止まらない怨嗟 3
しかし樫野校長が関わっているとなると、妙案をこいつらに授けている可能性がある。単純に俺が暴力を受けるみたいなだけならまだいいが、一応ここは撤退した方がいいか。
「そんな信憑性もない話信じろという方が無理だろ。俺はこう見えて忙しいからな、とりあえずターゲットが俺なら、周りの人間は巻き込むな。」
「おいおい、息巻いてるくせに結局逃げんのかよ。やっぱりこの人数は怖いか?いや、俺1人でも怖いよな?あ?」
「はいはい、怖いんで逃げますよ。」
しかしやはりと言うべきか、簡単には逃がしてくれなかった。名前をなんと言ったか、少し大柄な男が道を阻む。
「逃げんなよ。案外戦ったら勝てるかもしれないぜ?」
周りからまた嘲笑が聞こえる。1人くらいボコれそうだけど、ここにいる全員に勝てるなんて思わない。はて、どうしたものか。
「あれ、狐神先輩ですか?」
おっと、これは渡りに船。俺にも少しずつ気運が回ってきたか?
「ん?あぁ、桜介君。どうしたの?」
何人かの友達を連れて、体育館へ入ってきた。一瞬俺と会えたことを嬉しそうにしていたが、周りの連中を見て、雰囲気から察したのか表情が曇る。
「御学友……ですかね?」
「クラスメイトだよ。」
その切り返しにすぐに意味を理解してくれた。不和達も後輩とはいえ、ある程度の人数を前に変なことはしない方が得策と考えたのだろう。舌打ちと俺の脚を踏むくらいしか出来なかった。
「クラスメイトに嫌な人が居ると気分が悪いですよね。大方こんなところに連れ込んで集団暴行でもしようとしてたんですかね。」
「大体そんな感じかな。ありがと、助かった。」
「いえ、自分は何もしてないです。でもそれで狐神先輩のお役に立てたのなら良かったです。」
ええ子やな。あのお母様がいい教育している証拠やな。となると時々見せる水仙の猟奇的仕草は父親のものかな。DVとか大丈夫だろうか。
「桜介君は友達とここで遊ぶのかな?」
「はい、バスケをしようとなりまして……」
遠くから桜介君を呼ぶ友達の声が聞こえたので桜介君と別れ、俺はその様子を上から眺めていた。
「……怖いよ。いつも遠くから視線だけ送ってきて。」
「あの事件解決以降、ほとんど小石先輩と関わってないんですね。」
「榎本がこの学校に入った以上、サンドバットの俺の役目は消えていくからな。これからはお前と業界のことでも愚痴っていけばいいだろう。」
俺の冤罪が晴れた以上、俺と白花は本当にただのクラスメイトになった。表でも裏でも全くと言っていい程関わりはなくなった。別にそれが寂しいとかは一切ない。俺よりも適任者が現れればその人に任せるだけだ。
「淡白ですね。」
「その程度の関係だったってことだ。お前だって白花を独り占めできるって考えたろ。」
「ムフフ……あっいえ、考えてません。」
嘘だろ?
「でも、小石先輩がまたピンチになったら、きっとあなたは助けに行きますよ。「なん「だって、狐神先輩は小石先輩の事を自分が思っている以上に好きですから。」」
「……お前は何を言っているんだ?」
俺が白花を好き?まさか。一体どこにそんな要素があったというのか。
「まぁいいです。ちなみに小石先輩の本性を知ってる方ってどのくらいいるんですか。」
なんでそんな事知りたいのか、と思ったが榎本は知っておいた方がいいのか。一応信頼はできるし。
「俺のクラスの梶山と鏡石、元生徒会の蓬莱殿とその顧問の式之宮先生あとは今は居ないけど卒業生の瀬田さんが知ってる。梶山はドMだから自らの居場所として、鏡石は交換条件として白花の事を知った。他の人は俺が伝えたが、みんな信頼できるから言いふらしたりはしないと思う。」
「信頼出来るとか出来ないとかは別にいいです。まぁでも情報ありがとうございます。あと、ここに来たのはこの話をするためです。」
そう言うと1枚の紙を渡してきた。遠目でも分かるくらいビビッドの効いてるそれは何となく嫌悪感が否めなかった。案の定、そこにはデカデカと『1、2、3年合同レクリエーション大会!!』とあった。大まかな目的は分かる。レクリエーション大会なんて言いつつも部活動勧誘だったり、出会いの場目的のイベントだろう。確か去年のこの時期は俺はてんやわんやでそんなもの見向きもしなかったろうな。あくまで任意だし。
「分かってはいると思うが、俺は参加する気はない。別に出会いなんて求めてないし、仲良くする後輩は生徒会とかだけでいい。」
実際ほとんどの高校生も同じ部活とかであれば後輩とも関係は持つだろうが、それ以上の関係を持つ人なんてほぼ居ないだろ。嫌われたくはないが、別にそこまで友達に飢えてもいない。
「私も死ぬほど出たくないです。仕事とか言えば参加の辞退も難しくないです。でも出ざるを得ないのは流石に分かりますよね。」
芸能人は好感度を簡単には下げられないですからね。大変なこって。何なら次にお前がなんて言うかまでバッチリ分かるぞ。
「小石先輩も同様の理由で出るので、何とかして守ってください。」
「嫌だ、俺は自分にメリットがないと動かない利己的人間だからな。」
「じゃあ報酬を出します。」




