止まらない怨嗟 21
もしクルトに俺たちの学年の情報を流している人がいるのであれば、おそらくその人が今回の件も関与しているだろう。俺と不和をぶつけさせて、どちらか、もしくは両方が退学することを願っている人物。候補が思いつかないわけではないが、誰も彼も確信には至らないな。
先ほどの部屋に戻り、ノアに進められてコーヒーからいただく。あまり味わった事のない香りだったが、それはまさしく一級品というにふさわしいと感じた。それはまたお菓子も同様だった。
「じゃあまず、クルトが狐神のクラスの不良、不和のことを誰から聞いたのかから話しなさい。」
実際適当にうちのクラスの誰かに聞けばそんなことはすぐにわかるだろう。そしてクルト1人で動いたのであれば問題はあまり大きくはない。けれど今危惧しなければいけなのは、俺を退学させることを望んでクルトと結託した人がいるかどうかだ。クルトはノアがいればある程度は自制させることはできるだろうが、もう片方はしっかりと対応しなければ面倒くさいことになる。今の俺は比較的まともなの学校生活を送れるくらいには地位は回復したが、それでも何か一つでも問題を起こせば「やっぱり狐神って......」と簡単に落ちかねない。それはもう勘弁してほしい。
「一応相手から名前は伏せられるように言われているんですが。」
「20分後に飛行機を用意しておくわ「榊原って男です。」」
これにはノアもため息を出していた。俺も少し考えてその理由が分かった。確かに榊原は俺のクラスだから勿論不和と俺の関係は知っているだろう。榊原は実際に不和たちから被害も出している。しかし俺を退学させる理由が全く見当たらない。それにリーダーたちが集まったときにはまだ転校してきてない。榊原を名乗る偽物に騙されたか。
「言っておくが本物だぞ。あの時期に狐神に接触するリスクを鑑みても相手の素性を把握しておくのは当然だろう。」
そういうと写真が載った履歴書のような書類を持ってきた。そこには俺もよく知る隣の住人の顔があった。どうやら間違いではないらしい。
「でもそれだと転校してくる前からすでに俺のことを少なからずよく思ってなかったってこと?確かに遠井先生とかにあらかじめ『狐神ってどんな生徒ですか』って聞けばいい印象はないだろうけど、それで退学まで追い込むか?」
「入学前に退学にするメリットを考えてみましょうか。」
少なくても俺が知る榊原とクルトの話す榊原の人物像がイマイチ合致しないんだよな。いや別にあいつが実際は腹黒でした、って言われてもあんまりショックは受けないと思うけど、両方の隣人が俺を憎んでいるというのは過ごしづらくはあるな。高校に上がると本当に席替えの頻度減るからな。
「......一回情報を整理してもいい?」
ノアから答えをもらう前に一度自分で整理したかった。情報が錯綜している中、答えを聞いても理解できる気があんまりしないし。
適当な紙をもらって時系列的に事柄を書いてみる。
新学年前、クルトがどのようにしてか榊原と接触を持ち俺の情報を渡す。情報源は遠井先生?
「そういえば......」
情報源は遠井先生、もしくは榊原の父親が教育関連のため、そこから得たか。
「そして......」
2年生に上がり席替えをした。隣の席になったこともあってか、俺への当たりも強くなった気がする。そして不和が榊原に直接攻撃をする。この時点で既に不和と俺への恨みの増幅暗示は完了済み。
「明確に分からないのは榊原がいつ俺に恨みを持ったのかだな。」
「ちなみにクルトはどうやって榊原と接触したの?」
ノアに呼ばれたクルトは従順に答えた。
確かにそこは疑問だった。クルトの方からアプローチするのであれば、全然接触は可能だと思う。仮にもノアの家のものであれば、勿論ノアに聞くこともできるだろうし、自分でも如何様にも探せると思う。けどまだ入学前の1年生相手、しかも俺に恨みを持っている人に接触するのは難しいだろう。自分だってまだ学校の生徒ですらないのに。
「普通に向こうから『あなたは狐神彼方という人物に恨みを持ってますよね。』というところから始まりました。」
「そこに疑いはなかったのか?自分の事を第三者に知られているのは少なくても猜疑心を持つには十分だと思うんだが。」
「んなわけないだろ。人に恨みを持って見ず知らずの人間に声をかけるなんてまともな人間じゃないしな。」
そうなるとますます分からんな。少なくてもそこまでは普通の人間の反応だ。そして普通の人間であれば例え恨みを持っていようとも、その手は取らない。
「じゃあ決め手は何だったんだ?」
「『ヒーローになりたい』そう言われてな。」




