宵宮や明日に繋げゆ謀 13
選挙の時は直接的に大鵠さんが働きかけた。しかし今回はあくまで俺と桜で動いている。直接大鵠さんが動かないということは、あくまでその事件とやらは既に解決したということだろう。
「つまり今回の件をまとめると、桜達が大鵠さんのデメリットとなり得る事件を起こそうとした。その事件の確認といった感じか。」
「もう1つの懸念点はそれだと狐神は全く関係ないってことね。大鵠先輩がただ狐神を利用した可能性がないことも無いけれど、きっとどこかしらで繋がっているとは思うわ。」
確かにそれはそうだ。もし本当に俺と無関係であればそれこそ選挙演説なんてめんどくさいことはせず、直接言いに行った方が遥かに理に適っている。
しかしそこまで追求する時間はおそらく無い。
「今回大鵠さんから課されたことは『桜達が俺に何をしたか』それを当てるものだった。結論としては『何もされることはなかった』これでいこうと思う。もし残り時間で何をされそうになったか、まで調べられたら調べてみるよ。幸い多分事件自体は既に終わってるから、そこまで危機感は無く動ける。」
「……そうだね、とりあえず課題は達成出来ればいいかな。」
仮にこの予想が当たっていなかったとしても、罰は壬生先輩と踊るだけだ。今までの罰などに比べれば遥かに軽いものだろう。
学校から帰り、今日も普通にご飯食べて風呂入って体鍛えて勉強して寝る決まったルーティーンかと思ったが、今日は違った。家に帰って制服を脱ごうとした時、俺の携帯が震えた。それは繰り返しバイブで鳴った為、そういえば電話が来た時はこんな動きをしたなと思いながらその画面を見る。
『戌亥天穿』
「桜のこと、かな?」
そのくらいしか要件は思い当たらない。まぁ特に警戒する必要もない相手だし、普通に出るか。
「もしもし、どしたの?」
「あ、すまない、1組の戌亥だ。今時間大丈夫か?」
「うん。丁度学校から帰ってきたところだから大丈夫だよ。」
電話越しに誰かと話しているのが一瞬聞こえた気がした。
「あー、家着いたところ悪いんだが今から少し会えないか?確かマスゲームの申請期日、明日だよな?それまでに話しておきたい事があるらしくてな。」
「全く構わない。どこに行けばいい?」
場所は近くのカラオケだった。そこで軽く夕飯を食べながら話をするようだ。戌亥の他にも人はいるらしいんだが、その人とは会った時に紹介するとのこと。
俺は母さんに急遽ご飯が要らなくなったことを謝り、制服のままそのカラオケへと向かった。
「すまん、ちょっと時間かかった。」
「いや、俺の方こそ悪いな、急に呼びつけちまって。とりあえず座ってくれ。」
ソファには戌亥と貓俣が横並びになっており、机の上には少し大きめのタブレットが置いてった。カラオケの部屋は少し暗く、画面は黒いままだが、端っこの方に『接続済み』とあった。確か映像越しのミーティングなどで使われるやつだった気がする。
「マスゲームのことって言うと、桜に関してって事か?」
「あぁ、その件についてなんだがそれについてお前と話して欲しい相手が今向こうで待機してる。相手は悪いが匿名で俺らもほとんど知らない。……じゃあ早速映像と音声入れるぞ。」
そして『ブツッ』と小さな音が響くと、画面越しから少しだけ物音がした。カメラはオフになっており、音声のみこちらに届いた。
「もしもし、聞こえていますか?」
「……あぁ、感度良好。問題ない。」
声もボイスチェンジャーでも入れているのか、男とも女とも取れない声だった。こんな徹底的に身分を隠す相手とは一体誰なのだろうか。
「改めて確認するが話すのはあいつらのことだけだ。自分のことを詮索するな。それが条件だ、いいな?」
「分かっています。協力ありがとうございます。」
あいつらというのは多分桜と飯島と荒井のことだよな。あんまりこの人の会話から楽しそうな話を聞ける感じではなさそうだな。
「この人は中学時代その3人と同じ中学に通ってた人よ。話してもらうのは当時の彼らについて。」
「……了解。」
端的で分かりやすく貓俣が本日の主題を話してくれた。『中学時代の彼ら』と聞いて何となく予感はした。そしてそれに続いて画面越しの人が話し始める。
「あまり話したくないから手短にいく。……思い出すのもつらい日々だった。あいつらは完全に学校を牛耳っていた連中だ。そのやばさは実物を見た方が早い。」
画面が切り替わるとそこには卒業アルバムがあった。その人物がページをめくっていく。そこには1年生から3年生までの軌跡があったが、言いたいことは直ぐに分かった。
「人が……減っていってる。」
最初は気のせいかと思っていたが、後半では人数が大きく減り、メンツも同じ人しか映らなくなっていた。その顔は次第に暗くなっているようで、それとは対照的に少し幼く映るあいつらの姿があった。そして最後に卒業式の集合写真では、そのほとんどが姿を消していた。
「自分の代で潰れた田舎の学校だったからな、人は少なかった。そしてあいつらのせいで不登校、転校、病院送りになる連中が何人いた事か。誰も復讐なんて考えられなかった。恐怖政治もいいところだ。実際先生達もあいつらを止められなかったしな。そして自分も……あいつらに……。悪い、もういいか?」
「はい、お辛くなるにも関わらず、お話頂けてありがとうございました。」
「俺らのような人間はもう要らない。気をつけてくれ。」
会話が終わる様子だったので、一つだけ気になることを聞いた。俺のその質問に対して少し驚きを見せていたが、事情を話すとやがて落ち着いたように「やっぱりか」と嘆息をこぼしていた。
恐らく5分も話は出来なかった。けれどその価値は十二分にあった。
「今映像を繋げてくれた人は山田アリスちゃんが紹介してくれたんだ。私たちが相談したらSNSで桜さん達のことを調べてくれたらしくてね。コンタクトを取ってくれたのよ。」
「そうか……迷惑をかけたな。」
この場を作ってくれた戌亥、貓俣、音声のみの人を紹介してくれた山田には感謝しているが、正直今の映像はなかなかきついものがあった。やはり俺は人を見るセンスが壊滅的にないそうだ。大鵠さんが前に言ってくれた「そんな簡単に人を信じるなんて」と言う言葉が突き刺さる。
しかしくよくよはしてられない。この際壬生先輩とのダンスなんてどうでもいいが、あいつらの正体を暴いておきたい。ネットで映像にあった中学校で検索をかけてみたが、サジェストには『いじめ』『廃校』『学校の対応』などが出てきた。それは今の人の話の裏付けと捉えてしまっていいと判断した。
「……何だかんだ久しぶりな気がするな。」
「何が?」
俺の顔は今どんな顔をしているのだろう。少なくても2人の表情から、あまりいい顔はしてないようだ。
「カスみたいな人間。」
「……少なくても今は普通に善人に見えるけどな。高校に上がって新境地で高校デビューってところか。」
そんなこと知ったことか。
残り0日。




