12の箱 8
「単純に考えてさ、頭がいい男子の方が好感持たれるだろ。確かに勉強は面倒ではあるが、高校生のうちはやらなくちゃいけないものだし、今や大学進学も当たり前と認知される程だ。偏差値が低いとこならいざ知らず、ここは進学校でもあるし、基本大学に進むと思うんだが。」
しかし俺の言葉を向こうはまるで相手にしなかった。
「お前ってほんと馬鹿だな!別に好感なんてなくたって、俺はただ女を抱ければ嫌われてても構わない。それに大学の事なんてまだ先のことだろ?俺は今を楽しみたいだけだ。」
シンプルにクズだな、こいつ。伽藍堂、どうやらこいつは俺の手には余るらしい。やっぱり俺らしい方法で攻略するとするよ。
「少なくても学校の中のお前を見てて、あんまり楽しそうには見えないんだが。」
その時に唐突に頬を殴られた。少しだけ口の中にドロっとした感触が広がる。
「……お前みたいな馬鹿の物差しで俺の価値観決めてんじゃねぇよ。」
思い切り殴り返してやろうかと思ったが、後半は確かにこいつの言い分もあると感じた。ノアも前にクルトに似たような事を言っていた気がする。
「……分かった。じゃあ女を宛がう。それでいいだろ。」
「そりゃあ願ったり叶ったりだけど、それをどう信じろって。お前今まで何人の女と付き合ったことあんだよ。どうせお前童貞だろ!?」
俺は責任とかその辺はきちんと分別できる人間だからな。遊び半分で女に手を出したりしない。やるなら本気でその人と一緒にいたいと思った時だけだ。
「……仮にそうじゃなかったら?」
「いや!お前それは流石に馬鹿すぎんだろ!!お前鏡見た事ないのかよ!!」
いい加減ほんとぶっ殺すぞ。
「そこまで罵倒する俺がもし童貞でなかったら?」
「いやいやいや!!そんな都合のいい女、いるわけ……」
ようやく気づいたようだな。
「もしこんな醜悪な姿の俺でも受け入れてくれる女がいるとしたら?」
「……そんな夢のようなみたいな女がいるのか!?」
遠回しにでもそんなに俺を罵倒したいのかこいつは。そんな女性いるわけないだろ。この時代その発言は女性蔑視も甚だしいぞ。
まぁ茶番は進めますが。
「教えてくれ!!その天女の名前は!?顔は!?写真はないのか!?」
必死かよ。無様だな。
「残念だがここから先は話す訳には「協力する!!次のテストで何点でも取るから!!」
どっちが馬鹿だよ。
「以上より村上はこちらに引き入れることが出来ました。」
「あんたかアタオカなんは知ってっけど何であたしに言う?」
話している途中より明らかに鏡石の顔は屑を見る目をしていた。何故と言われれば、グループの話し合いに居て、尚且つ男癖悪そうな女で精査した結果と言うべきかなんというか。
俺の考えが見透かされていたようで、容赦ない蹴りが鳩尾に入る。しかしこれは文句のつけようがない位に俺が悪いので甘んじて受ける。確かにあの時は少し俺も気が狂っていた。
「流石に永嶺とか、事情を話して水仙に頼むなんてことは出来なかった。」
「は?……何、あたしなら良かったんだ?尻軽にでも見えた?誰とでも関係持つような女に見えたの?」
本気の侮蔑の目を向けられたが、俺もそこまでクズではない。こいつには何度も助けてもらった恩もある。
「俺が鏡石を選んだ理由は決してそんな動機じゃない。確かに多少協力はして欲しいという気持ちはあるけど、きっと嫌な事ははっきり嫌だと言ってくれると思ったからだ。永嶺とか水仙は人がいいから、きっと多少嫌だとしてもクラスのためとか言われたら受け入れる可能性もある。それは絶対に駄目だ。……それに、鏡石は顔も性格もすごい良いから絶対に村上も食いつくと思った。」
「……この状況って誰のせい?」
「私が至らぬが故に招いた不祥事です。」
「な。」
俺への視線が外れるとスカートのポケットから携帯を出す。何をしているのかは分からないが、すごい速度で文字が打たれていく。
「とりま何して欲しい感じなの。あたしの学力はお察しだからよく分からないんけど。」
「まだ村上は半信半疑だと思うから、それをまず払拭させるために一芝居打ってほしい。それを仄めかす言葉、俺もその辺はよくわかんないから後で調べるけどそんな言葉をかけて欲しい。勿論テストが終わったらなんかしらの理由をつけて、今回はご縁がなかったことにする。どんな事があっても鏡石には絶対に指1本触れさせない。」
「あんさぁ、口だけはいい感じだけどさ、いざとなった時あたしをほんとに守れる感じなの?」
……正直あのパンチはなかなか聴いたんだよな。あいつボクシングでもやってるのかな。
「大丈夫、最終ラウンド延長戦に持ち越し判定勝ちは出来る。」
「全然安心出来ないんですけど。草も生えん。」
そこで携帯の動作が止まり、やがて電源を切った。
「あんましアガらないけどそのやばたに計画に乗ったげるよ。」
「マ?」
「マ。」




