移ろう季節と気持ち 2
そんなかんなで食事も終わり、次は映画を見ることになった。見たい映画は早めに決まり、早速劇場に足を進めた。
「……お?」
座席は太陽、俺、牟田、西御門という順番だった。てっきり俺一人だけが迫害され、2人は太陽の隣に陣取ろうと醜い争いが見られると思ったのにこれは意外だ。
「いいのか?暗闇に乗じて太陽に如何わしいことを好きなだけできるチャンスだぞ?人としてどうかとは思うが、そうは言ってられないんじゃないか?」
「……さっきのは私も西御門さんもやりすぎた。今回はお互い1回引いて落ち着こうってなったのよ。」
なるほど。確かにこれなら否が応でも太陽に手は出せないわけだ。1度冷静になるにはもってこいという感じか。
やがて上映時間が近づき次第に暗くなっていく。
「彼方。」
「どした。」
「やっぱり俺は2人とも傷つけたくない。」
「曖昧にはぐらかすつもりか?」
「……」
「2人は振られることも覚悟の上で今日来たんだ。きっと今だって不安で押し潰される手前だ。」
「……分かってる。」
「あいつらの本気を受け止める気がないなら、端から希望なんて持たせるな。」
「そうだな。」
「傷つけないだけが優しさじゃない。優しさと甘やかすのは違う。何か間違いをした子どもを、叱るのと受け入れるでは成長が全然違う。」
「……厳しいな、誰の言葉だ?」
「2年7組在籍、男性鼠径部スコスコ侍さんからでした。」
「……大丈夫か、その子?」
正直嬬恋は少し手遅れだと思う。
映画はよくあるアクション系だった。最近あまり映画館など来ていなかったが、音響の立体感や映像の綺麗さが増してる気がした。それを抜きにしても非常に良かった映画だった。地上波した際には録画でもしておこうかな。
時間もおいおい、夕闇があたりを包み始める。俺らは構いやしないが2人は一応女子高生。夜遅くまで遊ぶというわけにはいかないだろう。だからある程度で帰らせなければならない。しかしこのままバイバイというのもできない。具体的に言うのであれば、太陽が2人を振るまでは。
女子2人がお手洗いに出ている間に少し話をする。
「もしあれなら片方俺が抑えておこうか?」
「......いや、それだと残した方にまた無駄に期待させちゃうからな。どうせなら2人いっぺんに伝えてビンタでもなんでももらうとするよ。」
「そうだな、じゃあ俺も席を外すよ、10分後にまた戻ってくる。」
それだけ残すと俺は一番最初に来た本屋で恋愛の本を眺めた。
「俺もあんまり人のこと言えないよな。」
こころの顔を思い浮かべてそんな言葉を零した。こころはああいったが、心の内までは正直分からない。所詮他人のことなど完璧には理解出来ないのだから。
「......帰るか。」
「......そうだな。」
そこに2人の姿はすでになく、いつもより空虚な笑いを浮かべる太陽がいた。
帰りは行きと違い、随分と静かなものだった。集合施設を出るときも、駅に向かって歩く時も、ホームで電車を待つときも、電車に乗っている時もお互い何も口を開かなかった。
やがて家が見え始めた頃。
「何も訊かないんだな。」
「こういうのはこっちが行くよりもそっちから来るのを静かに待つものだろ。」
「なるほどな。確かにそっちの方がいいかもな。......2人とも静かなものだったよ。ほんと難しい問題だな。」
「......太陽が『愛』を知ることは、きっとすごい難しいだろうな。」
「そうねー。ほんと困っちゃう。」
太陽はほとんどの人、多分俺しか知らないと思うが、親が少し特殊な関係だった。簡単に言うと親どうしが恋愛的感情が一切ないものだった。しかし別に嫌いという事はなく、太陽のことも心から愛してると思う。そして親自体もかなり特殊だと思う。恐らく愛の大きさであれば、並みの親が持つよりもずっと。名称し難い関係で、俺もあの空気は苦手だった。だから太陽は友情ならいざ知らず、自分の恋愛となると途端に自信がなくなる。
『明確な理由がある訳じゃないんだが、2人とは付き合えない』
太陽は恐らくそんなことを言ったのではないだろうか。具体的な言葉を知ろうとまでは思わないが、そのくらい予想が着く。
2人とは少なくても夏休み中には合わないと思う。別段俺と仲がいいわけではないし。だからきっと夏休みが終わったら「そんなこともあったわね」くらいの感じでいてくれると助かる。そうじゃないと少し太陽に連絡する時に言葉に困る。
「あ゛あ゛〜。」
夏休み明けの文化祭への準備は8月以降の為、まだ7月のうちは特に動きがない。つまり今俺は自由そのものだった。特にやることはないが、扇風機にただ当てられるだけのこんな時間も悪くはない。
そんな中、携帯から着信音が鳴った。連絡は水仙からだった。3回ほど無視したが流石に母に怒られた。
「この前家に招待するって話覚えてる?今龍ちゃんも来てるから良かったら来ないかな?」
「いや、いいや。女子だけのとこには流石に行きずらい。」
「……桜介も居るよ。」
「あー、じゃあ行こっかな。」
「……。……駅で待ってる。30分とかで来れるよね?」
「はい。」
そこで電話は切れた。何となく最後の方水仙が怒っていたような気がしたが多分気のせいだろう。別に水仙の家は行ったことあるから案内は要らないけれど。
日照りこそなかなかの暑さだったが、本日は風があり、思いの外駅まで行くのは苦じゃなかった。駅には俺以外にも沢山の学生がおり、夏を楽しんでいるようだった。俺も別に楽しみでない訳では無いが、一体あいつの家に行ったところで何をするんだろう。
「……った?」
「京が来たのか。」
首をこくこくと縦に振る。家の場所を知ってるのなら別にいいけど、ここは水仙姉弟のどちらが来ると思っていた。家でなんか準備でもしてるのだろうか。にしても京とこうして話すのはだいぶ久しぶりだな。
立ち話もあれなので歩きながら話題を振る。
「この前伽藍堂と少し話したけど、あの人とは普通に話せたのか。多分バレンタインのことだと思うが。」
先程と同じような形で質問に答える。伽藍堂のある意味歳離れた安心感は京にも通じるようだった。
「……でも、なんか苦手。」
「逆に京が安心して話せる人って誰だよ。……水仙か。」
「……狐神君も、だよ?」
京も橄欖橋同様キモカワ愛好家だったとは意外だな。