新編成と新入生 7
チームメイトはみんな太陽に謝っていたけれど、太陽は怒るなんてことは全くせずにただ笑っていた。そして一方こちらのチームは早速反省とそれに対する対策を話していた。ここだけ見ても実力差を感じざるを得ない。本当に強いチームになりたいのであれば、いつまでも仲良しこよしというわけにはいかないと思う。
「空気を読みすぎんのもどうかと思うけどな。」
「はは、やっぱばれてたか。」
「俺はお前みたいな性格じゃないからはっきり言うけど、後半お前が封じられてからは、チームのみんな勝つの諦めてたぞ。」
「傷心してる言うてるでしょ。今は優しさが欲しいなぁ。……確かにあいつらの気持ちも分かるよ。たかだか高校の部活。それで将来食っていくわけでもないし、受験勉強で辞める人がほとんどだろ。なんでそこまで頑張るってな。」
「理由つけて諦めないことを放棄した仲間を許せるお前を、俺は正しいとは思わない。」
「……ありがとな。俺のためにそんなに怒ってくれて。」
太陽の中でも葛藤があることぐらい分かっている。仲間に伝えたい思いとそれを強要したくない考え。結果、自分の考えを殺す方を選んだ方が良いとなったんだろう。正しいとかは置いておいて。
「あ、あのっ!!」
どこからともなく声が聞こえた。その方を2人で見ると、顔を真っ赤にした先程の彼女がいた。夕日のせいではなかろう。
「私は最後まで諦めずに戦う太陽君の事、尊敬してます!!」
「……なぁ、あの女誰なん?なんかすごい彼女ムーブかましてるんだけど。」
「あー……俺はその気はないんだけどな。」
「だとよ。帰れ女。落ち込んだ太陽を励ますのは親友であるこの俺だ。」
「まぁまぁ、折角だし紹介させてくれ。少し場所を変えるか。」
春先とはいえ陽が落ちればそれなりに寒い。学校に近くのやっすいファミレスに入る。俺とこの女が醜い席の取り合いをしたということで、俺と女、対する太陽なった。
「そちらが小学生からの馴染みの狐神彼方。性格は悪いが性根は腐ってない。近くの高校に通ってる。で、そっちが福原水?さんらしい。俺も名前と顔しか知らん。」
いや、怖すぎんだろ。普通にストーカーじゃん。太陽の方に逃げたいけど俺が奥側に座っちゃったから逃げられんし。
「はい、太陽さんにはそう名乗っております。……狐神さん、携帯で誰を呼ぼうとしてるんですか?」
「俺の手には負えない気配がした。」
太陽のことだから恨まれて刺されたりはしないだろうけど、このご時世身分も分からない女とか流石に案件ものだろ。
「そうですね、恥ずかしい気持ちはまだありますが、そろそろ自己紹介しませんとね。」
長年付き合いのある関係だからこそできるアイコンタクト。
『何ヶ月間この女にストーキングされてんの?』
『いやぁ、気づいたらいつの間にか。』
危機感のなさよ。時にはしっかり断ることは大事だ。少しは反省したまえ。
「だってお前、うちの学校の牟田もキープしとるやんけ。だからお前バスケ部なのにキーパーなんて言われるんだろ。」
「えっ、いや、牟田さんは別に……」
「そんなこと言ったら牟田は悲しむだろうな。あんなに毎日お前に思いを積もらせてムンムンしてるのに。」
最近牟田なんて全然見てないけどな。こんなこと言って太陽に失望してくれてもいいんだけどな。自分のことを明かさないで近づく女なんてろくなものじゃない。
「なるほど、とりあえず1人ですか。」
ダメだ、過激派だ。またうちのクラスから1人消える。
『なんでこんなんになるまで放っておいた』
『最後に注いだのはお前だけどな。』
「まぁ、なんだ、確かにそろそろ自己紹介は欲しいところだな。」
「……もう、誤魔化せませんね。学校は流石に太陽君と同じです。……名前は西御門純です。」
「「え?」」
流石にその名前には聞き覚えがあった。中学校の頃に随分ヤンチャしてた女がそんな名前だった。俺もなんかよくわかんない理由で殴られたことがある。「私が落ち込んでる時に笑ってんじゃねぇよ」とかそんな感じで。でも太陽は確か俺以上にしょっちゅうド突かれてたような気が。あれは愛情の裏返しか。キッツ。
「高校デビューってか?」
「……そうです。笑っちゃいますよね。どんなに偽ってもいずれバレるというのに。それにあんなに口調が悪かったのに、繕ってこんな口調って。」
「あっはっはっ「彼方」痛った!?」
水を一口飲んで落ち着く。
「確かに驚いたけど、別にそれは恥じるものではないだろ?純粋に好意を向けてくれたことも俺的には嬉しかったし。」
「それに応えないお前は悪だ。」
「お前はなぁ……でも、正直驚いた。めちゃくちゃ可愛くなったじゃん。俺のためにすごい努力してくれたんだな。ありがと。」
「太陽君……」
「すみません、キンキンに冷えたお冷貰えます?甘ったるい空気ぶち壊すような。」