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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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手折られた秋桜 9

白花のレッスンを見たり、ライブの練習中に見ていて思ったが榎本も運動神経は悪くないと思っていた。しかし白花が芸能界の連中に襲われた時、確かに「私は普通の女の子」みたいなことも言っていた気はする。けれどそれはないと思う。

「マジか……」

いや、なんというか……。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

すっごい一生懸命に走ってるのは分かる。でも本当に言いづらいんだが……おっそい。遠目でも何となくその原因は分かる。足がどしんどしんと重たい、足ばかり見ている、拳に力が入っている感じ恐らく上体に力が入りすぎてる。

俺も足は遅い方だったし、今でも速いとは思わないが、それなりに調べて実践はしたから何となく分かる。あれは典型的なダメな走り方だ。しかもああいう人に限ってきっと無呼吸で走ってると思う。中長距離ではないにしろ、あの足の遅さで無呼吸だとかなりキツイのではないだろうか。

周りの観客も何となくそれを察したのか、「いけー、そらちゃん!」から「とりあえずゴール目指そう!!」とか「大丈夫!ちゃんと頑張ってるの分かるよ!!」なんてものに変わっている。そして榎本の目には若干の涙が見えた気がした。

その間にもどんどん抜かれ差は開き、榎本がバトンを渡す頃にはみなだいぶ先を走っていた。不幸中の幸いというのか、予めクラスメイトは榎本の足の遅さは把握しており、渡した人は結構な速度で前の集団を目指して駆けていった。

バトンを渡したタイミングでへばった榎本に掛ける言葉が見つからない。

「……狐神先輩。」

「はい。」

「……みんながいじめてきます。別に足が遅いことは悪じゃなくて個性だと思います。」

「……そうだね。」

「……私だって、好きで……足が遅い訳じゃあ……ダンスは練習すれば何とかできるけど……うぅ……ヒグッ、エグッ……」

「分かってるって。それをみんなで補い合ってこそのチームだろ。信じろよ、みんなを。」

「……今何位ですか?」

お前のせいでぶっちぎりの最下位だよ、なんて言えないだろ。普段ならまだ言えたかもしれないけど、今の榎本は演技抜きのガチ泣きなんだぞ。

「……頑張る姿に打ちひしがれたよ。」

「うわぁぁぁん!!だから体育祭なんて嫌だったんですよ!!」

なんでだろう、今この瞬間だけは榎本を抱きしめて慰めなければという気持ちが湧いてきた。これはあれか、俗に言う父性と言うやつか。

そしていよいよアンカーの番が近くなってきた。順位は前に人数が固まり、榎本含む10組がかなり後方にいる。一応アンカーは400メートル走るから挽回出来る可能性はある。……そう、あいつならその可能性はある。

「さて、お手並み拝見かな。」

各クラスのアンカーがバトンを受け取り、巻いた襷とハチマキが風に靡く。先頭が100メートル程進んだ頃だろうか、ようやく10組の最後のアンカーにバトンが渡された。

そして今日一番の歓声が上がった。

「……まぁこの位はやってもらわないと、名前を捨てさせるしかないわね。残念、折角理由をつけて返せると思ったのに。」

どうやら1年10組のアンカーは何位でバトンを回してもらっても良かったらしい。ただその瞬間に負けてなければ。100メートルの差など大したことは無い。しかもそれがこんな平和馬鹿しか居ないような国の人間。ハンデにもならないと。

1年10組、2位と100メートルの差をつけて優勝。最終走者、krut・anhelo・starkaiser。

400メートル全速力で走ったにも関わらず息は切れておらずその顔に喜びなどもない。淡々と仕事をしただけ。そんな印象。

「王の系譜をなめんなよ。」

誰に言った言葉ではなかったが、改めてこいつの凄まじさを痛感した。そして同時に思った。それよりも上位の位置にいるノアは一体どれ程すごいのだろうかと。

「1つ、言っておく。」

俺を指さして敵意剥き出しに言った。

「ノアさん、と言うよりかは歴史の中のvaisの名を持つ者は、一般にその実力を厳しく制限されている。あの人と隣立つなんてゆめゆめ思うなよ。」

「中二病かな?」

「お前らとは世界が違うっていう点では間違ってはいないかもな。」

ノアとどのような話をしたのかは知らないが、今日はいやに殺気立っている様子だった。ある程度成果を残さないと本国帰還命令でも出されているのだろうか。


そして次は大定番である借り物競争。これに至っては特に話すことはなかった。出された課題を持っている人を探しゴールする。これには保護者や外部の人間が密接に関わるため、どうしても慎重になり、思い切った借り物というものは出来なかった。『帽子を被った人』や『サングラスをつけた人』『アロハシャツを着た人』。まぁ休憩時間としては丁度良かった。しかし正直時間の無駄感があるので来年からは廃止して欲しいな。

それはたまたま近くを通った一応校長も零した。

「狐神君、これ誰得?」

「仮にも校長がそれを言ってはいけないでしょう。」

「つっまんないね。」

やめとけ、教育委員にやられるぞ。

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