下らない暇つぶし
「それでその件については解決ってなったのか。俺ならその水仙て子にちょっといい事してもらうな。……お前今何考えたよ?」
無事退院した俺は退院祝いという事で太陽と共に小さなレストランに来ていた。
「献血、植樹、募金。」
「アホ、高校生にもなれば何となく想像つくくせにー。ほんとに女の子成分が足りてないな。……で、真面目な話その間接的な脅迫って何だ。」
先程とは打って変わって一気に真面目になる。その変わり身にはいつまでも慣れない。でも心配してくれるのは嬉しい限りだ。
「俺に関するところのメモでな。『妹がいるらしいから調べてみる』って書いてあったんだよ。」
その言葉に太陽は黙ってしまった。太陽には事情を話してあるから事の重大さが分かるだろう。淀川は利用されただけでその脅威は消えてない。
「でも多分平気だとは思う。さすがにあのことを知ってる人は極わずかだし、そんな簡単に口を割ることなんてないと思う。」
それにもし本当にどうしようもなくなったら、それも俺が背負うとする。殺人は流石にきついけれど、守らなくちゃ。
学校に戻るといつもの通りだった。どうやら2人とも本当の事は話していないらしい。こちらとしてもそっちの方がいい。水仙あたりが本当のことを話して、それに対して淀川が変に俺のことを詮索される方が厄介だ。けれど念押しはしておく。
「だから相川……しつこい。それに今日は色々オマケまでついて。」
料理部の連中だろうか、仲よろしいこと。
「っせえよ。失せろ。じゃなきゃ「おい水仙、ちょっといいか?」おいてめぇ!」
水仙は他の人に「大丈夫」と言うと俺とともに人目のつかないところに来た。前みたいに明らかな嫌な態度はしてこないだけ楽だ。
「やっぱり何かして欲しくなったの?」
「というより頼み事に近いかな。念押しなんだかあの件について本当の事を話さないで欲しい。」
「狐神君が犯人のままでいいってこと?何で?」
「それは秘密。」
見るからに意味がわかんない、という顔をしてる。けれど説明してあげる必要はないし、あまり長時間一緒にいるとまずいので早めに別れを告げ去る。
そして今度は白花の元へ。復帰早々忙しいことこの上ない。直接声をかけると周りの連中にはバレそうなので携帯で連絡する。
「昼休みに女の子を旧校舎に呼ぶなんて、なんかドキドキしちゃうな。どうかしたの?」
「単刀直入に言う。淀川に妹の情報を渡したよな?誰から聞いた。」
「何か前に『狐神について何か知らないか?』って訊かれてね。不味かったかな?誰から聞いたかは秘密。」
「なるほどな。とりあえずあまり個人情報を流さないで欲しい。アイドルやってるお前が分からないわけないだろ。」
俺の言葉に白花の雰囲気が変わる。笑みが消えみんなが知る白花はそこにはいない。
「……狐神君さ。」
白花が何かを言う直前、廊下から何やら話し声が聞こえた。普段ここに人が来ることはないので焦る。こんなとこ見られたらまずい。来るなと心で祈りながら視線は白花から逸らさない。一方の白花はさほど気にしてない様子。けれどその声は段々遠ざかりやがて聞こえなくなった。
「要件がそれだけなら帰るね。バイバイ!」
いつもの白花はそれだけ告げると笑顔で去っていった。
クラスに戻ると何やらザワついていた。教室に入ると何やら黒板に張り紙があった。遠くからでもよく見えるくらい大きな字だったので助かる。
『生徒会主催!スポーツ大会!自信のあるスポーツがある人は是非この機会に生徒会に挑んでみよう。勝てばその部の部費を上げるよ!負けたら下げます。』
は?
「どういうことですか瀬田会長。あんなの聞いてないですよ。言いたかないですけど馬鹿ですか?」
「だって暇だったから。それに言ったら絶対ダメって言うじゃん。……ちょっと待て、最後なんつった?」
そら言いますよ。普通に考えて負けるからな。それに文化部がこれだと文句を言いたくもなるだろう。
ちなみにルールもきっちり決めてるらしく
『そのスポーツに参加できる部員は半数以下。
6人以下のスポーツに限る。それ以上の人数であれば要検討。
団体戦では男女比なども検討の対象。(例 男子6人対男子4人、女子2人などが対象。)
誰が出場するかは各グループ相談の後同時発表。
時間の都合上、試合時間を短くすることも。
引き分けの場合延長戦有り。
個人戦の場合、1人が連続して出続ける事は禁止。
審判は第三者のルールを知るものによる。
人数が多い競技ほどあげる部費の量も上がっていく。
元部員は部員としてカウントする。
尚、参加部活が多い場合抽選で決める。』
だからこの学校は強い部活が多いって言ってんだろ。どうすんだよこれでセーリングとか社交ダンスとか普段触れなさそうな部活が来たら。ていうか来るだろ。マイナーな部ほど絶対有利だからな。
「いいじゃんか、これでもし全部勝てたらみんな見直すと思うぜ。」
「負けたら『イキって調子乗ったらボコボコにされた無様な生徒会』とか言われますよ。あ、まさかそのタイミングで会長の座を降りるなんてこと……」
「おっ、そのアイデアいただき。んで早速投書箱にこんな沢山来た。」
箱を開くとドバーッと音をたてて紙が吐き出される。その景色に何だかもう笑えてくる。その中から適当に手に取り読んでみる。
『アメフト部だ。あの大会とやらに参加する。負けて終わるだけだと思うな、震えて眠るがいい。』
おーこわ。