おてんば美女と冷徹野獣 7
ノアに頼み本日は使わない生徒会室を借りている。勿論一藤や大鵠は許可が出ないから入れるわけもないので安心して会話が出来る。禦王殘には悪いが、今回は姫の指示に従って連絡はしていない。
「まぁ聞きたいことは何となく分かります。他クラスのあなた方が私のことを知っている以上、宿儺君から話をされているのでしょう。植物状態の私の復帰があまりにも速すぎて怪しいって感じですかね。」
「そうだな、見た感じ人間の範疇は超えてないと思うけど、常人にはそんなことできないからどんなトリックを使ったのかなって。」
「私を一体何だと思ってるんですか......」
「自己再生が以上に速くて威力の高い武器で消し飛ばすゾンビゲームの中盤ボス。まぁそんなアイスブレイクはおいておいて。」
一応俺が調べた植物状態に関する書類を出した。論文とかは基本全部英語なので翻訳をかけて調べてみた。母数は少ないけどどの資料からもやはり社会復帰にはそれなりの日数を要する。
「禦王殘への信頼とこの資料から、やっぱりあなたが禦王殘の言う『 姫』ではないというのが一番可能性が高いと思う。いくら人を騙すのが上手といっても、長期間の間あの禦王殘を騙すことは無理があると思う。」
ここまでは鶴と意見が一致していた。でもここから先が分からなかった。勿論詳しい状況を知らないから、俺の知らないところで何か重大なことがあったのかもしれないが。
「確かにそうですね。昔よりも一層成長した彼を相手に数回ならいざ知らず、長期間は難しいでしょうね。その間にリハビリなんてもってのほかですね。」
なんというか、低反発みたいな返事しかしないな。
「結局あなたは本当に禦王殘のいう姫なの?」
「仮に違ってたらどうします?友達である彼の為にも私を排除しますか?」
「どっちなんだい!?」
「ふふっ」
「なにわろてんねん!」
「……狐神君。」
「なんじゃい!?」
「……遊ばれてるよ。」
「聞いていた通り、いじりがいのある人ですね。」
こんなブサイクをいじめたところで一銭の得にもならないだろ。
「結局ほとんど雑談で終わったし。」
「......一応明日お昼一緒に食べるしそこでもう少し聞いてみようよ。」
一藤のこともあったしあんまり俺や鶴が一緒にいるのもまずいと思ったが、何やら一藤は明日、明後日と学校に休みの連絡をしているらしい。なんでそんなことを他クラスの姫が知っているのかは全くわからないけど、それならばいいかと了承した。一応禦王殘にも許可は得ている。
「......でも少しだけ話した感じ、全然悪い人ではなかったね。」
それに関しては俺も同感。勿論禦王殘とかを悪い人とは思わないけど、スペックは高そうなのにこちらに丁寧に合わせてくれている。しかもそれをほとんど感じさせられない感じ。その話しやすさは最近やった化学の中和反応を連想させた。でも核心に話を持ってこうとしても上手く躱されてしまう。
「まぁそこまで急ぐ必要はないのかな。とりあえず少しずつ核心に触れるようにしていこうと思う。」
「......大丈夫?今日見てた感じかなり遊ばれたけど。」
「......明日の俺に任せるよ。」
「だっからあなたは本当に禦王殘の話す姫なの!?はいかいいえだけで答えて!!」
「そういうえば鶴さんは本当に綺麗な髪をしていますね。普段どんな手入れをしているのですか?」
「......別に何もしてないよ?」
久しぶりのシカトはやめてほしい。まるではなっから鶴と2人しかいないみたいに振舞うのは勘弁してくれ。因みに昨日とはお昼の場所を変え、久しぶりに海の近くでご飯を食べている。厳密には校則違反だが、先生たちもほとんど容認している節があるため多分大丈夫。そのため、遠くには生徒が確認できるけれど、近くには俺ら以外誰もいない。
「あのですね、あんまり人の話したくないことを聞くのはマナー違反だと思います。私はちゃんと禦王殘に好意を持ってますから安心してください。」
「だから私って言ってるけどあなた誰なのよ。」
「あー、確かにそうですね。誰だと思います?」
「鶴!俺この人のこと嫌いかもしれない!!」
「かもしれないと、嫌いじゃない可能性も残してあるところ、あなたの人の良さが出てますね。」
「俺この人嫌い!!」
「私は好きですよ。子犬さんみたいで可愛いです。名前も狐とありますし、ご先祖は犬さんだったかもです。お手ができたらあなたの知りたがっている情報を教えますよ。」
「ほんっと嫌い!!」
とはいえこんな俺にプライドなどない。
そっと出された手に俺の手を乗っける。これで何かこの人から情報を得られれば何度も助けられた禦王殘にもお礼ができる。すんごい嬉しそうな顔してんのはとりあえず無視しておこう。......なんでそんな顔を近づけるんです?耳打ち?もしかして鶴とかにも聞かれたくないような、本当に話したくないことなのだろうか。それなら申し訳ないことをしたな。
「上から86、59、80ですよ。」
.......?何かの暗号だろうか。編入試験の点数とかだろうか。でもそれで59点は低いような感じがするけど。上からでもないし。編入試験の試験科目も合格点も何点満点かといった概要も知らないけど......あ、そっか。だから耳打ちで鶴には聞こえないようにしたのか。生徒会だとそこらへんも知ってるかと勘違いしたのか。確かに仮に100点満点で59点は低いもんな。でも上位層だと定期テスト90点台も珍しくないぞ。80点代は俺でも倒れるほど頑張れば取れるし。
「ごめん、勝手に90以上はあると思ってた。でもそれ以上に流石に59はひどいからどうにかした方がいいぞ。多分禦王殘に見捨てられるぞ。『自己管理もできないのか』って。」
「......あぁ、何か勘違いしてるんですね。無知って怖いですね。柄にもなく暴力をふるうところでしたよ。」
そこで校舎の方から予鈴が響いた。結局今日も何も目新しい情報が手に入らなかった。弁当はとっくに食べ終わっていたから構わないけれど、俺だって生徒会の仕事であんまり暇ではない。昼休みはいいけど、少なくても放課後はあまり時間は取れないぞ。
ため息を吐きつつ腰を上げる。鶴が少し先に校舎に向かったので、俺も隣に向かおうとした。しかし姫が俺の肩を軽く突いてきて小声で話し始めた。
「鶴さんとはどんな関係で?」
「元生徒会の仲間。今も普通に仲はいいと思うよ。なんで?」
「いえ、てっきり狐神君と一緒に行動しているのだから、もしかしたら好意でも持ってるのかなと思いまして。ですが、あなたに耳打ちした時に全く反応していなかったので、恐らく脈なしですね。ご愁傷様でした。」
「まぁ普通に友達だからな。それ以上の感情は持ち合わせてないよ。」
翌日、どう攻めようか考えていると鶴の方に姫から連絡があった。「少しだけ時間をいただけないか」とのこと。また揶揄われるのは嫌だったが、5分だけということでしぶしぶ了承した。向こうもそのくらいしか時間が取れないらしい。もしどうしても要件があるのであれば、メールででもすませばいいのに。
場所は先日同様生徒会室。今日はノアが家庭の事情のため、本日は何も生徒会の活動はない。
今日は最初から真剣モードで行こう。
「とりあえず大切なことだけ確認したい。あなたは禦王殘に害をなす気はあるの。」
「ありません。私は宿儺君一筋なので。そこは信じてもらえると助かります。」
一体この人の何を信じればいいんだよ。名前も正体もほとんど何も知らないんだぞ。
「では私からも一つだけ。本日は宿儺君に言伝をお願いしたいのですが。」
「そんくらい自分で伝えればいいだ……何て伝えればいい?」
学校で禦王殘と接すればもしかしたら一藤が何か勘づかないとも分からない。学校外での禦王殘との接触はもってのほか。メールだと万一に記録が残る。電話も着信履歴が同様。この人は禦王殘一筋と言いつつ、安易に接することが出来ないんだ。
しかしその言伝の言葉に「ええと……どうしましょうか……」となかなか言葉が出てこない。
そしてようやく「うん、やっぱり単純な方がいいですね」と決まったようだ。
「はい、どうぞ。」
その少女は何か覚悟を決めたように、静かに笑った。
「成長したあなたを刹那な時でしたが見れてよかった。こんなにもあなたを思う友達ができたと知れて本当によかった。ありがとうございました、さようなら。」
唐突な別れの言葉に俺と鶴が何も言えないでいると「お2人も、お時間頂きましてありがとうございました。私のことはもう忘れてください。」と足早に去ってしまった。追いかけなければと思ったが追いかけても何もできない気がする。何も言葉をかけられない。俺と同い年にも関わらず、あそこまで覚悟を決めた目を少女に俺が何をできる。相変わらず何があったのかは全く分からない。
......でも分かってることもある。姫を救い出すヒーローはもう決まってる。
「禦王殘のとこに行こう!」