狐神ロスト 10
「しかし蓬莱殿さんと狐神君の関係は本当に悪いものなんて何一つない。少なくても私が手に入れている情報からは。そこで2人の元上司である君に来てもらった訳だよ。」
成程、確かに2人の関係なら1年とはいかないがその位は見てきた。けれど俺からみてもあの2人は普通に仲がいい。もし狐神があんな境遇でさえなければ、普通に付き合っていたと思う。少なくても俺にはそう見える。
「あいつらは普通に仲のいい友達です。それは俺が保証します。」
しかしその答えはどうやら樫野校長の期待していたものではないらしく、納得といっていないものだった。
「仲がいいのは沢山聞いたよ。そんな事はどうでもいい。私が知りたいのは『蓬莱殿さんが父親に狐神君を殺すようにお願いしたか』それだけだ。もしそんなお願いがなければこの事件に学校は関係ない。そしてその証拠があれば提出して欲しいそれだけだよ。」
大鵠の様子からしてらこの人が本気で苛立っているのが分かる。いつも余裕綽々としていると聞いていたから少しイメージと違うな。
にしても懐かしいな。確かあいつのカンニングの罪を晴らした時も悪魔の証明みたいな感じだったな。
「ここまで聞くってことは既に鶴達には話を聞いて、その上で何も成果はなかったってことですよね。」
「……そうよ。今頃蓬莱殿さんと育ての親である祖父が狐神君の家に謝罪を入れている頃だと思う。『私の息子が彼方君にうんたらかんたら』。でも勿論それは蓬莱殿さん達に一切の非はない。現状は。」
「というと樫野校長はもし鶴が父親に指示をして狐神を殺そうとした、となった場合が1番最悪と考えているってことですか。」
大きな溜息がその答えだろう。確かに普通の高校でこんな事件はまずそう起こるものじゃないから気持ちはわかる。
「方法は分からないけど、多分父親が自殺したのは誰かの命令だからだと思う。そしてその命令を下した可能性があるのは蓬莱殿の家だと私は睨んでる。もしものもしもの話しよ。単純に刑務所て暮らすのが怖くなっただけの可能性も大いにある。」
でも可能性としては排除できないってのもあるって感じか。難しいところだな。でも鶴がそんなことを企むとは到底思えないんだよな。むしろ可能性なら祖父の方が高そうだが。
「でも可能性がかなり低いなら喜ぶべきなのではないですか?」
「君はゲームで確実にやばい攻撃が来ると分かっていれば防御するとかできるでしょ?でも『低確率でやばい攻撃が来ます』って1番めんどくさいのよ。宝くじやギャンブルも同じ、『確実に外れます』なら勿論誰もやらないけど、『1%で超大当たり』ならやる人はいる。」
成程、とても分かりやすい例だな。確かにもし鶴が今回犯人だと分かれば、それに対して対応はできる。でもそうじゃない可能性があるなら教師側は何も出来ないというわけか。
「あの子は前例もあるからね。不安要素なんだよ。」
前例?俺がいない間に何かあったのだろうか。少なくても狐神たちからは何も聞いていないが。
「大鵠君は知ってるよね。昨年の生徒会が管理する金の不自然な動き。あれって彼女の仕業だったらしいよ。彼女の言は数値の打ち間違えとは言ってたけど。」
「へー、そうなんですか。確かに意味の無い金の動き方してましたしね。」
こいつはあまり鶴の話には興味がないらしい。むしろ過去に鶴に想いを寄せていたこと自体を毛嫌いしている。今のこいつの鶴に対する気持ちは本当に分からない。
「とりあえず、君からもあの二人に関して得られるものは何もなさそうだね。そうであれば私からはこれ以上話すことはない。君の言う通り私も暇ではなくてね、今日はお帰り願おうか。」
半分追い出される形で俺と大鵠は学校を出た。まだ夏の日差しは強力で一瞬で額が汗で滲み出す。しかし知りたいことは大体分かった。そして分からないことも増えた。
「……鶴、お前何考えてんだよ。」
初めてあいつを見かけた時、同い年の男だけでなく、2年、3年は勿論、女でさえその美しさに惹かれるものはかなり居た。というかその代はかなり顔面偏差値がかなり高かったが、その中でもとりわけ凄かったのが白花とノアと鶴だった。大きく分けると白花が可愛い、ノアが凛々しい、そして鶴は美しいだった。けれど俺も大鵠と同じようなことを思った。
『あいつは誰1人まともに見ておらず、そして心が死んでいる』
その重症さは正直狐神より酷いと思った。まだ狐神は死ぬほど辛い状況であっても生きる理由を持ってた。でも鶴は生きる理由など何もないように感じた。
あいつを生徒会に勧誘すると快く受け入れてくれた。恐らく周りの勧誘を断るのに丁度良かったのだろう、その時もまともに俺を見ていなかった。だから俺は狐神の勧誘に鶴を使った。あいつなら俺には踏み込めない所まで行ってくれると思ったから。そしてそれは事よく運び、今の狐神がある。あいつが狐神を救ったと言ってもいいと思う。それを鶴がどう感じたかは知らないが。




