手折られた秋桜 4
何となく桜の目的が分かった。でも同時に分からないことも生まれた。
俺に接してくる理由。そして夏休みの3人組。これらも同時に解決した方がいい気がする。
「狐神?」
深く考え込む俺を飯島は心配そうに見つめてくる。そこには俺に害をなす気など全く見られない。恐らく荒井と飯島はもう普通にいい人という目線で見ても問題ないだろう。多少の警戒はしておくが。
「……いや、大丈夫。じゃあ俺はこれで行くよ。」
授業の予鈴が響き、俺と2人はそこで別れた。
「あ、式之宮先生。五十嵐怪我したので保健室居ます。」
「ん?分かった。……君が介抱したのか?」
そりゃあ式之宮先生だって驚くだろうな。しかも仲のいい女子ならまだともかく、普通に仲が険悪な奴だしな。
「いえ、嫌がらせと面倒事を押し付けただけです。」
「君が他人に対してそんな無意味なことをするとは思えない。とりあえずありがとな。さぁ授業を始めるぞ。」
本当にこの人には敵わないな。
式之宮先生の授業を受けつつ、夏休みの3人組について考えた。その3人がもし実在するとして、目的は何だったのだろうか。それは鶴の父親に関係するのだろうか、それとも全く別件でたまたま鉢合わせしてしまったのだろうか。でもさすがに俺の体調不良と強盗に鉢合わせるなんて可能性はほぼないか。鶴の父親と関係することだったと考える方が妥当か。そうなるとどうして強盗のタイミングに合わせて来たのか。合わせてきたということは父親の動向を知っていたということになる。例えば考えられるものとしては、鶴の父親のことを憎んでいて、強盗のタイミングに合わせて警察に電話、逮捕してもらうというのがあるがそれは無いだろう。そもそも警察は帰ってきた母さんが呼んだと聞いている。そうなると一緒に強盗をしようとしたとか?でも高校生が昼間から3人で強盗に来るか?正直考えにくい。それに気になったのは鶴の父親からはその高校生達の情報が何も出なかった。そこだけ考えればそもそも接触していないことになる。でもそうなると目的がさらに分からない。そもそもあの事件は鶴の父親が起こした事件で完結している。そこには一切他者の関わりが見えなかった。だからこそ本当にその3人がいたのかという話になっている。
「じゃあ狐神、この『あらゆる』の品詞は何になる。」
「えと、直後の『物体』という体言を修飾してるの連体詞です。」
「そうだ。あまりボーッとするなよ?」
「はい、すみません。」
一旦授業に集中することにした。
授業後、式之宮先生に少しお呼ばれした。とはいえ別に説教という訳ではなく、単純に俺が思い悩んでいることを慮ってくれてのことだった。とはいえ一応桜の忠告通り、心苦しいが式之宮先生にも事情は話しはしなかった。式之宮先生だって俺の大切な先生だ。
体育祭まであと1週間となり、昼休みは多くの生徒がマスゲームの踊りを練習しに校庭や空きスペースに出ている。多くの生徒はそれを楽しみにしており、初々しい男女の姿があちらこちらで見られる。ランダム抽選も先日終わり、みんなが本格的に体育祭に向けて動き出した。そしてそれは俺らも例外では無い。
「それで進捗どうかな!?分かった!?私が君に近づいた理由!?」
「……まだ微妙なところだな。」
音楽に合わせながらステップを踏む。まだ動きはぎこちなく、たまに桜の足を踏みそうになる。
「でも私が見てる限り、今回は全然協力してないんだねー。大丈夫?難しいんじゃないかな?」
「じゃあヒントの1つも欲しいところだな。」
「それはダメだよ。ルール違反になっちゃうもん。」
もんじゃねぇよぶっ飛ばすぞ。お前だけ先に破ってて今更だろ。
正直他の誰かならもう少しまともに踊る気にもなるんだが、こいつ相手にそこまでの時間を費やしたくないんだよな。瀬田さんたちが来るから一通り踊れるようにはしなきゃだけど、どうもやる気が出ないな。
「どうもやる気を感じないですね〜。じゃあポジティブに行こうよ!!私が君に惚れてて誘った可能性もあるかもよ!?それでいざ話そうとしたらやっぱり恥ずかしくて隠しちゃってる!!それでそれで!!本番のダンスの中で君に告白するの!!『ずっと前から好きでした!!』キャーー!!!!」
「生理的に無理。」
「いいじゃん!!ロマンチックだよ!?」
「言語は理解できてるのに会話が成り立たないとは……。話を変えるぞ。荒井と飯島は否定したが、夏休みに俺の家を訪れたりしたか?3人で。」
先程の馬鹿みたいなテンションがまだ抜けておらず「えへへ、えっとね〜……」とだらしない顔をしている。
「うん、行ったよ。でも一緒に行ったのは実篤君と道子ちゃんじゃないよ。それ以上は教えてあげない!」




