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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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三角関係 4

そこから2日待ってみたが向こうの動きは一切なかった。極力相手にしないようにしているのだろうか。いつまで待っていても変わらないのでこちらから攻めることにした。

「なんかでも若干シンパシー感じちゃうんだよね。」

「……シンパシー?」

「あ、いや何でもない。悪いな、時間もらっちゃって。」

首を振る鶴には申し訳ない程度の茶菓子を用意する。これから質問することも失礼な事この上ないしな。

「……訊きたいことって?」

「その、だな。今俺は痴漢の冤罪を晴らすために東奔西走中でな。それでちょっと、いやめちゃくちゃ失礼なんだが、その、被害者側の意見を伺いたいと言いますか……」

「……はぁ。」

そのセリフはどっちなんだい。呆れてるの?そのくらいのことかって方?狐神わかんない。

「……私は痴漢はされたことないから分かんないけど、それでもいいの?」

「あ、全然大丈夫です。話して頂けるだけ感謝してもし足りないです。」

「……わかった。」

茶菓子を1つとり口に運ぶ。どうやら気に入ったらしくそのお菓子だけ自分の手の届く範囲に置いていた。そしてお茶を1口飲むと話し始める。

「……やっぱりそういう事されると一番頭にあるのは恐怖かな。扉が近かったり、降りられる駅がすぐ近くなら逃げられるんだけどそうじゃない時は辛いね。でも変に抵抗すれば更に何をされるのか分からない。だからその時間だけは心を殺すようにして、ただそれが終わるのを待つことしかできないかな。怖くて動けないから、逃げたいって思っても、それすらも叶わない。……でもごく一部の人が悪いって事はわかってるよ。それに今は男性が被害者になることもあるから。」

やはり男の俺よりもずっと具体性がある。

「男が痴漢されるってこと?」

「……それもあるかもだけど、痴漢をしてないのにしたって言われること。冤罪だね。それともう一つは痴漢をされた際写真か何か証拠を取っておいて、それでお金を取ること。」

今はそんな当たり屋みたいな事件も起きてるのか。昨今の犯罪の多様性は豊富だな。


ある程度話も聞けたので今日はこのくらいにしておいた。あまり突っ込んで聞いていい話でもないからな。話を締めくくり「今日はありがとな。」と告げる。

「……私からも、訊きたいことがあるんだ。」

「ん?いいよ、何でもどうぞ。」

「……白花さんと仲良いの?」

これには俺も盛大に咳き込む。気管支に唾が入る。呼吸が苦しい。だけど鶴の背中をスリスリしてくれるのは気持ちいい。

「ぞんなごどないげど……どうして?」

「……この前ショッピングモールにいるの見て。夏祭りの時も一緒にいたってみんな言ってたよ。」

ショッピングモール?……ああ、安川から話聞いた後に付き合わされたやつか。一応変装してたはずだけどわかる人には分かるんだな。

「やっぱり鶴も女の子だな。恋バナ好きなのか?」

「……別に恋バナをしてるつもりはないけど、恋してるの?」

「してないしてない。そもそも生きてる世界が違うって。それに俺はもう恋愛とかしないって決めてるの。このミサンガがその戒め。」

そう言ってだいぶ傷んだミサンガを見せる。不器用であまり上手くなく汚くなってしまってるが、……とても大切なものだった。

「……てことは恋愛してたんだ。誰?私の知ってる人?」

「予想以上にガンガン来るな!これ以上は恥ずかしいから言わない。」

「……私も恥ずかしかった。辱めを受けた。それに何でもきいてって言ったよ。」

「それはその……何でも答えるとは言ってないから。」

それから鶴の誘導尋問にずっと捕まっていた。だいぶ参ったが、鶴のやや意外な側面を知れて良かったとも思った。


でもやはり水仙から話を聞かないと話は進まない。けれど水仙が1体1で話をしてくれるとは思えない。だから俺は式之宮先生に頼み込み間に入ってもらった。これなら水仙も文句はあるまい。

「水仙はいつもどこの駅から乗ってるんだ?」

「5つ離れた駅だよ。」

「乗ってどのくらいでっていうのは覚えてるか?」

「わからないよそんなの。怖くてそれどころじゃないから。」

そうなんだよな。もし何かあっても「怖くて覚えてない」とか「思い出したくない」とか言われてしまえばこちらはあまり踏み込めない。そもそも被害者だしな。ここで「乗ってすぐ」と言えばすぐ俺の無実は証明されるんだがな。何を言ったものか……。

「狐神が犯人とされた理由は確か友達に助けを求めたメールを送ったタイミングで後ろにいたからだったか。それは誰が見たんだ?」

式之宮先生の質問に俺が「うちのクラスの相川です。」と答える。その後先生は水仙を連れ部屋を出ると、やがて相川も連れて帰ってきた。水仙を連れ出したのは一応2人だけにする訳にはいかないとかそこら辺だろう。そして相川を席に座らせ、先生があの日のことを質問する。

「美桜は入学してすぐ仲良くなったからあの時にはもう友達だった。その友達から助けを求められてほっとけるほど冷たくはない。すぐに助けに行ったら後ろにその男がいた。それだけっす。」

「……すぐに助けに行ったって、最初からどこにいたのかわかったような言い方だな。」

「わかるも何もメール見ればわかんだろ。」

「そうだな。自分がどのくらいでされたのか覚えてないのに場所は覚えてるんだなって思っただけだ。それにこの資料によれば水仙が受けたのは4つ前。水仙がメールを送って相川がすぐ向かったのなら遅いなって。」

そう言って前に瀬田会長に見せられた資料を見せる。しかし後半のはブラフだ。朝の電車はとても混むため簡単に移動出来ないのは俺が痴漢を止めさせようと同じ車両を移動するのも4駅分かかったくらいだ。何故ブラフをかけたのかと言えば、俺はこの水仙という女にやや懐疑的だからだ。大した根拠はないけれど。

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