止まらない怨嗟 14
しかしそうは問屋が卸さないと。
「狐神先輩。」
明らかにさっきの可愛いモードから一転して真剣な雰囲気を感じる。ノアがいるから安心だと高をくくってしまっていた。ここで攻めてくるとは思っていなかった。
「どうした。」
とはいえ確信はない。とりあえずこちらからは何もアプローチしない方がいいだろう。
「私の姉がこの学校に去年までいたこと知ってますか?」
「ああ。ほとんど関わったことはないと思うが。」
「そうですよね。じゃあ私と黒瀬君が生徒会に招かれた理由もご存じですよね?」
ここでしらばっくれるか、それとも本当に事を話すかは大きな分岐点だと思う。正直しらばっくれて現状維持、後ほどノアたちに相談する方がいいと思う。でもこいつが俺のことを嫌っている。それに俺が今考えていることも別に馬鹿でも普通に考えられることだ。一か八か嘘をついてさらに好感度を下げることはできれば避けたいところではあるな。
「......君ら二人の兄、姉の復讐のために来てるのかと。樫野校長から明言はされていないが、俺に対してマイナスイメージを持っているのは確実かと。」
「しらばっくれないんですね。確かに以前姉から聞いていた昔のあなたの情報とは少し異なるみたいですね。黒瀬君はそうです。生徒会選挙の時にあなたに名指しで指名されてから周りの友人から距離を置かれたらしいです。それであなたにさらに負の感情を持ったと言ってました。」
それで俺への憎悪が弟にまで伝播するのは違くないか?そもそも一方的に虐めてたのは向こうだろ。なんで少しやり返したらこっちが悪い感じになるんだよ。
「それってぇ、結構ひどいなぁって思うんですよぉ。......そんなのを真に受ける黒瀬君も黒瀬君ですが。」
「あくまで星川は違うと?」
てっきり星川も黒瀬と同じような理由だと思っていた。姉を全校生徒の前で晒し者にしやがって的な。
「違いますよ。私は少なくても狐神先輩にそういったものでマイナス感情は持ってません。そこは信じてほしいです。この可愛い後輩を信じてくださぁい!!」
わからないな。仮に星川の話が本当だったとして、それなら俺に何かする気はないってことか?でも先ほどの発言的に俺に対してマイナスイメージを持っているのは間違いない。でも本当に星川姉とは接点なんて他に何ともなかったと思うけどな。
「こっちはそろそろ終わりそうだけれど」というノアの言葉に一回考えるのをやめた。とりあえず今はこの仕事を終わらせないと本当に最終下校時間を過ぎても仕事が終わらなくなってしまう。ただ一つ分かったことは黒瀬よりも星川の方がよっぽどめんどくさくなりそうということだった。
「ねぇねぇ狐神君!見てよこれ!!この前のオリエンテーションで交換したんだ!僕にも普通に友達できたよ!!」
そりゃあ一般人に区分されるような人間は大抵友達を持つものだろ。なんて対応したらこいつの努力が薄れてしまうか。少なくてもそういうことに自信を持てるようになることは非常に良いことだと思う。そうやって俺という存在から早く羽ばたいてくれ。
「頑張ってたもんな。もっとたくさんできるといいな。」
俺は馬鹿だが屑ではない。人の成長を素直に褒められるし共感はできると思う。でも勿論そうじゃない人間もいる。
「随分と必死だな、転校生君。たかだか連絡先交換したくらいで友達とか。そういう重いのって嫌われるから気をつけろよ。」
「不和くん助言してあげるとかマジ優しいわ。狐神とか絶対それわかった上で教えなかった分、絶対面白がってたっしょ。ほんとあいつカスだわ。」
なるほど、俺はあんまり友達というものに強く執着したことはないけど、確かに連絡先交換したくらいで友達面するのを重いと感じる人はいてもおかしくないか。それを思ってしまったのか、実際榊原の表情が曇る。
「榊原、一応反論すると俺は面白がってなんか全くないから。それにな......あー相川。」
近くで相川と五十嵐が話していたので呼び止めた。珍しい組み合わせだと思っていたが恐らく出席番号で何かしらの話をしていたらしい。
「なんだよ。」
「一つ質問したいんだが、お前は軽薄男と激重男どっちがいい?」
不和たちの会話を聞いていたのか、相川も何も言わないで質問に答えてくれた。
「正直あたしは恋愛なんてほとんどしたことないからわからないが、後者の方がいいと思うけどな。程度こそあれど本気で思ってくれてるってことだもんな。」
「......私は「五十嵐の意見は大丈夫です。」なんでよ。」
お前の恋愛の価値観持ち出すとまた別の問題が発生するんだよ。友達ができました、って言ってる段階なのにいきなり共依存なんて話が飛びすぎだろ。初めて少女漫画を見始めた中学生に寝取られ見せるようなもんだろ。……それは違うか。
「そんな感じだ。確かに行き過ぎたものはストーカーとか、ヤンデレとかあるけど、少なくても社会一般的に見れば自分に好意を持ってくれている人は良く映るものなんじゃないか?」
「お前が正論を持ってくると『これじゃない』感がすごいな。」
「少なくても恋愛においては相川より先輩だと自負してる。」
「どうせゲームとかそんなんだろ。」
俺と相川の言い合いを哀憫な視線で五十嵐が見ていた。そしてしょうがない、というような表情で榊原に少しだけ距離を詰めた。それに若干榊原が頬を染めた気がした。
「あなたのそんな悩み、高校生なんて大体抱えているわ。重いとか軽いとか、そんなもの経験で慣れていくのが自然なの。人の考えだけに首を縦に振り続けたら、あなたはきっと自分で何もできなくなるわよ?」
「それで安川と共依存とかいう激重モンスターカップルが誕生したわけか。くわばらくわばら。」
「あなたはまずlikeとloveの違いから学習しなさい。」
「なめるなよ、likeは表面的なもの、loveは深層的なもの。」
「その発言がすでに表面的ね。」




