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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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下らない暇つぶし 4

桜が緑色に染まり始めたと感じた頃、父さんから言われたことがある。

「本当にダメだと思った時、大切な人の顔を思い出してみろ。父さんや母さんや此方(こなた)でもいい、尊敬できる先輩でも、好きな子でもいい。人間案外簡単でな、その人を思ったら何故か頑張れるんだよ。」

あの時は涙と嗚咽で上手く言えなかったけど父さんにちゃんと伝えたかった。

「精神論マジで嫌い。」

よく分からないがペナルティとして課された10kmを16分に走りきるのはいくらなんでも絶対無理だろ。因みに何でこの時間になったかというと。

「世界最速は100mを9.58じゃん?つまり10kmは15.9分あれば走れるじゃん?……じゃあ狐神君?」


「無理じゃボケー!!」

「おつかれおつかれ。で、鶴何分だった?」

「……42分ちょい。」

「おほー、普通にいいじゃんか。ノアから聞いたけどやっぱり自分なりに努力はしてるんだな、よしよし。」

瀬田会長に頭を撫でられるが全く嬉しくない。でも振りほどく余裕もないくらい息が上がっている。正直喋ることもほとんどできない。

何となく予想出来たがその後のご飯は俺の口を入って出てのキャッチアンドリリースの繰り返しだった。寄せてはかえす波模様。


「分かってるとは思うが今回お前は技と言うよりひたすら体力を上げてもらう。鬼ごっこもバスケも間違いなく体力が求められる。そしてお前も自分なりに何かやってるみたいだがそれだけじゃ無理だ。」

今回の指導は瀬田会長直々だった。

「お前のは固いんだよ。瞬発力や筋持久力はあるかも知れないが素早い動き、反復横跳びなんかあんま得意じゃないだろ。」

よくそんなとこまで分かるな。確かにただ走るや一瞬力を入れることなら平均くらいはあると思うが、例えばパルクールみたいなのは絶対できる気がしない。今回の鬼ごっこなんかも正直不安でしかない。

「だからそれをそれを(ほぐ)すために野山を走るのが一番いいんだよ。てなわけでこれだ。」

あら可愛いウサギさん。リボンまで付けちゃって。


「無理に決まってるだろドアホ!!」

あのリボンを付けたうさぎを放つからこのだだっ広い山から探して捕まえてこい?そもそも見つけられないし捕まえられる気がしない。見つけても当然追いつくわけない。罠も待ち伏せも前提を壊すからダメとなると走り回る他ない。

そのままお昼を迎え昼ごはんを食べた後直ぐに捜索再開。何度か見つけはするがやはり逃げられる。くっそ今夜のご飯は絶対ウサギ鍋にしてやる。俺の血肉となれ。


「つ、捕まえて……き……」

最後まで言葉が続かずその場に倒れる。施設の前でボケーッとしてるところを何とか捕らえた。俺の手から離れたウサギはピョンピョンと跳ねて一直線にノアの胸に飛び込む。「お疲れ様。」と言っているあたり彼女のペットなのだろう。クソ、今夜のお夜食は勘弁してやる。

「……狐神君もお疲れ様。はい、お水。」

「鶴は本当にいい子だな。いいお嫁さんになれるよ。」

俺としては冗談半分だった台詞だったが、鶴は一瞬顔を曇らせるとどこかへ行ってしまった。

「……私はいい人じゃないよ。」

それだけ残して。


夜食を食べ終わった後、昨日と同じように各々が好きなように過ごした。俺はジムみたいなところで己の筋肉を喜ばせようとも一瞬考えたが、星がとても綺麗だったのでバルコニーでしばらく空を眺めていた。 空気も澄み、標高も高いので都会なんかでは到底見られないほど星空は綺麗だった。

「眠れないの、狐神君?」

「まぁそんな感じですね。春風さんは?」

「何となくかな。ねぇ狐神君の知り合いにカワイイ子いない?色々発散したくてさー。」

ほんとにこの人は……。

「一応クラスですと水仙、白花、(かなどめ)鏡石(かがみいし)とかですかね。4大美女なんて言われて多分調子乗ってるのでいつか潰してやりたいです。」

「おかしいな、美桜ちゃんと小石ちゃん、(もみじ)ちゃんは勿論知ってるけど、京って子は全く知らないな。帰ったら調べてみるか……。でも残念だけど美桜ちゃんは彼氏持ちだったし、小石ちゃんはちょっと無理かな。椛ちゃんは、まぁ、違うかな。」

これは少し意外。水仙は分からなくもないが、白花にならガンガン行くと思ってたのに。鏡石は同族嫌悪とかそこら辺だろうか。

「水仙と淀川の関係なら俺が仲をぶち壊しましたよ。それで何で白花は無理なんです?倍率高いからですか?上玉相手にビビっちゃったんですか?」

「喧嘩売ってるのかな。そんなんじゃないよ。前に直接話したんだけどね。すごくいい子だったよ。……完璧なまでに。」

流石は場数はこなしているだけある。あいつの演技を見抜いているらしい。実際白花の話を聞いてるだけじゃ『演技に決まってるだろ』と思ってても実際目の前にしたら見事に騙される。相手に期待させること、それがあいつの特技。

「彼女は全く僕のことなんて見ていなかったよ。興味もないって感じ。少なくても僕の手には負えない。そういう事さ。」

この人が無理というなら並大抵な人は無理なのだろう。いつの日か白花が本当に好きになれる人というのは現れるのだろうか。そんな事を一瞬考えたが馬鹿らしいのですぐに忘れた。

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