止まらない怨嗟 2
「あの……」と授業が終わった休み時間に榊原が耳打ちをしてきた。この距離感はちょっと嫌なので少し距離を置こうとしたが、向こうが寄ってくるので諦めた。
「何?」
「五十嵐さんと狐神君てどんな関係なの?僕もみんなに歩み寄ろうと思って。」
なるほどな。あいつと仲良くするために本人に聞かず周りに聞くあたり、多少気持ち悪がられてもしょうがないとは思うが、とりあえず行動に移したことはいい事だな。
「入学してから間もなく冤罪吹っかけられたから、カウンターに彼氏と別れさせて尚且つ孤立させた。」
「え……え?」
そりゃあ初めて聞けばそんな感じになるか。でも実際ギスギスしてたのは本当だし、俺自身、あいつと普通に話せるぐらいになるなんて思ってもいなかった。あの時のことはもうお互いに被害出しまくったからいいだろう。
「そんなことがあったから、さっきみたいにお互い本音で言葉をぶつけあってるよ。言っておくが好意は一切ない。それにそういう話はあいつから直接聞きなよ。話のネタにはなるだろ。」
「う、うん。確かにお互い遠慮は一切なかったね。分かった、ありがとう。」
多分根は真面目なんだろうな。というか真面目すぎるから空回りしてしまっている感じか。大変だねぇ、途中から入ってきた生徒というのも。
「あ、いました狐神さん。少し時間よろしいですか?」
こっちの転校生とは偉く違うな。
要件は別に大したことはなく、「鶴さんと合わせてご迷惑をかけたお礼」ということで菓子折を貰った。それなりに有名なところのもので家に帰ったら家族と食べようと思う。少し大きめだから鞄に入らず、仕方ないのでロッカーに入れて置いた。
放課後。
「……何があった。」
生徒会の仕事を片付けていたらそれなりの時間になってしまい、誰も居ないであろう教室を開けると榊原が静かに座っていた。また何かやらかしたかと思ったが、頬が腫れ、唇から血が流れているのを見たら、流石にそんなものではないだろうことぐらい想像がつく。
「ごめん……守れなかった……」
榊原が指さす所には何かが潰れていた。とりあえず近づくと、その匂いからして先程俺が姫から貰ったお菓子だった。ある程度誰がやったかは検討がつく。俺の冤罪が晴れてからこんなことをするのは不和達か斑咬くらいしか思いつかない。けれど直接榊原が関与してるのなら不和達だろう。いい加減奴らの子どもじみたイタズラの相手をするのも面倒くさい。放っておくのがいいと思っていたが、少なくても転校生の榊原には何も非はない。
「榊原が謝ることは何もないだろ。保健室案内する。」
その後の治療は真弓先生に任せた。大した傷ではなかったが、それよりも精神的にダメージがいってないか心配していた。
「つまり断定は出来ないけど、その不和君達があなたに嫌がらせをしようとして、それを庇った榊原君が被害を被ったということね。」
榊原がトイレに行っている間に少し話をした。
「あいつらは俺の冤罪が消えた後も変わらず構ってきますから。ガキの面倒も楽じゃないですね。」
「遠井先生に伝えておく?」
「いえ、お気持ちだけもらっておきます。こういう話は変に先生が関わってくると余計に悪化する場合があるので。」
「そう、なのかしらね。でも何か考えはあるの?」
こういうのはストレートに言ってやるのが一番だよな。
「で、何なの?俺に一体何を求めてんの?お前らの我儘にいつまで付き合えばいいの?」
クラスメイトの前で話せば、その場での直接攻撃はなくても榊原に嫌な思いをさせる。影で話せば榊原へ被害はこれ以上いかないと思うが何をされるか分かったものじゃない。誰かを同行させようものなら、その人へ被害が行く可能性はかなり高い。選んだのは誰来てもおかしくない昼休みの体育館だった。
「おーおー、今日はやけにやる気じゃん。やっぱり最近調子いいやつは言うことが違うね、マジでカッケーわ。」
「いや、あの顔でかっこいいは流石に無理あるだろ。」
「わかんないぜ?案外『今ならワンチャン白花に告ればいけるかも』ぐらい思ってるかもよ。」
「白花てお前、分不相応過ぎだろ。」
後ろに草が生えてそうな頭の悪い会話をするために俺はここに来たんじゃないんだけどな。
「あの、日本語分かる?質問少し難しかったか?」
「……あんま調子乗んなよカス。」
いい加減俺の挑発を流せなくなったらしく、取り巻きの5、6人も俺に寄ってくる。しかし直ぐに暴力を振るってこない辺り、誰か冷静な司令塔でもいるのだろうか。
「新しい校長がよ、退学のハードルをかなり低くするんだと。それでまたお前が問題をおこしゃあ間違いなく退学よ。まだ広まってねぇ話だがな。」
またあの校長が何かやろうとしてんのか。しかし何で生徒会の俺が知らず、こいつがそんな話を知っているのか。嘘の可能性もあるけど、あの校長が本当にやりかねない事だし、恐らく本当にあの人から聞いたんだろう。
「問題って?冤罪が証明された以上、俺はしがない高校生だが。」