだろうな。別に俺にときめけ、なんて全く思ってもないが、その笑顔は一体誰に向けた笑顔なのだろうか。

各色甲乙つけ難い見事なダンスを見せた。特に3年生の一部やダンス部所属の人達はソロパートなどで圧巻の演技を見せた者もいる。特にブレイクダンスというものか、ダンスに至っては俺は全くの初心者だが、どうやったらそんな動きが出来るのか、本当に同じ人間かと思わされた。そしてやはりダンスを踊る人の中には、頬を赤らめお互いのことを真っ直ぐに見れないペアもいた。恐らくきっとそういうことなのだろう。隣の女子はそれを見て目をキラッキラさせている。きっとこいつだってそっち側に行こうと思えば行けただろう。どうしてこちら側の汚い方に来てしまったのか。

「ねぇねぇ!!今回のマスゲームで何組のカップルが出来たか知ってる!?」

「知らんが15組とか?」

「ううん!なんと30組も出来たんだって!!すごいよねぇ~、それって60人が幸せになったって事だよね。憧れちゃうなぁ。」

「......なりたいとは思わないのか?向こう側の人間に。」

俺の問いかけに少し時間を置いて彼女は答えた。

「既に答えを得てる君なら、私がそれになれるかどうか、分かるよね?」

そうして俺らのダンスがいよいよ始まる。

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