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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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狐神ロスト 5

「急な訪問にも関わらずありがとうございます。」

「いえいえ、これも私たちの仕事ですから。とはいえ保護者ではなくお友達がお見えすることはかなり珍しいですが。」

校長の口調からして明らかに俺を舐めている。挑発してるつもりなのだろうか。悪いがそんなものに乗る気は無い。

「彼方が襲われたことについてはご存知ですよね。単刀直入に言いますが、学校側の誰かが犯人なのではないかと疑ってます。」

向こうもそのくらい分かっているだろう。特に驚きもしない。つまり俺の投げかけに対する答えも事前に準備出来るということか。

これには校長でなく遠井先生が答えた。

「少なくても私たち教員が絡み、学校として何か彼に危害を加えたということは一切ないです。生徒全員を把握は出来ていないので、そこまでは断言できませんが。」

「そう言うしかないですよね。これで仮に生徒が関わっていたとしても『そこまで学校は干渉しない』と言えばいいんですよね。俺が言いたいのはそういうことじゃないです。少なくてもあいつを悪者に仕立てあげたこの建物に責任があるって言いたいんです。」

樫野校長は俺の言葉を受けても全く動じなかった。それどころか見せつけるように大きなため息をつく。

「つまり君は私に贖罪をしてほしいということかな?何して欲しいの?土下座でもすればいいの?1000万円くらい欲しい?それともここを辞めればいいの?まぁいずれにしても私がここに来た時には、彼にとっては魔窟だったわけだが、でも現責任者は私だしね。」

……馬鹿馬鹿しい。少し俺も熱くなりすぎてた。ここには愚痴を吐きに来た訳では無い。

「……そういうつもりじゃないです。」

「少し冷静になった?そもそも論は私は好きじゃなくてね。……今回の件は私にとってデメリットしかない。狐神君を失うことも、学校の信頼を落とすことも。少なくても私の本意じゃないよ。……ただ、今警察が捜査している。そこで犯人が我が校の生徒なら、その時は私もこの学校を辞任するよ。流石にこれ以上は無理だしね。」

それはまだ非公開の情報だったらしく、隣の遠井先生は多少驚いていた。しかし考えれば普通のことだろう。にしてもこの人は本当に彼方ほことを気にかけてんのか?どうにも胡散臭いな。

「全くの感ですけど、彼方はあなたの事を少なからず認めていた所はありました。あいつの最後の冤罪の解決時、樫野校長は事件解決前にもうその先生を飛ばしたと聞きました。もしかして今回の件も犯人に宛があるのでは無いですか?」

「……以前より懸念していたことが無いわけじゃない。でも根拠が薄すぎるわ。そんな情報をあなたに伝えて変な考えを持たないとも限らないでしょ?……まぁ私が何を言ってもあなたには信頼されていないのだから言っても構わないのでしょうけど。」

確かにこの人の情報なんて信用に値しない。でも何も情報がない今少しでもヒントは欲しいというのはある。でも流石に今回は警察に任せた方がいいのだろうか。所詮俺が何をしようともそんなのただの警察ごっこにしかならない。


事件から3日が過ぎた。

此方曰くまだ犯人は捕まっていない。そして彼方は頭部へのダメージが大きくあり、未だに意識は戻っていない。ただ彼方の手を握ってやることしか出来ない自分が歯がゆかった。もし将来職に就くとなったら、誰かを守れるようなそんなものになりたいと初めて思った。学校の授業や部活などは必死に集中した。彼方を言い訳に疎かにしたら、それこそあいつが復活した時にいらない罪悪感を背負わせてしまう。少し迷ったが、牟田と西御門にも彼方のことを伝えた。西御門は驚き、牟田はある意味平静だった。その平静の理由を聞くと、「どうしても狐神の活躍を良く思わない人はいる。その人たちに襲われたと言われたら納得出来てしまう。」そう言っていた。しかし牟田もやはり学校の生徒が手を下す、特に2年7組に限ってはその可能性は低いとも言っていた。他クラスならいざ知らず、同じクラスであれば普段の狐神を見て、考えを変えた人は結構数いるらしい。

唯一出た名前があった。斑咬大貴だった。あいつは狐神の事を嫌悪し、未だに激しく嫌っている1人だと聞いた。今のクラスの立ち位置も完全に狐神より下回っている。変な思考も持ってるから復讐心を持って行為に及んだことも考えられなくはない。しかしあくまで生徒の中で考えられるならという前提。いくら憎んでいようともそこまではしない可能性の方が大きい。それに情報不確定の中、「狐神が襲われた。お前がやったのか?」と聞いて、もしあいつが犯人ではなかった場合、更なる敵を増やすことになる。

「結局何にも出来ないのか。」

携帯をベットに投げ捨て、俺もまたベットに倒れ込む。

「彼方はこんな事件をいくつも解決してきたんだよな。」

本当に我が親友ながら尊敬する。


「それで、なんでこんなことをしたの?彼が一体あなたに何をしたの?」

「……」

女性警察官の尋問に男は黙秘を続ける。どうやらそこで八方どまりらしく、樫野がここに来た理由はここにあるらしい。身分を証明するものは何も持っておらず、DNA検査でもマッチする人物はいなかった。ホームレスらしき男性が流血しているということで通報が入った。しかしその血液は本人のものではなく付着したもの。本人は頑なに何も言わないため、一応DNA検査したところ、その血は確かに狐神彼方のDNAと一致した。

女性警察官を一瞥すると席を交換した。ただ別にそんなこともその男にとってはどうでもよいこと。

「なるほど、日本には確かに黙秘権というものがあります。かつて自白を強要し冤罪を作ってしまった教訓から得たものですね。……あぁ、自己紹介が遅れてすみません。私樫野 (たばね)と申します。……あなたのご息女が通われている校長と言えば分かりますか?」

男はその途端急に顔色を変え発狂し始める。あらかじめこうなることは予想出来ていたので、事前に部屋にいる女性警察官と男性警察官に暴れるから抑えるように伝えていた。そして樫野は叫ぶことしか出来ない哀れな男を見下す。

「良かったです、元気になられて。それでは話をしましょうか。」

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