宵宮や明日に繋げゆ謀 9
荒井実篤も飯島道子も特に嫌な顔をせずに来てくれた。桜から聞いていた話、2人は認めていないが周りからは夫婦と言われているらしい。恋人や彼氏彼女のようなキャピキャピしたものは既になく、熟年夫婦の落ち着き具合だそうだ。
「急な呼びつけですまない。知っているかもしれないが、7組の狐神彼方です。」
「流石に知ってるよ。俺は10組の荒井実篤、よろしくどうぞ?」
「飯島道子です。あ、クラスは彩夏と同じ1組。よろしくね。」
差し出された手に少し警戒しつつも握手をする。事の真相が全く分かっていない少なくても今は普通に接してくれてはいるという感じか。
「なるほどなー、彩夏はこの人とダンスを踊りたかったのか。不束者ですが何卒彩夏をよろしくお願いします。」
「元気なことくらいしか取り柄のない娘ですが、どうか見限らないであげてください。」
「ちょっと!?2人とも今日は真剣な話をするんだよ!!おふざけ禁止!!いい!?」
「「はぁ~い」」と気の抜けた返事をする。確かに緊張感はないな。でも3人とも仲がいいのはわかる。
「なるほどな。それで俺たちの動向というか、噂話を聞いて回ってるってこと。確かに俺らもほとんど影響がなかったとはいえ、気分のいいものではなかったな。」
「でも被害者?も加害者?もお互い接触がないって時点でその大鵠って人の嘘なんじゃない?きっとあれよ、今更あとに引けなくなってー、みたいな?」
「まぁその可能性もあるとは思うけど。とりあえず今は俺と御三方があくまで関係があった、そういう体で進めていければと思う。」
桜は頭の回転がかなり遅いらしく、既に会話に若干置いてけぼりにされている。そしてそれに慣れているようで、飯島は「あとで分かりやすく伝えるから」と桜を自分の膝の上に乗せた。
「オッケー。となると直接的な関係よりは間接的に何かあったって考えるのが妥当かな。恐らく狐神もそうだろうけど、ほとんど今日が初対面みたいな感じだろうし、な?」
そうだな、俺もあの時虐めてきた全員の顔を覚えている訳では無いが、この3人の顔を見ても何も思い出すことは無かったし、体が反応することもなかった。
「申し訳ないが俺は1年の春とかは冤罪の解決とかで忙しくてあんまり人の事を覚えてないんだ。出来れば3人の動きから俺への繋がりを探していきたい。」
「去年の春かぁ。私ら3人は同中だったからさ。特に私と彩夏は同じクラスだったから一緒にいたかな。後は彩夏がこういう性格だからさ、彩夏を通じて色んな人と関わりがあったかな。」
「俺は逆に1人離れてたからクラスの輪を広げるのに苦戦してたな。ほら、女子は打ち解けが早いけどまだ疑心暗鬼、男子は打ち解けが遅いけど結構すぐ仲良くなるみたいな感じじゃん?」
じゃん?と言われても普通を経験してこなかった俺からすると何が普通なのかはちょっと分からないが。でも何となく想像には固くない。
ここで荒井が少し話を進める。
「そんな感じで確かに俺と道子、彩夏は入学当初から仲は良かった。でも3人でよく集まるようになったのはある程度お互いの交友関係が落ち着いてからだ。俺だってクラスで孤立はしたくないからな。だからこそ選挙時、3人一斉に名前を呼ばれたのが今にしては違和感だな。その相手が全く関係ないクラスの赤の他人なら尚更。」
「それもそうね。3人がバラバラの理由で狐神に呼ばれたって可能性も無くはないだろうけど、ほぼゼロでいいと思うわ。でも私らが集まった時っていつ?入学式当たりは一緒に帰った記憶はあるけど……あとはあれかしら、部活動見学の時とか?」
「懐かしいね。色んな部活回ったよねー。道子ちゃんがバドミントンやりたいって仮入部したけど、あまりの下手くそさに『陸に上がったマグロ』とまで言わせたもんね!」
「さ~く~ら~?」
膝の上に乗る桜のこめかみに拳を押し付ける。痛い痛い言いつつも、その表情は楽しそうだった。
「……あぁ、すまん。話が脱線したな。おい、2人とも昔話は程々にしろ。」
「「はぁ~い」」と気の抜けた返事がした。
結論として可能性があるとするならば部活動見学の時くらいだと言われた。そして部活動見学に行ったのはバドミントン部、弓道部、パソコン部、卓球部、文芸部、雑学部、園芸部。正直ほとんどの部活と関わりがなかったが、丁度よく生徒会の仕事であったので、それらの部活を俺が回ることにした。
しかし結果から言って徒労に終わった。それはそうだ。入部しているならまだいざ知らず、たかだか仮入部の生徒まで覚えてはおるまい。一応記録として残ってはいたが、それも名前とクラスの記載があるだけ。そこにそれ以上の意味は見いだせなかった。
俺が壬生先輩と踊ることが決定するまで、あと2日。




