止まらない怨嗟 4
報酬という言葉に少しだけ興味はあったが、どうせろくでもないことだったり、後でのらりくらりでかわされるような気がした。
「遠慮しておく。話がそれだけなら俺は行く。」
「内容だけでも聞かないんですか?」
「あぁ、じゃあな。」
体育館の側面にある高台から降りると、軽く桜介君に挨拶して教室に戻る。
にしてもそんなイベントがうちの学校にあるなんてな。合コン会場でもないのによく学校はそんなの許したな。でも偏差値の高い学校ほど自由にさせてるって聞いたこともあるしそんな感じだろうか。
しかし予想出来た事とはいえめんどくさいことになった。
「僕もこのイベントに出ようと思うんだ!」
「あ……あぁいんじゃない?」
「それで……出来れば狐神君にも一緒に出て欲しいんだけど……」
榊原に取っては確かに友達を作る絶好の機会だしな。そりゃあ食いつくわ。そして榊原の現在のその傷は俺が関わっている。断る事もできるけど、これは断りずらいな。償いは流石に必要か、俺のせいではないが。しかし榎本にはさっきあぁ言ってしまったばかりだし。嫌だなぁ、これで俺が出たら「あれ?やっぱり先輩も彼女とか欲しいんですか?」とか言われかねないしな。
「い……いゃ……いゃ……いいよ」
「本当!?あ、もしかして無理強いとかしちゃってたら本当に断っていいよ?」
「じゃあ……行きたくな…………死んでも……いゃ……いいよ」
「結局狐神先輩も来たんじゃないですか。口ではああ言いつつも、結局気になるんですね。それとも新たな出会いを求めてですか?」
「……黙れ、白花専用イエスマンめ。」
「それは悪口ですか?」
「いいか?俺がここに来たのは人間としての最低限の尊厳を守るためだ。白花がどんなにもみくちゃにされようが知らんし、榎本がどんな求愛されようがどうでもいい。じゃなきゃこんな番を求めるだけの類人猿の婚活会場みたいなとこ来るか。」
「ここにいるのは理性を持つ人間ですよ。」
俺が榎本と話している間に榊原は何とか色んな人に話しかけようと奔走している。向こうもやはりそれ目的だけあって、それなりに話は盛り上がっているようだ。ちなみに俺も何度か1年生に話しかけられたので、それなりの対応はした。向こうは俺の事を「生徒会の人」と認識していた。いい意味でも悪い意味でも何かすれば1年生に直ぐに情報が広まりそうだな。
「じゃあ私も行きます。」
今まで俺の後ろに隠れていた榎本だったが、「白花が近づいてきた」と嗅ぎつけたようなので、白花と合わせて上手く登場した。その組み合わせに檻に入っていた獣達は雄叫びを上げながら周囲を取り囲む。何やら言語らしきものは話していたが、一つ一つに返すことなんて勿論できず、とりあえず手を振って答えていた。今から考えるとあの限界ゾンビの群れから白花を守るって不可能だろ。
やがて時間もいい感じになったので、司会のノアが盛り上げのためにゲームを発表していた。特に司会役は決まっていなかったので、生徒の代表として選ばれたらしい。そしてゲームのネタは『10の質問』というものに決まった。合コン会場かここは。
簡単な解説があったが、要は相手が考えてるものを『はい』『いいえ』で答えられる質問10回で当てるものらしい。今回はお題が趣味だから簡単だろうが、これで全く興味無い趣味だったら地獄だな。
「狐神はやらないのかしら?」
ステージの上で司会を務めていたノアがいつからかそこにいた。
「俺はあの人の付き人みたいな感じ。俺だけならこういった場所には来ないよ。」
視界の先では必死に声を掛けている榊原の姿があった。人によっては必死すぎなんて言われるかもしれないけど、俺は嫌いじゃない。榊原にもそれが伝わる人と出会えたらいいんだけどな。
「そうだったのね。でも私としてはどんな形であれ、あなたにも楽しんで欲しいから、少しだけ付き合ってけれないかしら?」
「そうは言っても俺の趣味はノアも知ってると思うからゲームにならんぞ?ノアの趣味は運動全般だよな。」
確か他愛のない会話をした時にそんなことを話した気がする。
「じゃあお題を変えましょ。そうね、じゃあ一番欲しているものってお題でどうかしら。」
「まぁ……別にいいけど。じゃあ先に質問どうぞ。」
欲しているものね。俺は変わらず「平穏な日常?」
「……マジで整形考えよっかな。普通にブサイクだし…」
「分かりやすいというのは基本的に好感を持たれると思うから悪いことじゃないわよ。それにブサイクなんて私は思わないわよ。」
違うんよ。確かにパーツ毎に見れば「まぁブサイクかな?」程度だけど、これが全部組み合わさると相乗的に「うーん、普通にブサイクだね」ってなるんだよ。
で、ノアの欲しているもの、ね。
「ノアは顔も綺麗だし頭も良いし、人徳もあるし良識もある。スタイルもいいと思うし、偏見とか一切持たない。優しくはあるけど甘やかさない所も美点だと思うし、人の立場になって考えられる所も魅力の一つだな。……どした?」
「いえ……流石に少し恥ずかしいわ。」
そんな真っ赤に顔を染める所も魅力の1つなんだろうな。




