止まらない怨嗟 28
バレンタインより前。不和は冤罪が徐々に解決していく俺の事を見て、少なくても1度は手を止めた。もし全てが冤罪だった場合、間違いなく不和達は今よりもずっと問題視される。1度手を止めて様子見をしようとしていた。仮にもグループのトップ、下のことを考えてないわけではなかった。
だが不思議なことに過激なものこそ無くなったが、小さな嫌がらせは変わらず狐神に続いた。狐神は最早気にもしていなかったが、周りからは白い目で見られた。勿論不和は不思議に思い、恋人でもある本坊に相談した。女子陣営でも不和に逆らう者はおらず、その正体が誰かは分からなかった。しかし裏切り者がいるとみんなに言うと間違いなく混乱する。不和と本坊は秘密裏にその人物を探した。
けれど本坊は不和よりも危機感を抱いていた。もし今の小さな嫌がらせが急に過激なものになったら、きっと犯人は不和にされる。今までの行いが悪かったせいで。不和に言っても何が出来る訳では無い。頭が回らない自分も大したことは出来ない。自分に出来ることは何かと考えた時、自分の悪名を利用して好きな人を守れる手段を一つだけ考えた。例え自分が犠牲になろうとも。
しかしその作戦は失敗した。何となく分かっていた。今まで自分たちの凄絶な虐めに耐え抜いてきたんだ。こんなもので今更辞めるわけなかった。裏切り者が誰か分からない中、一か八かの勝負に出たがそれは呆気ないものだった。この後は勿論自分でも裏切り者を探すつもりだった。でもそれはきっと無理だとも分かっていた。
だから狐神に縋った。もしかしたらいくつも冤罪を解決してきたこいつなら、私たちの中に潜む裏切り者が分かるかもしれない。例え私がどんな目にあおうとも、裏切り者が暴かれ、不和が無事であればそれでいいと。
そして嫌な予感は的中し、2年生になって樫野校長とやらにあってからまるで人が変わったように不和は過激になった。それは周りの人間も若干引くほどに。でも今更先生には助けは求められない。誰がどんな手段でこんなことをしたのかも分からない。目的だって分からない。
「ごめんなさい……私はどうなってもいいから……どうか、透也だけ助けてださい……」
それがこころが本坊から聞いた全てだった。こころはあのバレンタインチョコの話から本坊がキーパーソンだということには気がついていた。そしてその日のうちに既に接触していた。
そしてクルトと榊原が不和をけしかけた張本人と言うことも説明した。今回の件に生徒会の2人は全く絡んでいなかった。
「......長いっすね。よくわかんないっすけど、結局俺が犯人て決め手はなんすか?」
「中原あらんを名乗って榊原とクルトに接触して、不和を陥れようとしたこと。」
犯人というか、今回はクルトチームと高梨が同じタイミングで不和に接触したから変な風になった感じだからな。結局今回の件は俺目的ではなかった訳だが、なんだか無駄に動いた気がする。後はあいつらに任せるとするか。
「後はお前らで勝手にやってくれ。」
振り返ると何とも言えない顔をした不和と本坊がいた。最早現状を説明する意味もなさそうなので、俺はその場から立ち去った。
「!!だ、大丈夫か!?あいつになんかされなかったか!?」
「はい、特に何かされたわけではないですから。」
一通りその表情と軽く体を見た感じ、確かに何かされたということはなかったようだった。それに安堵すると同時に一つの疑問が頭を過った。
「一応聞いておくが、高梨に拉致でもされたのか?高梨の発言も踏まえてその可能性は薄そうだが、どうしてこころを引き離すことができたんだ?」
「え!?えっと......それは別にごにょごにょ「お前の着衣裸差分の写真なんか戯言にまんまと嵌ったんだよ。」うわぁぁぁ!!それは言わないって言ったじゃないですか!!」
......深くは突っ込まないでおこう。これから先こころのことをまっずぐ見ることはできないかもしれないが。
「にしてもお前もありがとな。元中原あらんさん。」
もっと早く来る事も出来たが、俺が後輩に頼って解決したとなっては、結局あいつに俺が舐められっぱなしになってしまうので、それを避けてのことだった。本当に気が利く。
「弟子が迷惑掛けたその詫びだ。」
高梨の機械関連の師とも言えるのがこの山田アリスだった。先程の音声サポートも窓の外に飛ばしていたこいつの開発した超静穏ドローン搭載型指向性スピーカーというものらしい。詳しいメカニズムは全然分からないが、どうやら極一部の位置にだけ音を飛ばせるらしい。ただまだ研究段階らしく、多少のノイズ音や、部屋の空間によっては上手く作用しないらしい。けれど高梨も機械関係で耳が聞こえにくいらしく、全く分からなかった様子だった。
「にしてもどうして山田が中原だとわかったんだ?」
「パソコン部に体験入部の振りして行った時に、機械に一番強い人と聞いたら名前が出てきたので。その後は上手く面会の機会を設けていただきまして。」
なるほどな。すごいシンプルなことだった。
「一応言っておくが、中原あらんの名を使っててめぇに下らないことしてたのはあたしじゃねぇからな。」
「それはわかる。山田の性格なら多分直接来るだろうし。」
「おう。ぶっ潰してやるよ。」
「こわ。」
そんなことを言っていると、中から何かが壊れる音がした。しかもそれは止まることなくずっと続いていた。きっと不和と高梨が殴り合ってでもいるんだろう。しかしそれにはもう俺は関係ない事だ。好きなだけやればいいと思う。
「そうはならんやろ……」
結局不和の行いが本坊に心配をかけたということと、裏切った高梨を本坊が両成敗という一人勝ちというか漁夫の利に終わった。どんな勝利をしたのかは分からないが、翌日の2人は包帯や湿布を至る所にしていた。しかし気のせいか、手を繋がされている高梨と不和、本坊の表情は晴れているように見えた。
「狐神君、それはどういう顔?」
「なんか俺だけ損な役な気がする。」
「?」
意味が分からない永嶺と、隣からくしゃみの音が響いた。




