止まらない怨嗟 11
「黒瀬君海が好きってさっき言ってたけど、結構泳げたりする?」
「え!?いえいえ、確かに多少泳げるかもしれないですけど、普通の人ぐらいです。助けを求める人を支えて泳ぐなんてこと出来ないですよ。」
確かに二次災害としては十分にある事だしな。助けることは正しいかもしれないが、それでこちらが巻き込まれてはわけないな。
「そしたらお2人のどちらか助けてください!お願いします!!」
「したら俺が行きますので橄欖橋先輩は空のペットボトルとか浮き輪とか何か受けるもの探してもらっていいですか?」
「え〜、めんどくさいよ。」
「……あのですね、時は一刻を争うんで「でもそしたらあの人の体力は大したものだね〜」
……確かにそう言われると俺らがここに呼ばれてから1、2分くらいは経つ。そして俺らが呼び出された場所は更にここから駆け足で2分ぐらいだったか。呼びに来た人は往復だから合計4分。少なくても5分近くこの人は溺れているのか。
「と、とりあえずあの人を助けてから色々考えましょう!狐神先輩、よろしくお願いします!」
「え、あぁ。そうだね。」
何か橄欖橋先輩が言おうとしているのは分かるが、流石に目の前で人が溺れているのを無視は出来ない。黒瀬君の言うように早く助けなければ。
『そして何より狐神の事を嫌いらしい。』
「……橄欖橋先輩、あの人本当に溺れてると思います?」
目の前で必死に助けを呼ぶ声を無視して話しかける。俺も、多分橄欖橋先輩もあいつの演技を間近で見てたからよく分かる。多分白花が溺れる演技をやれと言われたら恐らく今ブチギレてると思う。それはそうだ、目の前に溺れてる人がいるのに呑気に話したり考え事してるんだから。俺だって「とっとと助けろや!!」ってブチギレてると思う。だから悪いけどあの男には演技は無理だと思う。
「器用に浮いてるね〜。あれは多分普段からサーフィンとかで海に入ってるだろうね。」
「……か、橄欖橋先輩は何を言っているんですか!?そんな事どうでもいいから早く助けないと。」
「仕方ないなぁ。じゃあ狐神君、一緒に行こ?私1人じゃ溺れちゃうかもだから。」
ここでようやく橄欖橋先輩の考えと同じところまでたどり着いた。そうだ、俺だけが助けに行ったら海の中で何かあっても、陸から見れば何も分からない。普通にあの人を救助するのであれば俺と橄欖橋先輩の2人で行くことに違和感は何ひとつとしてないし、目撃者が近くにいればあの男も溺れたフリをして何か悪事をしようともしないだろう。
「しょうがないですね。着替え持ってきてないんですけど。」
俺も嫌々だったが、躊躇なく海の中へ入って行った。
「ダブゲデ!!」
「……何してんすか、橄欖橋先輩。」
「ボボッタよりもブガガッダ!!」
「ギャグですか?」
「おぼっ、オボレヂャウ!!」
「何が異端者だよ……」
案の定溺れていた男は難なく助けられたが、代わりにお荷物を抱える羽目になった。
その後先生と交代する形で俺たちは校舎に戻った。勿論ずぶ濡れなった俺たちと交代の式乃宮先生が何があったと聞かれた。簡単に事情を説明し、俺たちは戻った。一応ふざけて海に入ったら溺れたという設定で話はしていたが、俺と橄欖橋先輩はそうは思わなかった。
「うへぇ、パンツまでビショビショ〜。」
とりあえずジャージに着替えて制服を洗濯、乾燥にかけた。下着はさすがにそうはいかないので手洗いをした後頑張って絞った。何となく濡れてはいるが致し方ない。
「あまり男子がいる時にそういうことは言わない方がいいかと……それでも橄欖橋先輩が一緒にいてくれて良かったです。」
「あんまりよく分かってなかったけど、黒瀬も関わってるんですか?」
「あの時何で狐神君は黒瀬君は海に行く?って聞いたの?」
「えと、肌が黒かったから?」
「具体的にはどこが黒かった?」
どこって言われると俺もそんなまじまじと見てたわけじゃないからな。手のひら、顔、そんなところかな。
「……もしかして腕とかは焼けてないんですか?」
「手洗いから帰ってきた時に腕を捲っててね。」
なるほど、確かにそんな部分的に焼けるとしたらシュノーケリングとかサーフィンとかやるくらいか。メガネ焼けとか起きてないから多分サーフィンかな。それで『もうちょっと泳ぎの上手い人に任せた方がいい』ってセリフか。
あと気になった点としては……。
「明らかに橄欖橋先輩の言葉に対して黒瀬は動揺していたと思うんですけど、溺れてた人と助けを読んだ人とグルだったんですかね?俺を陥れるための。」
多分あの3人は繋がりがあるのだろうけど、イマイチその証拠というかが分からない。入学したてでまだクラスメイトの顔すら定まっていないだろうに。
「……もしかして、入学前から顔見知りとかだったんですかね。サーフィンとかで。」
プールを習っていた可能性とかも十分あるとは思う。でもやっぱり海とプールでは勝手が全く違うだろうし、俺も溺れてる人を助けた時に確認したが、黒瀬と同じように焼けている箇所があった気がする。
「少なくても黒瀬君と溺れてる人は入学前より関わりがあった。そして狐神を陥れるためにわざと溺れた演技をして問題にしようとしていたってことかしら。」
「そして狐神君を生徒会から追い出す、或いは退学までしたかったのかな。怖いよね〜。」
「……因みに橄欖橋先輩はどこから怪しいと思ってたんですか?」
「ん?『生徒会の人ですよね?』って言われた所かな。まだ入学したてなのに、普通私たちを見たら『2、3年生ですか?』とかって聞かない?生徒会の人ですかって、明らかに狙ってたのバレバレじゃん。」




