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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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移ろう季節と気持ち 4

「今日の20時に学校に行かないと呪われる?」

「そうなの。七不思議の『遊びたがり屋久子さん』って知ってる?」

「知らんけど。」


日も完全に沈み何時間が経ち、校舎全体が静まった頃。いつもは他の先生もいるのだが、今日に限っては誰も残っておらず、それゆえなのか今日は異様なまでに寒々しい。いつもいる学校だがどこか不気味に感じる。早く仕事を終わらせようとパソコンに向かった時に、どこからか子どもの笑い声が聞こえた。それはまるで授業を終えて校庭に走り出した子どものよう。しかしこんな時間にそれはありえない。時計を改めて見ると丁度20時を指し示す。ただの気のせいだと思いたいが、何となく嫌な予感がしたので、仕事を打ち切り帰る支度を進める。明日の早い時間に来ればいいと言い聞かせて。

「ねぇ、一緒に遊ばない?」

どこからか聞こえたその声は、小さいけれど確かに聞こえた。一気に恐怖心が爆発した。……でも、なぜだか『またあの頃のように遊びたい、何も考えず今だけを楽しみたい』という気持ちが湧いてきた。時間も遅いが夜もそこまで深くない。

「少しだけなら……」

そう呟いたその人はその日を境に姿が消えた。

そして後日、子供たちの声は1人増えたと言われている。


「!?!?!?」

「現代社会の大きな問題の一つである教職員の過労から解放されたとは、いい話だな。」

「京先輩と狐神先輩の温度差凄いですね。」

普通に号泣している京に対し、満足気な俺。同じ話を聞いた感じでは無いな。で、水仙も同じように声をかけられたのかな。いつの時代も学校の七不思議はあるもんだな。確か徘徊者と旧校舎の奴隷、佐藤くんの誕生日は知ってるけど、他にはどんなのがあるんだろうな。

「私も前にそんな声を聞いちゃって……。でも私その時に逃げちゃったんだよね。」

「ダメなのか?だって答えたら幼児化されるんだろ?」

「幼児化まではいかないと思うけど……誘いに乗ると連れていかれて、ちゃんと断ると何もされない。……でも無視すると3日後にお迎えが来るの。それを今日知って、今日がその3日目なんだ。」

「なるほどな。今まで楽しかったよ。」

「……狐神君てさ「姉さん、フォーク置いて」」


「まとめるとその戯言通りに今日の20時にまた学校に行って、ちゃんと断りを入れたいってことか。確かに生徒会の俺はその辺は融通聞くけど、正直休みの日まで学校に行きたくはないかな。」

水仙が困ってるのは分かるけど、もしそれで俺まで怒られたら嫌だし。それにこう言っちゃ悪いけど、そんな作り話を本気にするのもどうかと思うぞ。小学生とかならいざ知らず高校生にもなって。

「もしこれで私が連れていかれたら、これを遺影にしてくれないかな?」

「はい?」

そんなことを言われて写真を渡される。

「これがお葬式に来て欲しい人の名簿。それでこれが私の好きな曲。お葬式の時に流してくれると嬉しいな。あとお花なんだけど「分かったよ!ついていてばいいんだろ!?」」

そんなんで本当に何かあったらたまったもんじゃない。こいつは1回『そんなことしてると誰かに殺されるぞ』って言葉を見事に回収しそうになったからな。

「ちなみにその圧のかけ方、誰に習った。」

「ん?五十嵐さん。」

あのメンヘラ女め。


その後は人生ゲームとかテレビゲームとか、トランプをして遊んだ。どれも俺としてはとても楽しかったが、何よりも気になったのが、思いの外水仙が件の七不思議に怯えていることだった。多分俺が気づいているのだからみんな気づいているだろう。俺は所謂超常現象の類はあまり信じてはいない方だが、人によっては本当にそれで悩む人とかもいるしな。


「ね……狐神……君……」

俺と水仙は後で合流するが、桜介君と京とは遊びが終わった後に解散する。その帰り際、京に耳打ちされた。

「……あの……美桜ちゃん……本当に……困ってる……から……その……」

京と桜介君はお留守番、行くのは俺と水仙のみ。勿論人数がいた方が怖さとかは薄れるだろうが、ピクニックとは訳が違うんだ。必要最低限じゃないと先生も流石に怪しむだろう。力にはなれない、けど水仙が本気で困ってるから助けてくれないか。そんな感じだろう。

「分かってるよ、京。人の苦手なものとかはそれぞれだからな。明日以降はいつも通りの水仙に戻れるように努力はする。」

その返事に京は安堵の笑みを零した。

また、後から聞いた話だが、桜介君曰く、俺が家に来るその時まで水仙は本当に俺に相談するか迷っていたらしい。こんな事で迷惑をかけるなんて間違ってる。そうは思っていてもやはり怖かったらしい。だから京が向かいに来てる間に何とか覚悟は決めたそうな。


「まぁそんなわけで現在時刻は19時半。すっかり暗くなって本格的にホラーになってきたな。」

「う、うん」

今にでも唾を飲む音が聞こえそうだな。かく言う俺も流石に夜の学校の雰囲気に少し呑まれてる。

「や、やっぱり辞めとかないか?素直に言おう、めちゃくちゃ怖い。」

「え?」

「昼間の言葉は訂正する。幽霊は実在する。七不思議は本物だ。水仙とは今日でお別れだ。今まで本当に楽しかった。ありがとう。」

「……やだよ……私だって怖いよ……」

「何やってるんだ、2人とも?」

「ぎゃあー!!婚期を逃した亡者の怨霊が出た!!」

「あっ……」

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