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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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遅咲きの春 9

「うわっこっち向いた。」

「あなたね……あまり学校帰りに寄り道は褒められたことじゃないわよ。速やかに下校しなさい。梶山君も部活がないならね。」

「いや、援交教師に言われても何にも説得「そんな訳ないでしょ。」」

正直意外だわ。この2人が一緒にいるなんて。恐らく梶山君から誘ったのでしょうけど、一体何をしていたのか、気になるところではあるわね。まぁ少しだけですが。

「すみません、狐神君が何やら困っていた様子だったので少しだけ事情を聞いていたんです。何やら買い物あったそうですが、お店も分かったのでここで別れようかと。」

なるほど、梶山君は本当に人がいいですね。狐神君は何か買い物があった様子だけど、そこまでは関与する必要はなさそうね。私も流石に疲れてるから戻るとしましょう。

「気をつけて。」と言うと今度こそ学校に戻った。職員室に戻る時には思ったより時間が進んでおり、他の職員もだいぶ帰っている。まだ多くの事務作業が残ってるから早く取り掛からないと。

そこでまた電話が鳴り響く。他の教員もいるが鳴ったのは遠井のすぐ側にある電話。特に決められている訳では無いが、近くにいる人が電話を取るのはごく普通の事。

「もしもし」

何となく誰からの電話からかは予想出来た。

「あぁ、これはこれは遠井先生。ちょうどよかったです。学校に丁度戻られたところですかね。」

もしかしてと思い、恐る恐る窓の外を見る。しかし外には榊原の姿は見えなかった。何とか声を震わせないように話す。

「榊原さんで間違いないですか。」

「えぇ、声だけで分かってもらえて嬉しいです。先程お渡しした飲み物は飲んでいただけましたか?」

「……いいえ、後ほどいただこうかと。それで要件は何でしょうか。」

「いえね、もしお時間あれば明日もお伺いしようかと思いまして。遠井先生はお時間空いてますか?」

新学年に変わるための教材確認や、備品整理、配布物の作成やテスト結果の入力など、仕事はまだまだある。それは事実ですし断る理由には一応なりますか。

「申し訳ございません。新学年に上がるための手続きが多くあるため、十分なお時間の確保が難しいです。校内を見学していただく事は許可証さえあれば可能ですがいかがでしょうか。」

「……いえ、そうであれば遠井先生のお時間の合う日程に合わさせてもらいます。後日連絡を頂いてもいいですか?」

結局それを断ることは出来ず、電話は終了した。お互いそんな仮初の言葉なんて興味もなく、本心がわかっているにも関わらず、こんな会話になんの意味があるのだろうか。

私は一体何をしたいのかしら。勢いづいたはいいけれど、何をする訳でもなく、あの時のようにずっと受け身で。結局あの時から私は変われていないのかしら。


勿論牛乳は飲まなかった。


嫌な事を遠回しにしても、その間が憂鬱になるだけなので、翌日には連絡し榊原来てもらった。優君が来ないのは分かっていたため、かこつけて学年主任に同席してもらった。これなら変なことはされまいと。

事実机を挟み、学校のカリキュラムや成績の出し方などを話し合うだけでだった。一切億尾に出さなかったが、内心あまりよくは思ってないだろう。しかしこのまま終わると考えていた頃。

「すみません、遠井先生、一瞬だけよろしいでしょうか?」

話し合いの最中にも関わらず、樫野校長が部屋に入ってきた。そして榊原さんに頭を下げると、遠井の耳元で耳打ちした。

「とっととカタをつけて下さい。時間の無駄です。」

それだけ伝えると部屋を出ていった。

……なんというか、もう少し言い方あるんじゃないですか?確かにいつまでもなよなよとした態度を取ってる私にも非はあると思いますけど、基本的に目の前のこの変態が悪いんでしょう?なんでそれで私が怒られなくては行けないんですか?……無性に腹が立ってきました。

その後、私の態度が出てしまっていたのか、珍しく何も無かった。ずっとこの調子で接すればいいとも思うが、苛立ちが恐怖に(まさ)っただけで、一時凌ぎにしかならない。


「どうしたものかしら……」

榊原のせいで最近仕事が疎かになり、結局仕事が終わったのは10時頃。別に仕事が遅くなる分にはいい。高校や大学、就職活動中などに教師がどれだけ残業するかなどは分かっていた。別にブラックだとか残業代きちんと支払えとかは思わない。しっかり効率よくやれば終わらなくもない。

飲めないお酒なんて買ってみたが、やっぱり美味しいとは思えない。榊原の事を忘れることなんて出来ず、ただただ頭が痛くなる一方。働けるようになったら、成人式を迎えたら、社会人になったら、子どもができたら、大人になるってどういうことなのか、歳をとる度にわからなくなっていった。寧ろ私よりも大人びているような生徒だっている。

樫野校長にはああ言ったが、今すぐにでも訂正したい気持ちが生まれ始めてきてる。

「頭痛い……もう寝ようかしら。」

ベットのスプリングの音が部屋に響いた。


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