12の箱 2
「やっぱ兜狩と鶴のクラスはすごいな……。連日ずっと自主補習なんて。どうやったらそんなみんなまとまるの?」
「そんな大した事はしてない。基本的には俺が多少無理してでも引っ張って、そこを鶴が優しく説いてくれている。正直ほとんど鶴のおかげだ。」
「……そんなこと、ないと思う。」
昼食時、母さんが弁当を作り忘れたということで、学食を一人虚しく食べていたところ、2人が相席という形で来てくれた。何となくわかる人にはわかると思うんだけど、何だか食事をしている所を見られるのはどこか恥ずかしい。会食恐怖症かな?
「……狐神君が食べてるの、お稲荷さん?美味しそうだね。」
「安いしお腹溜まるし、醤油、味醂の香りが今日の学食のメニューで一番感じた。もし良かったら1つ食べ……買ってくるよ?」
「……ううん、狐神君がすごい美味しそうな顔で食べてるから。私は私の分あるから大丈夫だよ。」
「何だかこそばゆいな。鶴はそれしか食べないのか?」
そこには茶碗半分もないご飯と、小さな鮭、たくあん、味噌汁しかなかった。年頃の女子はご飯を少なめにする傾向があるけど、結局間食とかで元はとってると思う。でも鶴は多分それはないからきっと夜までのエネルギー源はこれだけだろう。前は気にしないくらいには普通に食べていたと思ったんだが。
「……朝しっかり食べてるからかな。」
「あぁ、なるほど。ところで2人はテスト対策の話し合いとかで一緒に昼ごはん食べる流れになったの?そしたら俺は席外した方がいいかな?」
「確かにテストについて話してはいたが、その休憩がてら食堂に来たんだ。後から来て追い出すような真似はしない。普通に接してくれると助かる。」
うちのクラスなんて全然話なんて進んでないのにほんとこの2人はすごいな。給料とか貰っても全然いいくらいだとは思うけど。
「純粋な質問なんだけど、どうしてそんなにクラスの為に頑張れるんだ?」
その質問は結構意外だったようで兜狩はしばらく悩んでいた。鶴は一言「……私に出来ることだったから」と言った。この子は何だ、詐欺とかナンパとかに直ぐ騙されてしまいそうで不安しかない。
「あんまり考えたことはなかったな。確かに鶴の言うように、俺に出来ることだったというのもあるな。だがすまない、あんまり答えという答えが見つからない。」
「いや、俺も少し答えづらい質問してすまん。」
多分生い立ちとかそこら辺から起因するんだろうな。明確に理由なんてない、ただ出来たからやっただけ。誰かがテレビかなんかで言ってたけど、大学とか就職とかって明確に『これがやりたい!』って人よりも『これならできるかな。これならまぁいいかな』みたいな感じの人が多いと聞いた。この先どんな風になるかは俺もわかんないけど、多分妥協と折り合いの中で生きていくんだろうな。
「雑談というわけではないが、その後星川と黒瀬はどうだ?同じクラスの……確か不和と榊原とは関係がなかったと聞いたが。」
あー、そう言えばそうだったな。確かに今回は関係なかったが、黒瀬は俺に兄の件で恨みは持っているという。1度失敗しているからそんな軽率なことはしてこないだろうけど、次何をするか分からない。でもそれ以上に分かんないのが星川なんだよな。あいつは以前『少なくても狐神先輩にそういったものでマイナス感情は持ってません。そこは信じてほしいです。』なんて言ってたけど、俺のことは嫌ってるんだよな。本当にわかんないな、まずあの言葉をどこまで信じていいのかも分からないし。
「何されたってわけじゃないけど、進展はしてないね。生徒会室でギスギスした雰囲気は嫌なんだけどな。2人にはなんかした?」
これには2人とも首を横に振る。となるとやっぱり完全に俺の事をマークしてるよな。でもマジで星川は姉も含めて接点何もないと思うんだけどな。一応前に太陽と西御門に中学で星川って人がいたかと聞いたが、どちらも答えは同じ『いいえ』だった。
「まぁ冤罪も解決してクラスの雰囲気も悪くは無くなったからそこは救いかな。だいぶ教室には居やすくなったよ。」
「……そうなんだ。」
先日の件があってから隣からのプレッシャーもなくなったしな。もう反対側はなんか若干空気になってきてるが。
「俺何かからすれば、お前の方がよっぽどすごいと思うけどな。」
「俺もギリギリだったよ。というか本当に死のうと思ってたし。多分あの日鶴が話しかけてくれなかったらダメだったと思う。今更だけどありがとう。」
「……ううん、私は……大したことは何もしてないよ。」
「まるで2人は付き合っているみたいだな。初々しさを感じる。」
「……兜狩、冗談でも「意外だな、君がそんなことを言うなんて。」」
兜狩の冗談に反論しようとした時に意外な闖入者が言葉を挟んだ。そういえば生徒会役員を決める時もけしかけていたな。何か縁でもあるのだろうか。
「どういう意味だ、鴛海。」
「君もそんな顔をするんだな、兜狩君。」