宵宮や明日に繋げゆ謀 3
なんか遠回しの告白みたいな感じになったけど、少なくても現状俺は鶴にそのような感情を抱いてはいない。もし将来俺が誰かのことを好きになったらのお話だ。
とりあえず先ほどのような重苦しい雰囲気は無くなり、いつもの軽い雰囲気になった。その後はとりあえず生徒会に行き、また山のような資料の整理と文体実行委員会と協力して校庭の準備も進めた。
「にしてもうちのクラスの文体実行委員て梶山は知ってたけどもう一人って相川だったんだな。」
「まぁな。体動かすのは嫌いじゃないからな。結構体育祭は楽しみだぜ。」
そりゃあ運動得意系からすれば晴れ舞台だもんな。普段の体育の様子からして相川はきっと大活躍だろうな。
「ちなみにどんな競技があるんだ?どうせお前ら生徒会はもう知ってんだろ?言えなきゃ言えないでかまやしねぇが。」
特にそれを禁止されてる訳でもなくどうせ数日後にはみんなに発表される。それに中学生の時の学校見学なんかでどんな競技をするか知ってる人は多い。別に言っても問題はないか。
「えらい数の競技あるんだな。いやー、俄然テンション上がってくるぜ。ここの学校はあんまり聞いた事のない競技があるから楽しみなんだよな。」
俺みたいな日陰者からすれば地獄の一日でしかないけどな。多分俺よりも拗らせてる羽鳥とかなんかは来るかどうかすら怪しいし。
「……あ、ちなみに相川がクラスの女子を引っ張ったりする感じ?」
「あ?あぁ、多分な。この前クラスの女子グループのメッセージでそんなこと言ってたしな。それがどうかしたか?」
これは好都合。樫野校長からこの前あっためんどくさい命令があったが、女子は相川にお願いすればいいか。あんまり過剰にやりすぎないように。
「……なるほどな。とりあえず伝えておくわ。にしてもお前、1生徒が校長と関わりがあるってだいぶすごいことだぞ。」
せやな。
「あとそうだ、美桜と龍虎と夏休み遊んだらしいな。」
「そうだな。何か成り行きで誘われてな。言っておくが普通に遊んだだけだからな?むしろ夜は水仙の呪いだので俺も巻き込まれた側だからな?」
「分かってるよ、今更疑っちゃいねぇ。にしても本当に仲良くなったな。……いや、元はと言えばあたしの勘違いから全てが始まっちまったんだけどな、いや、本当にもうしわけない。」
「入学したてで友達がそんな目に合わされて、寧ろ水仙を守ろうと動いた所は尊敬するよ。多少暴力が過ぎることはあるが。」
「それは……悪かったって。」
その後相川は委員会の人に呼ばれて別の場所を手伝いに行った。仕事としてはだいぶ終わっていたので後始末だけやると俺も戻っていった。
学生の夏休みは短いもので気付けばその終わりが目の前に来ていた。俺はそういえばやっていなかった宿題を死に物狂いで解き進めた。
そして高校2年生の2学期が始まった。
「終わった。」
もうダメだ。俺はこんなよく分からんことでクラスの誰かに刺されて死ぬんだ。俺だってこんな状況嫌なのに。
クラスの男子から舌打ちが凄い。できるならみんなと変わりたいのに、頑固な遠井先生は融通が一切利かない。
「では席替えは以上とし、新学年からはこちらの座席で進めて行きます。」
前は鏡石、右は京、左は水仙、後ろは白花。何だこの完璧なまでの対俺特攻陣形は。右前の嬬恋を見ると何かドヤ顔してるから多分あいつが何かしたんだろ。後でぶっ飛ばす。
「よろしくね!」
「お手柔らかに。」
後ろから事務的に会心の笑顔で声をかけてきた。座席の関係上、その顔は非常に近い。まぁ今更何を動じることがあるかという話だが。
「……耳真っ赤よ?」
「!?」
その言葉は耳を何度も反響するようにしてねっとりと脳髄に染み込む。その形容し難い感触につい顔を腕に埋もれる。今自分がどんな顔をしているのかなんて知りたくもなかった。しかし善は急げ。現状が嫌ならば他人ではなく自分が動かなければとこの1年で感じた。
「遠井先生!俺この席嫌です!」
「明確にその席が合わない理由を述べなさい。視力の関係などであれば一考はします。」
「はい、この席を囲む人達が目に毒です。」
次の瞬間、前の席の鏡石から4人分の怒りが籠ったパンチを顔面に受けた。そしてその衝撃で後ろに仰け反ると、そこにシャーペンが配置されており、ブスッという音が聞こえそうな程普通に刺さった。
「痛っ!?」
「それでは文化祭体育祭実行委員のお2人からお願いします。」
梶山と相川からみんなに先日俺が作ったパンフレットが行き渡る。それだけでも教室内の空気が上がったような気がした。教室からはざわざわと声が響く。
「それじゃあ詳しい内容は後で各自で見て欲しいんだけど、まず僕たちがこの時間に決めなくちゃいけないのは誰がどの競技に出るか。それをこの時間で決めたいな。」
「「「おー!」」」
「ありがとう。そしたら決め方何だけど、みんなに紙を渡すからそこに書いてある第1、第2、第3希望と続くから、そこに出たい競技名を書いて欲しい。募集人数より多くなっちゃったらジャンケンとかでいいかな?」
「「「おー!」」」
「ありがと!じゃあ早速紙を配るね!」
梶山が声をかけてみんなが応える絵面は文化祭の時も見たな。普段は普通のド変態だが、やはりこういう場所では流石の統率力だな。
鏡石から睨まれ渡された紙を受け取り白花へ回す。みんながペンで黙々と、時に「何にする?」なんて声も聞こえる中、俺の答えは決まっていた。
「……書かない、の?」
「うむ、全員参加の競技のみ出る。もしどうしても出ろというのであればそれには従うが、その指示がなければ特に出ない。俺なんか足引っ張るだけだろうし。」
「……そ……なんだ。じゃあ……私も……」
まぁこいつは明らかに運動向いている訳でも、運動が好きそうなわけでもないし、周りに迷惑はかけたくないと思っている人間だから同じ結論に至るか。




