移ろう季節と気持ち 7
確かに1度も行ってないのにそれを否定するのはなんか違う気がする。なんて言い訳しつつ、本当はあの日の白花のオーディションを見たかった。見届けてあげたかった。
「……分かった。ライブに行くよ。案外ハマるかもしれないしな。」
「ありがとうございます。あ、あと狐神先輩に誰かお知り合いで白花先輩のファンの人知らないですか?勿論害悪ファンではなくて、理想であれば熱狂的に白花先輩のファンで話がしやすく、でも私といても特にそれを気にされないような方など。」
白花のファンというとかなりの数を挙げられると思うが、確かにこいつもアイドルだ。俺は全く気にしてないが、普通の人ならば榎本といるだけでも気が気では無いだろう。白花にのみ熱狂的なファン、ね。
筋肉、ツーブロ、ケモノ。
「……。いないかな。」
「なんで若干の間があったんですか?少し宛があるんじゃないですか?」
確かに一瞬身長185cmくらいある筋骨隆々のゴリマッチョが頭に過ぎったが、あの人と一緒に行動とか勘弁して欲しい。1度殺されかけてたのにどう誘えと。禦王殘に聞いたけど、姫を救い出す際に何十人ものカタギじゃない相手にほとんど無傷で勝利したらしいじゃないか。やだよ、俺が白花の愚痴を零す度に顔面に拳がめり込むなんて。
「そうですか。立場上、一緒に盛り上がれる人を作るのは難しいですね。」
初めて榎本を見た時に思いっきり白花に抱きついてた時に、あそこから何か察してる人はいそうだけどな。
「そんなことはしらんが、ネットとかで繋がればいいんじゃないか?顔だって載せなくてもいけそうだけど。」
「勿論参加したことはあります。でも大体途中からオフ会みたいな流れになるとやっぱりそこで終わっちゃいますね。」
価値観は共有するとネットとかだけでは足りなくなってくるのかな。実際此方だってあんなに部屋に籠ってたのに、最後には小熊と会うくらいだったし。
榎本は少し陰りのある顔で呟いた。
「少しだけですが、今なら小石先輩の孤独が少し分かります。」
やめてくれ、その言葉は俺に効く。
「……分かった。紹介すればいんだろ?どうなっても知らないからな。」
ほんと俺どうなるんだろう。
「ふふっ。」
「何?」
「いえ、本当に狐神先輩は小石先輩が大切なんですね。」
もうなんとでもいえ。
「……もし、仮にですよ?小石先輩が誰かを好きになって、付き合うとなった笑顔で送りますか?」
「愚問だな。例えそれが榎本であっても俺は祝福するよ。」
「な゛っ!?」
「仮にだろ。榎本が始めた話だぞ。」
まぁ本当であっても答えは変わらないがな。白花が本当にその人のことが好きで、相手も同じ気持ちであれば何で俺がそこに意見をするのか。他人の恋愛に足を突っ込むのはそれを憂う人たちだけだろう。俺にはその感情は無い。
乱獅子先輩のメールアドレスなんて知らないから、そこは同じクラスである小熊先輩に頼った。返信は直ぐにあり、俺と乱獅子先輩が何か決闘的な何かをすると思っているようでそわそわした様子が文面からでも見て取れたが、大雑把に内容を伝えると連絡先だけ寄越しそれ以降メールはなかった。とりあえず欲しいものは手に入れたので早速メールをした。勿論狐神名乗る者からのメールなんて怪しさしかないので件名にはしっかり「本物です」と記載。
「……狐神先輩って時々頭悪くなるんですか?」
仕方がないので証拠として俺と榎本が写った写真を送る。とはいえそれは2人仲良く写っている写真ではなく、榎本が白花のグッズを舐めまわしている時に撮ったもの。偶然姿見に俺が写ったのが功を制した。
「……随分と用意がいいんですね?」
「榎本が白花に手を出した時の為に証拠をな。まぁここまで相手が壊れていた方が乱獅子先輩だって突っかかりやすいだろ。」
「非常に不快なのですが。私一応アイドルやらせて頂いているのですが。」
「安心しろ、俺も乱獅子先輩も榎本なんて端から興味無いから痛っ!?」
お前さっき自身に興味無い人がいいとか言ってたじゃないか。
それからひたすら白花の武勇伝を聞かされて3時間、乱獅子先輩から返事があり、また明日に集まることが決まった。
「まさか……小石ちゃんのライブを……VIPで見られるなんて……俺の生涯の夢が叶った。」
「……そんなになん?」
「人によってはいくらでもお金を出すから、とネットで問題視されるほどには。」
あいつの経済効果ヤバくないか?
「校長から報酬の話が無くなった時には俺の存在意義が消えかけたが、こうして巡り会うなんて運命としか形容出来ないな。」
「……ちょっと待って下さい。もしかしてその報酬って俺を退学にした時に得られるあれですか?」
「あぁ、そうだ。小石ちゃんの生誕をVIP席という場所で祝福出来るんだぞ。お前を退学にすることで手に入るなら乗らない手はないだろう。」
こんなものの為に俺はこの人から狙われてたのか。やってられねぇな。




