敗者の末路 3
そして勢いよく開けられた扉の向こうには4人の生徒が何かを話し合っていた。勿論その視線はすぐに俺へ向いた。
「何ですか先生。出ていったと思ったらすぐまた帰ってきて。何か変なの連れてきてますし。」
部活に行った時もそうだが俺はあまり顔は知られてないんだよな。名前を出せば多分1発で分かるんだろうけど。そしてすごい嫌そうな顔されるんだろうけど。
「うちの庶務の席空いてたよな。この生徒入れられないかと思ってな。どこの部活にも入れないで困ってるんだよ。」
その言葉だけで何となく俺が誰だか分かったのだろうか、恐らく生徒会長が「へぇ…」と笑う。怖いなぁ。他のみんなはただじっと俺の事を見ている。その顔からは何を思っているのかはさっぱり分からない。
「し、式之宮先生。やっぱり俺何かが生徒会入るのなんか無理ですって。こんなの迷惑ですって。」
「迷惑かどうか決めるのは狐神じゃないだろ。どうだ?瀬田?」
瀬田と呼ばれた恐らく会長は少し考えてから口を開いた。
「とりあえず今日は遅いんで帰りましょ。」
確かにその後どうアプローチしてくるのかなとは思ったが、まさかその翌日、校内放送で呼び出されるとは思わなかった。あれってなんか呼ばれるとすごい緊張する気がする。
そんなわけでまた生徒会室。一呼吸おき扉を3度叩く。すると間もなく「どうぞー」と気の抜けた声が聞こえたので「失礼します」と言い部屋に入った。中には会長さん1人。何らかの書類をペラペラと捲っている。そして大きく欠伸を1つ。今の印象としてはとても気の抜けた人って感じだな。
「えっと、狐神彼方か。名前は勿論知ってるぜ。お前は今この学校の1番の有名人だからな。」
何と言葉を返したものか、とりあえず「はぁ」と言っておこう。不名誉な限りだ。
「しっかし入学早々いきなりおっぱじめたんだな。えーとなになに?」
ほんと、入学早々こんな事したなんて最早笑い事だよ。……笑えないけど。
「窃盗に痴漢、強姦に暴力か。オンパレードだなおい。これでほんとよく停学1ヶ月で済んだな。」
そう、俺には4つの罪状が貼られている。本来なら間違いなく退学どころか少年院さえ入れられそうだが式之宮先生の働きかけか、1ヶ月の停学だけで済んだ。とはいっても失ったものはそれよりもずっと大きいがな。……ほんと、嫌になる。
「で、だ。」
「まだ俺に何か聞くことありますか?」
「お前は本当にこれをやったのか?」
……久しぶりにそう言われた気がする。最初の頃は確かにそんな事を言う人も少しはいた。けれどやがて本人の確認もなしにそれが事実となっていった。大勢がそうだと周知すればそれが偽物だろうと関係ない。本物はどれだけ周りに認知されてるかに依存される。
「……そうですよ。俺がやりました。」
いつからか否定する事さえ億劫になっていた。虚しく感じてきた。1人だけ違うと宣うことが。認めてしまった方がずっと楽だった。どうせ今さら何を言ったって遅いだろ。
「それでは、失礼します。」
俺はその扉を閉めた。まるで淡い期待を拒絶するように。
「いや勝手に終わらせるな。」
こちらの傷心的な気持ちも知らずにまた俺は引きずり込まれた。一体何なのだろうかこの人は。顔を見ると少し楽しそうな顔をしているように見えた。何を考えているのだろうか。そして今度は誰もいないのに意味もなく声を小さな声で質問してきた。
「なぁ、正直なとこ痴漢てどこ触ったんだ?」
……この野郎。ただの変態かよ。
「そんなこと知ってどうするんですか。生徒会長が痴漢とか、今度こそ学校の面子丸つぶれですよ。」
「まぁまぁ。どんな感想だったか聞きたいだけだよ。どこ触ったんだ?どのくらい触ってたんだ?」
うりうりと肩を小突いてくる。なんでこんなのが生徒会長をやってるのか。本当に大丈夫かこの学校。
「……太ももからケツにかけて触りました。2つくらい前からの駅です。これで満足ですか?」
「えーそれだけか?もっとあるんじゃないのか?」
「ないですよ本当に。もういいでしょ。帰りますからね。」
そして無理やり会長から離れ早足で扉に向かい手をかける。
「残念。被害者が触られたのは胸もだ。そして触られたのは4つ前の駅からだな。だいたい4つ前から2つ前まで胸を触られ、後はお前の言う通り。……どうして嘘をついた?」
「別に嘘なんかついてませんよ。じゃあ俺の前にも痴漢に遭ったんじゃないですか。可哀想に。」
自分でも苦しい言い訳だと思った。でもそれ以上は何も思いつかなかった。だってこんなに踏み込んで聞いてくれる人はいなかったから。
「そんな連続的に痴漢に遭うことなんてないだろ。普通に考えて4つ前の駅からずっと被害に遭ってた。……そして。」
先程会長が読んでいた資料が放られる。その1枚には俺の定期券の詳細と住所が書いてあった。
「お前の家はここから2つ離れた駅のすぐ近くだな。そして当然定期もそこの駅だ。通学するのに2つ前の駅から乗る馬鹿がどこにいる。」
「……でも2つ前からは俺の言った通りでしょ。」
「なんでそこまでお前が罪を被る……。確かにお前の言った通りだ。でもそれは襲われてるのを見ていた人でも言える。」
この人はどれだけ突き放しても詰め寄ってくる。それが正しいと思えるから。俺はそれが少し怖い。
「だとしたら、俺は襲われてるのをボーッと見てたクソ野郎「女性の多くは、なるべく事を大きくしたくない。止めようとしても、電車に人がたくさん乗っていたら簡単には身動き出来ないし、声を上げてその事を止めようとすればきっとその女性はとても恥ずかしい思いをしただろうな。1800人近い生徒が電車に乗るわけだ。可能性は十分すぎるほどある。」」
反論は思いつかなかった。今まではいくら違うと言っても否定された。そして半ば自白のように言わされた。認めてしまった方がずっと楽だったから。そしていつからか本当に自分がやったのではないかとまで考え始めた。
「少なくても俺はお前が痴漢をしたとは思ってない。ただそれだけだ。」