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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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おてんば美女と冷徹野獣 8

廊下に出ると案の定そのには既に姫の姿はなく、声楽部の声が遠くから聞こえるだけだった。傾く夕日が何故だかカウントダウンのような気がしてならなかった。

鶴が禦王殘に連絡を入れてくれたが、マナーモードにしてるのか、連絡はつかなかった。こうなっては足で探すしかない。俺が5組を探し、鶴は下駄箱を見る。そして教室にはいないことを確認すると鶴から「靴が無い」と連絡があった。禦王殘がどこかで道草食ってるとは考えられなかったから、俺と鶴は真っ直ぐ禦王殘の家に向かった。

『ピンポンピンポンピンポンピンポン!!!!』

「誰じゃい!!じゃあかしい!!死にたいんか!?……なんや、かしらのとこの……」

「不躾でごめんなさい!!火急の用件で!禦王殘……宿儺君はどこですか!?俺も全く状況は分からないけど、絶対不味い気がするんです!!」

禦王殘は早々に家に帰り、今は部屋で考え事をしているとの事だったので、直ぐに家に上がらせてもらった。こんなこともあろうと考えていたのか、こういう場合は直ぐに通せと支持されていたようだ。

「頭、火急の用件より、昨日来られた学友2人が直ぐに話したいと。」

「……あぁ、入れていい。」

昨日と同じ部屋で禦王殘はこちらに背を向けた状態だった。背中越しでも分かるなにかピリついたような空気を纏っていた。

「ごめん、こんな押し入るみたいな形になっちゃって。姫に「いなくなったのか?」……うん。」

姫から預かった伝言を伝えた。禦王殘は静かに「そうか」だけ零した。

「……私もよく分からないけど、あの目はまるで死にに行くような感じすらしたよ。」

俺としてはすぐにでも禦王殘には探しに行って欲しいのに、どっしりと腰を据えて全く動こうとしない。それに少しずつ苛立ってくる。

「状況説明とかは後でいいからとりあえず探しに行こうよ。禦王殘なら何となく宛はあるんじゃないのか?」

「宛はある。そして別にあいつは死にはしねぇよ。」

「……どうしてそう言いきれるの?」

「主治医に問いただした。ほんとに植物状態だっのか。答えは変わらず確かに植物状態だった。」

「そんなの今はいい!!どこに姫が死なないなんて保証あるんだよ。」

「……俺を守るためだそうだ。」

禦王殘を守る?少なくてもそれは物理的なものではないと思うけど、そうなるとまた身内かな。何かしらの生贄ということだろうか。

「一藤とは別の有力者の者から連絡があったようでな。今夜禦王殘本家にて赴く用事がある。場所はここから少し離れた田舎だ。しかしそこにいるのは俺の家に恨みを持つ人間、しめて800人程らしい。」

800て、一個軍隊じゃないんだぞ。漫画とかならいざ知らずここは現実。全員が禦王殘レベルで強いとは思わないけど、例えばチンピラが800人が攻めてくるようなものだろ。勝てるか負けるかは分からないけど、何人の人が傷つくだろうか。

「でもそれからどうやって守るんだ。」

無言でこちらに飛ばされてきた手紙を拝見する。そこには姫から言葉が綴られていた。

『……以下のように激しい戦闘が予想されます。もし万が一にでもあなたが負けるような事があれば名は剥奪され、あなたも無事ではすまないでしょう。勝ったとしても、その被害を糾弾してくる連中は必ずいます。ここで求められるのは圧倒的な勝利。だから私がスパイとして潜り込みわざと捕まります。そこで嘘の情報を相手に流すので、それを利用してあなたが勝ってください。』

「情報を吐かせるためにまず殺しはしない。そして俺がまた姫を救い出す。話は終わりだ。めんどくぇが色々準備があるからもう帰れ。」

「……は?」

そういうとまた背中を向けてしまった。鶴は何を思って何も言わないかわからないけれど、黙ってることなんてできなかった。

「……1ついいか。」

「なんだ。」

なんでそんな澄ましてんだよ。俺ですら予想が着くことを禦王殘が分からねぇわけないだろ。

「情報を吐くって、簡単に言えば拷問に遭うってことだろ。それをわかった上での作戦なのか。」

「あいつの提案した作戦ならあいつはそれを承知なんだろうな。」

「ふざけんなよ!!何冷静気取ってんだよ!?あの人がそんな目に遭っていいってのか!?結果勝ちゃあなんでもいいのか!?」

殴り合いで勿論勝てるわけもないのは分かっていたが、それでも気が収まらなかった。幼少の頃助けてもらった恩を返すどころか、向こうからの提案とはいえそれを利用するなんて。実際家の問題とか姫の関係とか信頼とか俺があんまり口出すことはないけど、正しいとは思わなかった。

「おいおい、なんだこのぬるいパンチは。そんな拳が届くわけないだろ。」

俺のへなちょこパンチを止めたのは鶴でも禦王殘でもなかった。俺の拳は前後に1ミリだって動かなかった。その声の主は恐らく俺が知る最強の人物。2回とも敵として現れて圧倒的な力を感じていた化け物が目の前にいた。

「なんで、乱獅子がここに?」

「呼ばれたからな。......今回は禦王殘は怒りに飲まれていないようで安心した。」

状況に追い付かないでいると禦王殘が立ち上がった。その眼には溢れんばかりの殺気と闘気が見えた。確かに怒りには飲み込まれていないけど、多分メーターぶっちぎって逆に冷静になってるな。

「乱獅子が来たからにはすぐに移動する。お前らは帰れ。」

「......2人で今から乗り込むの?」

鶴の一言でようやく意味が分かった。禦王殘も一言頷くと足早に玄関へと受かった。乱獅子もそこに続く。俺も姫と直接話しをして、好感を持った。少なからずも関係を持ったからできれば一緒に行きたかったが、禦王殘1人ではなく敵対していた乱獅子を何らかで味方にしてまで協力しているとこからして俺が行っても足手まといになるのは明白。言葉通り帰るべきだ。

「禦王殘!!」

「なんだ。」

「もう二度と失わないようにな。」

「......てめぇに言われるまでもねぇよ。」

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