12の箱 6
その後何故か人気のない場所に連れてこられて、水仙の前でボコボコにされた。なぜだか水仙は俺の事をまるでゴミを見る目で見ていた。
「酷い目にあった……」
5時間目の体育は8組と合同で男子はバレーボール、女子はバドミントンをしていた。人数の関係上、どうしてもコートには入り切らないので誰に言われるまでもなくコートから出て壁に体を預ける。特にそれについて誰かに何を言われることもなく試合が始まる。調子に乗った人間がジャンプサーブなんかをするが全然入らず、威力だけ高いそのボールは俺の右5m位の所へ勢いよくぶち当たる。ネットを挟んで対面にいる女子にかっこをつけたかったのだろう。浅はかなり。とりあえずただ座っていても先生からの印象も良くないだろうし、ボールを持って軽く壁あてをする。
「しょうもな……」
少しだけ壁あてをしてみたが、すぐに飽きる。まだ試合を見ていた方がよっぽどマシだ。視界の端で梶山が綺麗なジャンピングサービスエースを決めて女子が哮る。まるで真ん中を挟むネットが安全装置のよう。もしくは網に捕まったマグロのような迫力。
「……こが……んも……とり?」
「ん?まぁな。」
京が俺の隣にちょこんと座る、にしても最近は色んな人に話される。1年ほどかかったけど、きっとこれが本来の高校生なのだろう。
「ん?」
何やら恥ずかしそうに携帯の画面をこちらに見せてくる。何だろう、こいつがいちいち何かを恥ずかしそうにする度、俺の中に罪悪感が生まれるんだが。
そこには少し昔ながらの喫茶店があった。どことなく雰囲気が前に行った喫茶店と似ていた。
「……の前……みおちゃんと……行って……おすそ分け……」
一体何をおすそ分けされてるの?別に水仙がコーヒーの熱さに驚いてる写真とか見ても嬉しくないんだが。でも雰囲気は確かに悪くないな。ちょっと行ってみたいかも。
「このお店ってどこにあったか教えてもらってもいいか?ちょっと行ってみたい。」
その言葉にパァッと表情が明るくなる。好きなものが共感されると嬉しくなるのは分かるが、そこまでか?
すぐに場所を調べて見せてくれた。アドレスなどを交換して情報を送って貰う方が楽ではあるが、それでは距離を詰めすぎか。とりあえずメモしよう。
「……今度……い……いく?」
「お?」
その時の京の顔は過去に見ないほどに真っ赤だった。まぁ仮にも異性を喫茶店に誘うなんて、まるでデートみたいに捉えられてもおかしくないからな。とはいえ俺は京に好意はないし、京も前まで乱獅子に一応好意を抱いていたんだ。そんな意味合いを含めた誘いではないことは自明だ。しかしすごい顔だな。最早茹でダコとかそんなものじゃないくらい。赤いペンキぶっかけられたぐらいだぞ。事実俺が返事をする前に無事茹で上がり保健室に送る羽目になった。
「じゃあ後は任せた。」
交代を言いに来た水仙が丁度のタイミングで来たので、一緒に保健室に来た。別に俺は意識がないこいつをどうこうしようなんて微塵も思ってないのだが、それでも心配なのだろうか。もう少し俺も水仙から信頼を得られるようにしなければ。
「来るの?」
水仙が駆けつけた時、京の携帯は開いた状態で落ちてた。それを俺に見せて誘って緊張で倒れたなんてことは容易に想像がつく。正直どちらでも良かったけれど、京がまだ俺相手にこんなに緊張してしまうのであればいない方が楽しめるか。
「いや、やめておく。京に無茶はさせるつもりは無い。悪いが京には謝っておいてくれないか?」
「あなただから緊張しちゃったんじゃないの?」
「?そりゃあ俺は男だし、水仙を誘うのとは訳が違うだろ。」
「……もういい。後は私が見るから戻っていいよ。」
何故かまた水仙から蛇蝎視された。
戻って先生に事情を説明するとお咎めは一切なかった。残り時間も10分ほど。バドミントンの方は大方終わり、みんながバレーボールの試合を眺めていた。7組と8組の代表試合はなかなか見応えがあった。梶山が鼓舞しつつ運動神経がいい人達が繋いでいく。強烈なスパイクこそなかったが、確実に返球をセッターにボールに触らせて防御に徹していた。リベロが逆に出番があまりなく、たまに来る強めの玉を上げることくらいしかさせなかった。ただ相手方にも恐らくバレー部の人間がおり、いやらしいツーアタックや1人時間差なとで差を埋めていった。特に1人時間差は初めて見たがブロックが見上げる中、上からボールを叩きつける姿に感嘆の声が漏れた。しかしバレーはやはり集団競技。8組のバレー部も凄かったが、最後は体力切れで7組が勝利した。俺の知らない間に一部を除いて団結力が思いの外あることを知る良い機会だった。