宵宮や明日に繋げゆ謀 12
特にそれ以上場を荒らすことはなく、2人の後輩を置いてどこかへ去ってしまった。確かに最初から大鵠さんには期待もしてなかったし、別に今回の件が解決しなくても、致命的な何かがある訳ではない。必死に何かを考え込む桜だったが、やがて降参らしく、「道子ちゃんと実篤君に一応連絡しておく」と桜もその場を後にした。
放課後、俺は生徒会の仕事があるためそちらに向かったが、3人は念の為に雑学部を訪れるとのことだった。そこで何かを得られるとは思えないが、俺も何か進められるという訳では無いか。
「悩み事か?ボーッとして。」
「……あ、ごめん。大したことじゃないよ。」
「そうか、それならいいが。」
大鵠さんに返した言葉じゃないけど、今回は多分本当に兜狩やみんなに相談する必要はないかな。でもどうだろう、協力にはなってしまうかもしれないけど、ノアなら学年の人のことを詳細にまで知ってるから、もしかしたらヒントを得られるのかな。
「……どうしたのよ、狐神。そんな視線送られては集中出来ないわ。」
「……あ、ごめん。なんでもない。」
うわ、すごいジト目で見られる。まぁ確かに変な視線送ってなんでもないは流石にないか。生徒会のみんなももう何となく事情が分かったようだ。
「また困り事があって、でも直ぐに相談ばかりしてしまっていいのだろうか。自分の力で解決しなくてはいけないのではないか。そんな感じかしら?」
「……困ってたら相談してね?」
……。
「つまり〜、その桜、飯島、荒井って人が冤罪じゃないかって話だよね。でも確かにあの人は支配政治みたいなのはしてたけど、嘘はあんまりつかないかな?核心をついて困らせることはするけどね〜。」
「そしてあの3人も部活動体験で何やら黒いものが見えた、と。そして期日はもうそこまで迫ってると。」
「……もっと早く頼っていいんだよ?」
はい、すみませんでした。今回も情けないですがよろしくお願いします。
とはいえ俺も何もなしに今まで過ごした訳ではない。とりあえず俺の今持つ情報も提示していこう。
「知っての通り、あの3人は嫌われる要素はほとんどなく、先生などからも印象は良い。出身中学はかなり田舎の方で同じ人はいない。だから高校以前のことはよく分かんないけど、別にそれが俺を苦しめて、結果大鵠さんから指名される理由はないと思う。そして改めて確認を取ったけど、雑学部の体験入部でその書き置きをした人は分からなかった。大鵠さんは何か思うことがあったらしいが、それは俺には言ってくれなかった。でも俺もやっぱり大鵠さんはある程度確証を持って今回俺と桜に絡んできたと思う。だから俺は桜たちの方が怪しいと思う。」
以前はよく分からないまま、とりあえず出してくれていた意見に首を振っていた。けれど最低限としてこれからは俺が意見を出して、その善し悪しを聞いていきたい。
「そうだな、俺も同じ考え方だ。」
兜狩の意見にみな賛成してくれた。
「ありがと。次はあくまで桜達が俺に対して何かした、という体で話をしていく。まず、やっぱり証拠は見つかってないけど、お互いに認識がないから、やっぱり無意識に間接的にやったんじゃないかと思う。」
この意見に対して鶴から待ったがかかった。
「……現状、直接的的にも間接的にも被害はない。でも例えば、実害が出ることが分かっていたから名指しされた可能性とかは?」
……?
「……?」
「なるほどね。程度にもよるけど十分有り得る話ね。分かりやすく言うとテロ行為と同じね。『明日建物を爆破する』って作戦を立てて、ダイナマイトなどを用意する。この時点ではまだ事件は起こってないから当然被害者も加害者もないわよね。でも事件が起こっては取り返しがつかない。だからその事件の程度によっては防止として大鵠さんが指名した可能性がある。」
話はよく分かったが、それじゃあまるで俺のことを大鵠さんが守ったみたいじゃないか。あの人がそんなことをするなんて考えにくいが……。でもそれなら大鵠さんが俺に直接言わない理由は何となく分かる。
「確かに狐神君を守るためだけに名指しした可能性は低いね〜。選挙の時の発言だけで事件を止められる確証なんてないし。多分事件の重大性というよりも、その事件に関して大鵠が直接デメリットがあったって考えるのが普通かな?」
「でもその事件の重大性の可能性も否定は出来ません。狐神、大鵠先輩とは連絡取れないのか?万が一に備えて事件について聞いておきたい。」
「落ち着きなよ〜、兜狩後輩。仮に重大性の高い事件だった場合、選挙の時に直接防止した時のように、直接大鵠が動く可能性の方が高い。今回みたいにこんなめんどくさい方法を取っても平気っていう裏返しだよ〜。」
焦る兜狩に対してのんびりとした口調で、でもしっかりと橄欖橋先輩は論破していった。とはいえ別にここで争っている訳ではない。緊急性が高くないと分かっただけ助かる。
「でもそうなると大鵠さんのデメリットとなる事件てなんだろ。」
俺の言葉に返す人は誰もいなかった。




