止まらない怨嗟 6
その後行われた人身売買ゲームは思いの外盛り上がり、結局何十人もの黒歴史を聞いた。その反響は大したもので、生徒会が特にこれ以上起爆剤を投下しなくても、勝手に盛り上がっていった。
「じゃあ私はそろそろ行くわ。生徒会の仕事はあくまで材料の提供。これ以上やることはないもの。」
「俺はもう少しだけ残るかな。」
未だ榎本からは視線を送られるし、榊原もまだ頑張っている。俺としてももう少し1年生の事を知っておきたい。
「わかったわ。それじゃあ楽しんでね。」
ノアが出口に向かうとそれを狙っていたかのように男子が囲んでいた。そりゃあ生徒会長だから近づけなかったけど、どう考えてもノアも人気だもんな。小さく「ごめんなさい」と声が聞こえ、何とか出口に進む。そして出口に着くとまるでそこに待っていたようにクルトが現れ、周りの男子を蹴散らしていった。恐らくノアに「絶対に入ってくるな」と言われていたのだろう。
「さて。」
俺はまた生徒会として榎本と白花の掃き掃除、横目で榊原の様子を伺っていた。榊原の様子を見るに今日に備えてきちんと話題のネタは準備していたらしい。よく知らん女子とそれなりの間話しているということは、いい感じにいってるのだろう。彼女とまではいかなくても、いいお友達にはなれそうかな。
「すみません、皆さん。私と白花先輩そろそろお仕事いかなくてはいけなくて。大変申し訳ないのですが、この辺りでお暇させて頂きます。」
最後までずっといるとは思わなかったし、寧ろ長時間いたと思う。格好とすれば「とりあえず顔だけ出しました」でも大丈夫だと思っていたが、念には念をといった感じか。確かに白花も榎本も顔こそ笑っているが、多分限界だろう。生徒会の仕事かわからんが、2人の退場案内は俺がした。そしてある程度周りの目がいなくなったら2人とも勝手に帰っていった。最初は白花達目当ての連中も多くいたが、2人が帰った後も残る人は多くいた。みんな思いの外このイベントを盛り上がっているらしい。
「狐神君は気になる人はいたかな?あそこの子なんていいんじゃない?男への免疫なさそうだよ?」
「……何の用ですか、大鵠さん。」
普通に肩を組んできたが、パーソナルスペースは確保したいのでその手をすぐに払う。そして後ろに懐かしき夏川先輩がいるのに気付いた。大鵠さんだけならいざ知らず、ここに来るような人に感じなかったので、正直かなり驚いた。
「去年さ、元生徒会に裏切り者がいるかもしれないって話、覚えてるかな?」
確か昨年の林間学校の前にそんな話をしたような気がする。不明瞭な金の動きがあるとかないとか。
「現在で一番怪しいのって誰だと思う?」
「あくまで裏切り者なんていないという前提であれば……ノア、ですかね。」
「ほう、その心は?」
「先生とかにも気付かれず動ける頭の良さは勿論として、金の動きにみんなが気付くか試したとかじゃないですか?信頼という強固な壁を持つ自分に疑いを持てる人がいる可能性を探るために。そして結果誰もいなかった。だから生徒会長となった今、これからはある程度の事はなんでもできるようになった的な。」
実際そんな支配的な事をノアが考えるとはまず有り得ないと思うが。大鵠さんよりも何十倍もノアを信じてるし。
「へー」
あなたから振ってきた話でしょ。なんでそんな興味なさげなんですか。
「……ただ、裏切り者がいるという前提なら、鶴が一番怪しいと思います。」
「へぇ……なんでそう思ったんだい?」
鶴の名前が出てくることが意外だったのか、ノアの時よりもずっと楽しそうにしている。夏川も頭に「?」と浮かべている。
「……一番謎が多いからです。恥ずかしい話、鶴とはこの一年一緒に過ごしてきましたが、分からないことだらけです。ノアや禦王殘みたいに具体的に何をしたいといった理由もなく生徒会に去年いました。『能力を買われた』というのも間違いではないと思いますけど、正解でもないような気がします。」
今目の前の男を相手にしていた時に常々思っていたが、人間が分からない人ほど怖いものは無い。ミステリアスなんて言えば悪くないが、1年経つと何かしら性格など分かるものだ。けれど鶴にはイマイチその実感がない。
大鵠は夏川を少し遠くにやると、声量を落として俺に話しかけてきた。
「昔話をするとね、俺は少しの間、蓬莱殿と同じ中学校だったんだよ。蓬莱殿は転校が多かったらしいから、本当に1,2カ月だけだけどね。」
そこから少しだけ鶴の過去について話し始めた。
転校初日、新たな仲間という事でザワつく教室に入ったその人は、一瞬にして喧騒を静寂に変えた。中学生の時には既に開花していたその美貌は多くの生徒を魅了した。かく言う俺もその1人だったという。声、仕草、容姿、佇まい、運動、学力、今にして思えば少し不気味なくらいに完成されていた。当時も元気というキャラではなかったが、愛想も悪くなく、本当に漫画みたいに告白されることが毎日あった。しかしそのどれにも応えることはなく、高嶺の花という言葉が相応しいものとなった。