遅咲きの春 3
放課後になると直ぐに集合場所の教室に向かった。
嬬恋がみんなから距離を置かれていたのは授業中からも感じていたが、同様に周りから距離を置かれている俺に出来ることはなかった。このまま辞めるということはないだろうが、もしかしたら残りの時間を1人で過ごすことになるかもしれないかもな。まぁ俺の知ったことではないが。にしてもまた生徒会に入れるとなると嬉しくてついニヤけてしまう。一瞬鏡を見てそのあまりの気持ち悪さに冷静になったが。
教室に着いたから15分ほど経った頃に、最後のリーダーの山田アリスが入ってきてメンバーは全員揃った。ちなみに例外として4組は一藤ではなく八島護国が来た。そして司会はノアが務めた。
「今日は急な収集なのに来てくれてありがとね。あんまり時間かけても悪いと思うからテキパキ行くわね。」
そう言うときれいな黒板にこれまた綺麗な字で文字を綴っていった。相変わらず綺麗な字だな。
「まず、ここにいるみんななら今の2年生があんまり信用出来ないというのは分かると思う。勿論いい人もいるけれど、大鵠が残したものはそれほどに大きかったわ。その為今年の生徒会は新3年生1人、新2年生3人、新1年生2人の編成で進めたいと思ってるの。」
「それでも3年を入れるんだな。確かに各学年最低1人はいると便利ではあるが、リスクもあるだろう。」
「宛はあんのかよ?」
鴛海と山田がノアに続く。
「ええ、今確認してるところよ。それで2年生なんだけれど、まず狐神は入ってくれるって認識でいいかしら。」
みんなが俺を見る。あまり緊張はしないがこういう場合、なんて答えたものか一瞬考える。
「......んー、いや、やっぱ俺みたいな無能はいらないと思うけどな。いても足引っ張るだけだろうと思うし。」
「ちょ、ちょっと、そんなに卑下しなくても。それにあなたは生徒会に入ってからすごい頑張ってくれてた「それに俺はこれから今まで散々コケにしてきた連中を潰し歩かなきゃいけないんで忙しいんだよね。てなわけで申し訳ないんですけど、お誘いは断らせてもらいます。」
俺の発言に明らかに周りから警戒された。おかしいな、狐神彼方は復讐心に燃えているネガティブ思考設定ではなかったっけ?あぁでもノアさんだけは俺のことをわかってくれているな。
「あんた、誰よ。」
「随分と変装が上手いんだな。」
いつも温厚で見てて和むと有名カップルと言われている戌亥と貓㑨をこんな怖い顔にさせるのだから、狐神も随分とこいつらに好かれているもんだな。
「今年入学する者です。でも嬉しいなぁ、やっぱりノアさんはここにいる誰よりも先に気づいてくれましたね。やっぱり赤い糸で結ばれているんですかね。」
「……入学が決まっている者だとしても、まだあなたの籍はここにはないわ。私に免じてここに入ったことは許すけれど、狐神がどこにいるかだけ教えなさい。」
だっからその狐神って奴なんなの?ここにいる連中、勿論ノアさんも含めて評価高いみたいだけどさ。軽く調べてみたけど全然大したことない野郎じゃんか。冤罪だったとはいえ犯罪紛いみたいなこと何度もしてよ。
「残念ですけど、ノアさんのお気に入りのあいつなら別の場所で俺の友達と遊んでますよ。あいつを人質になんかしようなんて思ってないんで特に場所も教える気ないっす。まぁでもノアさんがどうしてもと言うのなら教えてあげてもいいっすよ。」
「何が目的なの?」
「そんな今更言わなくても分かるでしょ。あなたの横に立つのにあの男ではあまりに実力不足すぎる。本当は俺があの男に成り代わって生徒会の勧誘を拒否するはずだったんすけど、やっぱ陰キャ野郎の真似事は俺には難しすぎましたわ。まぁ他にもありますけど......」
「では」と颯爽にそこから去ろうとする男を当然逃がす訳もなく、明石と伽藍堂が素早く扉の前に回り込む。
「逃がさんぞ!!」
「狐神殿も儂らの朋友故、どうか場所を教えてはくれまいか。」
「……揃いも揃ってあいつの味方かよ。別に俺だってあんたら全員相手にして、簡単に勝てるとは夢にも思わねぇよ。いいよな、周りに恵まれた人間はよ。」
……は?
ついカッとなって扉を勢いよく開ける。そこには遅刻をしたにも関わらず、笑ってくれるみんながいた。
そして生意気な後輩にかっこよく先輩の言葉を浴びせる。
「め……めふまへへる……わけ……はいはろ……」
俺がしてきた苦労を理解しろとか言わないし、誰とも知らん1年坊主の苦労も知らんけど、上っ面だけ調べて簡単にわかった気になってるんじゃねぇよ。俺が普段からどんだけ大嫌いな自分を少しでも誇れるように、みんなの隣に立てるように努力してると思ってる。
「……」
「……へ、へんぱいを……なへる……な……」
一発かましてやろうと拳を構えるが、しかしガクガクの足脚は歩くことは最早、自重を支えることさえ出来なかった。そして膝から崩れ落ちそこで俺の意識は消えた。
「いってー......」
「よお、目ェ覚めたか。」
既にそこに先程の新1年生の姿はなく、隣では禦王殘が会議をくだらないものを見るように眺めていた。傷が何やら痛み、そこら辺を見るとすでに処置はされていたようで、ガーゼや絆創膏がそこらへんに貼ってあった。少し過剰すぎるしこの姿で家に帰ったら母さんにいらない心配をかけるので、申し訳ないが少し剥がした。
「あの一年生は?」
「締めようとしたんだがな、ノアが悪いけど任せてほしいってな。あいつのことはノアに一任した。一応事情は話してもらったが、気絶していたお前には帰り道にでも話すってよ。」
了解です。じゃああの1年生についてはその時に聞くとするか。禦王殘には禦王殘で訊きたいことがあったし。
「そういえば、前に乱獅子と戦っていた時に言っていた『姫』って言ってたけど、恋人かなんか?」
「あ?そんなんじゃねぇよ。」




