最後の証明 20
いまいち見方は分からないが、『MATCH』と書かれた書類が指紋認証の証拠なのだろう。校長一人が持つ力だとは思えないが、今はとりあえず事件の詳細を知るのが一番だ。そしてこの件が済んだら極力関わらないようにしよう。
「じゃあ次は強姦ですが、先ほど話した『どうやってこの部屋に入った』という発言をした人が犯人です。この発言はそもそも犯人にとってマイナスしかないものです。この発言をもとに俺達は話を進めました。」
「うん。ミスリードの可能性もないことはないけれど、今回はないと思うわ。あの発言を覚えていたのは単純にあなたの記憶力に因たもの。」
「次はこの言葉の意味を探っていきます。最初は単純に鍵は職員室にあったのにどうやって入れたか、だと思いました。それですと鍵を保管してある職員室がやはり怪しいです。そしてマイナス発言するということは焦って零れてしまったもの。つまりあの日のことは嬬恋の協力者さえ聞いていなかった。仲が悪かったと分かります。」
「犯人像について、あなたたちはどういった見解にたどり着いたのかしら。」
いかんせん情報が古い、少ない、確実性が薄いの三拍子だからな。ろくな推論にならなかった。
「嬬恋は男子禁制の女性の園で育った妄想ダイナマイトです。入学してすぐ仲のいい男性講師ができるとは思えません。つまり相手は女性講師。あの時間にいたということで臨時講師の可能性は低いと思います。そして白花を唆したのは白花をほとんど知らなかった嬬恋ではなくその講師。そして弱っていたとはいえあの白花を唆すなんて短時間でできるものじゃない。つまり長時間接することが可能な担当教師の遠井先生、保健の真弓先生、教頭、カウンセリングで時々来る人、誰か知らないですけど生活指導の講師とかですかね。領さんだけは天地がひっくり返ってもないです。」
「それで、犯人はその中の誰なの?」
そろそろ本格的に暗くなりはじめ、樫野がそれに伴い明りのスイッチを入れる。俺は寒いので窓を閉める。そして許可を得てエアコンを入れる。
「いえ、候補はあくまで俺の考えで、みんなには速攻で否定されました。普通に泣きました。」
「そ、そんなみんなで息揃えてそれはないって。秒で否定しなくても......」
「時間がねぇんだよ。ここでお前を甘やかして何になる。事態が好転するのか?」
つっら。え、本当に涙出てきたんだけど。
「......ごめんね、でもそれはないと思うんだ。」
「窃盗が起きた理由はその嬬恋って人のつまらない理由でしょう。ただ白花さんがどんな人間だったか知らなかったが故に事態は想像以上に大ききなった。つまり早急に犯人代理を立てる必要があった。それなのにのんきに唆してる時間なんてないわ。」
「何か理由があり、嬬恋に協力しなくてはいけない。白花を短期間で思い通りに動かせる技術を持つ人間。それが俺たちが予想する犯人像です。」
そして次に気になったのが事件前日の話。地学講義室にて大きな音がしたというやつ。嬬恋が窃盗の犯人と分かった以上、発言に信憑性は無いが、他の部員からも証言が取れたので、大きな音がしたというのは本当らしい。坂上があの日のことを覚えていなかったとあったが、もし覚えていたら情報に齟齬が発生するので、こちらからもやはり本当のことと分かる。ではその大きな音とはなんだったのか。
「事件前日、嬬恋曰く地学講義室にて大きな音がしたらしいです。嬬恋以外の人にも聞いたのでそれは本当かと。生徒会の愉快な仲間たちはそれが気になりました。」
「音の正体かしら?」
俺もそう思った。
「それもそうですが、みんなは『どうして部長が出向く程の大きな音がしたのに、当日ではなく後日坂上に話をしたのか』でした。確かに大きな物音がしたのなら、その場で行くのが普通です。」
「......誰もいなかった、と?」
でしょうね。地学講義室で大きな音がして直ぐに向かった。けれど地学講義室の照明がついてなかったり、鍵が閉まっていてその時には確認できなかった。だから後日坂上に話を聞きに行った。それなら綺麗に話がまとまる。
「そうなれば当然、天文部の活動は終わっていた。けれど音がした以上、何者かがいた。じゃあその何者が何をしていたのか。そこが分かれば一気に答えには近づくことが出来ました。」