三角関係 5
「どのくらいの時間触られてたかわかるか。短いや長いだけでもいい。」
「だから分からないよ。長くは感じたけどそんなの体感だし。」
「そっか、ごめん、少し踏み込みすぎた。」
頭を下げる。これ以上は水仙に質問はしない方がいいな。なら今度は先程から黙っている相川にいくか。何か考え事をしているようだが。
「相川がメールを受けて水仙と俺を見たまでの時間てどのくらいだったか覚えてるか?すぐ向かったのなら短い時間だと思うが。」
俺を睨みながらも腕を組み考え続ける。俺に嫌悪感は相変わらず示しながらも、何となく違和感を感じ始めているのだろうか。
「人をだいぶ押しのけてったから2、3分もかかってないと思うが。ちょっと待って。」
ポケットから携帯を出し素早い動きで携帯を打つ。そしてやがて出てきた画面には『8時23分』にメッセージが受け取ったことが書かれていた。
「あの時の電車は25分着だから2分くらいだな。」
「それならその資料が間違ってるだろ。それ通りなら4つ前の駅から痴漢され続けてラスト2分で助けを求めたみたいじゃんか。携帯ならすぐポケットから出せるしおかしいだろ。」
……そうだな、この資料でも音楽を聴いてたって書いてあるし携帯がポケットにあったのはほぼ確実。ということは……。
けれど俺が次の言葉を言う前に問題が起きた。少し考えれば分かったこと。先程踏み込みすぎたと言ったばかりなのに。
「ううっ……」
「美桜!?大丈夫か!?どうした!?」
水仙は当初のフラッシュバックに耐えられずその場で倒れ込んでしまった。
「あの日のこと無理やり思い出させて水仙が倒れたんだって。」
「あの日って、痴漢の?」
「そう。自分の無実を証明するために思い出したくもないことを詰問したんだって。ほんとクズだな。」
「人の心ってないのかな。」
あともうちょっとで真相が分かると思ったのに、最後にとんでも爆弾落としてくれたな。別に俺の評価がこれ以上下がるのは構わないが動きづらくなったな。最近はカンニングや文化祭泥棒の罪を晴らして僅かに株が上がったかもしれないのに。希望的観測だけど。とはいえここまで来たんだ、全部真相ぶちまけて後味悪くしてやる。
「……噂は聞いてるよ。よくまた僕の前に顔を出せたね。」
そんな淀川の強がりについ鼻で笑ってしまう。
「怖いですよね。」
「は?」
「脅されていた事が明るみに出る事です。家族からは見捨てられるでしょうね。」
その言葉を受けて、淀川がまた場所を変えて話すことを提案して来た。流石にクラスの前ではこの人も話せまい。焦りが前回よりも増して見える。
「真実の一歩手前で水仙は倒れて難を逃れました。彼女には劣りますが名演技でしたよ。けれどそれも時間の問題。つまりそのくらいは分かってます。にしても水仙は大した女ですね。あの時の俺の発言も案外的を得ていたんですね。」
「……どうしたら黙っててくれるかな。」
「一つ確認したいです。写真は撮られてるんですよね?」
俺の言葉に無言で頷く。となると正直これ以上は俺にはどうしようもない。あとは水仙と淀川の問題だし、真相が明るみになったところで俺の評価は変わらないだろう。
「とりあえず水仙の仮病が治り次第会いに行くつもりです。その時に一緒に行きますか?」
またも無言で頷くと連絡先を渡され足早に去っていった。これは俺が水仙に連絡を入れた方がいいのか?
水仙に連絡を入れてから2日後、ようやく向こうから連絡があった。高校生の連絡ってもうちょっと頻繁だと思っていたが。内容は簡潔に『放課後に調理室に来て』と一言。この文だけならもうちょっとキュンキュン出来たんだろうな、なんてアホみたいな事考えていた。
「今日は私とあなた、それと淀川さんしかいないよ。理由は分かるよね。だからそう構えないでいいよ。」
じゃあお前の目の前にある包丁をどうにかしてくれないかな。料理でも振舞ってくれるなんてわけないだろうし。淀川は前会った時よりなんか痩せ細ってるし。俺の読みはだいたい当たってるらしいな。
「それで何から話始めればいいんだ?とりあえず俺の予想が当たってるか確認でもするか?」
「そうだね、じゃあそこから始めよっか。」
初めて水仙が俺に笑いかけた。本当にその笑顔がこの時以外に見れたらどれほど良かっただろうか。
惜しい気持ちを押し込み話し始める。
「前、相川と式之宮先生と話し合った時にも話した事だが、メールを送ったタイミングがあまりにもおかしいんだよ。携帯がポケットにあったにも関わらず。」
「ふぅん」とまるで興味のない返事。言いたい事はあったが呑み込み、ため息を混じりにまた話し出す。
「それで友人に聞いたら痴漢を逆手にとって金を巻き上げるなんて方法があるとのこと。……つまりお前は淀川さんに痴漢された時からそれを利用し金を巻き上げたんだろう。証拠ならお前の携帯とかUSBとかにその写真があるだろうな。」
そこに下らない正義感から俺が乱入し場をめちゃくちゃに。水仙は痴漢被害者に、俺は冤罪者に、淀川は弱みを握られた人なんてまるで被害者ばかりの関係が生まれた。勿論1番の被害者はダントツで俺だがな。加害者は……誰になるんだろうな。
そこまで話し終えると急に水仙が笑い始める。それを必死に抑えるが肩がカタカタと震える。そこにはもう前までの水仙のイメージはない。
「いいじゃない別に。こっちだって不快な思いしてんだから。サービスよサービス。金をもらう代わりにいい経験出来たでしょあんたも。」
そう淀川に言うが、本人はもう相当参ってるようで反応しない。それにイラついたのか、どギヅイビンタがお見舞いされた。思わず「ワォ」と言ってしまった。見てるこちらとしてはとても心地よい。コンフォタブル。控えめに言って最高。いいぞもっとやれ。
「だったら二人で勝手にやってろよ……とは思うが変な正義感に駆られて突っ込んだのは俺だからな。それに今更違うとみんなに言っても地に落ちた俺の評価は上がらない。んで?結局この後どうするって話。その包丁で殺すか?」
なんて冗談を言ってみる。
「うん、大正解!」