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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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おてんば美女と冷徹野獣 2

その後にゾロゾロと出てきた素敵なお兄様方に囲まれて屋敷に入っていった。周囲を気にしているところとか完全に誘拐犯のそれだった。俺達のことを狐と鶴と言うあたり、ここが禦王殘の家であるということは分かったからいいけれど。

外から見ていた時から分かってはいたが、何とも広い家だった。玄関から入って右へ左へ、お目当ての部屋まで1分ほどかかったのではなかろうか。

やがて大きな襖の部屋に着いた。龍と虎が日本画風に描かれていた。なんと言うか、雰囲気によく合ってる。

「当主、狐と鶴の御二方連れてきやした。」

「……あぁ、入れ。」

先程のお兄様が俺らを手招きし、それに従い開いた襖から入る。中に入ると袴姿ではあったが、見知った顔がそこにあった。

「まぁ掛けろ。」

「……狐神君?」

「あ、あぁごめん。」

俺の祖父母宅も田舎だからそれなりに部屋は大きかったけど、ここの大広間はその比じゃない。20人くらいなら軽く入りそうだった。何か集会などが開かれた際にでも使うのだろうが、遠近感が少しおかしくなるくらいには広かった。

「悪ぃな、俺が直接迎えなくて。一応家では当主って立場上、簡単に動けなくてたまんねぇよ。」

「それは構わないけど、やっぱり例の彼女の話?」

少しだけ目を逸らす。その目には憂いというか、何かを懐かしむようなそんな感じに見えた。

「ああ。確認だが、鶴も聞いたんだよな。」

「……『姫』だよね。聞いたよ。」

「あぁ、じゃあお前ら2人には話しておくか。その事について黙ってろってのも理不尽だからな。理由だけは説明させてもらう。短く済ます。」

そうして禦王殘の昔話を聞いた。


小さな頃から自由というものはなかった。何をするにも許可が必要だったし、許された人としか話すことができなかった。別にそれ自身嫌だったとかはなかった。不自由はしなかったし、子は親に従うものだと、幼い頃から刷り込まれていた。育児放棄とかに比べればずっと恵まれていると感じた。幸せとは感じなかった。

うちの家系はとりあえず沢山子どもを(こしら)えていた。ダメになっても替えがきくように。全体的に高い能力が求められると共に、何か1つ強力な武器を持つように躾られた。学力や体力などが代表的なものだが、対話術、適応力、バイアス能力など過去には珍しい者もいた。

何と戦うためか、何と競っているのか、その詳細は教えてくれなかった。目標もなく努力し続けることもまた才能と誰かが言っていた。

月に1度、『禦王殘』の名前に連なるもの、関わるものが集まる会合があった。それは当主のババアがいるこの家この部屋で行われた。幼いことを理由に会合には参加させて貰えなかったが、聴覚が良かったため、何となくの会話は聞こえていた。

「くっだらな……」

よく話で聞く身内の権力争い。息子娘をダシにして親である自分は欲望のままに生きようとする、ある意味とても人間らしい理由だと思った。だから両親を早い段階で家から追い出した。この家から生かして逃がしてあげただけ、その時は優しさがあったと思う。

「恐ろしい子だわ……」

「まだ中学生に上がったばかりでしょう?」

「『俺の成長には不要だ』って言ってたらしいわよ。」

確かに幼い頃はそれなりに世話にはなったが、中学生くらいにでもなれば不必要、というよりも自身よりも頭の回転が悪い人間から教わることは無駄でしかなかった。孤独であることは理解していたが、別にそれをなんと思うこともなかった。王というものは古来よりそういう存在であると知っていた。そのような生き方を望まれているのであれば、今のこの姿勢は何も間違っていないと思い込んでいた。

「でも、それじゃあつまらないですよ?」

「……黙ってろよ。」

いつからか聞こえるようになったそれが、狂い始めた自分の心から来る幻聴でないということに気づくのに時間はかかった。いつも1人寝るように努めていた頃に話しかけてくる。

「外にいる人たちはお仲間なんですから、安心すればいいのに。あなたが人を全く信じていない証拠ですね。」

声からして女だろうが、こいつの姿は見たことがない。声から居場所を判別しようとも、上手い具合に拡散されて全然居場所を特定出来ないのだ。

「てめぇが別のとこの刺客とも限らねぇだろ。」

「まぁそれもそうですね。でも私は恥ずかしがり屋なので姿は見せたくありません。というか、見つけられないんですね。期待の新星であろうとも。私ってば凄いのでは?」

声のする天井に近くにあった脇差を抜いて投げた。『スコン』と綺麗な音をたてたが、直ぐに下手くそな『ぶっぶー』と声がした。完全に遊ばれていた。

「ようやく感情的になれましたね。時には感情を出すことも必要ですよー。では私はこれで。」

クソガキが……。

そう思いつつ布団に入ると、何故だか心地よく眠ることが出来た。

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