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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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三角関係 6

そう言うと水仙は包丁を手に取る。顔には相変わらず眩しいくらいの笑みが零れる。淀川はなんか知らないけど限界だったのか、その場に倒れる。

殺すって言うけどお前、そんな学校の包丁程度じゃなかなか死ねないぞ。切れ味悪いから全然刺さらなくてめちゃくちゃ痛いだけだと思うが。しかも相川などと違い文系女子の水仙なら尚更難しいだろう。死にはしないけどめちゃくちゃ痛いってのはとても嫌だが……。

「あ、違う……そういう事か。」

俺は一気に水仙に駆け寄る。机を飛び越え椅子を跨ぐ。その行動に水仙も自分の意図が読まれたと気づいたらしく包丁を構える。

「やめろバカッッ!!」

最後の一歩の跳躍で何とか水仙の手を掴む。そして水仙自身に向けられた包丁を何とか逸らす、まではよかったが勢いそのままに床に叩きつけられる。そのまま床を転がり、やがて机にぶつかり止まる。何とか水仙は守る事は出来たが身体中が痛い。だけどそんなものはどうでもいい。

「俺を社会的に殺そうが構いやしないし、お前が似合わない悪女演じようが知ったこっちゃないけどな、簡単に自分を傷つけるな!もっと自分を大切にしろ!」

「……あなたが言う?」

「……」

頭を殴る。

「うるさい!ゴタゴタ言うな!……とにかく二度とこんな真似すんな。次やったら全力でぶっ飛ばす。その綺麗な顔をめちゃくちゃにしてやる。」

俺の説教に耐えかねたのか視線を逸らされる。全く、これで少しは反省してくれるといいんだがな。……にしてもほんとに体が痛いな。特にお腹が辺りが何か……。

「……てちょっと!包丁!刺さってるよ!」

ボヤーッとしてきた意識の中、自分のお腹を見ると何か刺さってる。あー、勢いよく突っ込んだからそれでか。でも何だか痛みがなく無くなってきた。これは、もしかしてまずいのか?



「これで俺が死んでたらどうするつもりだったんだ。」

「淀川のせいにする。」

「クズか。」

それなりに出血こそしたが、最後はショックにより意識を失ったらしい。ついでに意識のない淀川も搬送されたが勿論すぐに帰された。俺は数日入院が必要らしい。病院は苦手だが致し方ない。

「その、警察にはなんて言ったの?」

「事情聴取はこの後だよ。」

警察が出る必要なんてないと思うが事件性が少しでもあれば一応話は聞かないわけにはいかないらしい。「これだから最近の若者は。何を考えているか全く分からない。」なんて癇に障るような事も言われたが我慢した。

「なんて言うつもりなの?」

「お前は何て言ったんだ?」

「狐神君が料理中足の小指ぶつけて転んだ先に包丁が運悪くあったって言った。包丁は私が動転して抜いたから指紋とかあっても当然て言った。」

まぁ何とも悲運が重なったものだな。というか刺さった包丁って抜いたらすごい血が出そうなんだが。何気にトドメさしにきてないかこいつ。

「お前の違和感のある説明より、俺が順序立てて全部吐いた方が警察は信じそうだな。お前に付き合う必要なんて俺には一切ないし、むしろ復讐って意味では全部話した方がいいな。」

あー、いいねその顔。嗜虐心くすぐられる。逆らうことは出来ず悔しさに滲ませながら、でも極力顔には出そうとしない絶妙な感じ。

「……何がお望み?」

「そうだなー、実際お前は俺に逆らえないみたいなもんなんだし何してもいいとは思うが。」

「……いいよ、別に何でも。何なら淀川がしたようなことでもすれば?自分でも言うのはなんだけどそれなりの体はしてると思うよ。」

諦めの目をした水仙は自ら服を乱していく。

……なんというか、もう投げやりになってるな。まぁ確かにどうしようもなくなったら投げやりになる気持ちはよく分かる。もうどうにでもしてくれという感じ。

でもこの光景はもう見たくない。

「それも悪くはないな。水仙は俺からみてもいい女だと思うし。でもとりあえず1つは絶対やってもらう事がある。」

「何?」

「謝罪。」

「……」

「というかさっき言ったばっかだろ、自分を大切にしろって。……俺よりずっと頭のいい人がさっき来てな、事情を説明したんだよ。黙っててくれることを約束して。そもそも痴漢されたとこを写真に撮ってすぐ相川に助けのメールを送ればよかったのに何でそうしなかったのか、俺にはわからなかった。けどその人は『もしかしたら痴漢なんて初めてで怖かったんじゃないか』って。恐怖心で思うように体が動かないなんて事あるだろうし。……もしそうなら、俺の考えも少しは変わってくる。」

水仙は俺の言葉に手を止め、取り出した携帯を黙って動かした後、写真を見せる。

「これが脅迫に使った写真。……でも実際は間違ってビデオで撮ってたのを切り取ったの。でこれがそのビデオ。」

「お前、これ......」

そう言って見せられた映像に思わず嘆息をつく。率直に言ってよく先程の写真のようなものが切り取れたのかが謎なくらいブレブレだった。動画だけならこれが誰なのかと言われてもまず分からない。

「……もし痴漢をされたら写真を撮っとけば後に証拠になるって聞いたことがあったの。そしてそれが脅迫の材料になることも。だからもしそんな事態になったらそうしようって思ってた。……でも……怖かった。手の震えが止まらなかった。携帯を出すこと、写真を撮ること、メールを送ること。全ての動作が自分の体じゃないみたいに動かなかった。本当に……怖かった……。ごめんなさい。」

今まで強がっていたのだろう、全てが明るみになり張り詰める必要もなくなった水仙は堪らず泣き出した。ここで抱き締めてやれば、もしかしたら俺とこいつの関係は変わるかもしれない。けれど相手が弱ってる時につけ込むのは何となくずるい気がした。それに俺はこいつに好意はない。であればハンカチを渡すくらいしか俺には出来ない。

「いらない。」

「あっ……はい」

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