最後の証明 17
俺の凄まじい速度の制裁ビンタは机の角にぶつかり、それを見て水仙が軽く俺の頬を掴む。
「よかった。少し表情和らいだ。」
「......大丈夫?......すごい......音......」
割と本気で引っぱたいてやろう思ってたから、めっちゃ痛いし、そもそも女子に手を上げようとしたのが情けないし、周りからは「何してんの?」みたいな顔が何か痛々しいし。
しかし念には念を。俺の迸る名推理は当たってるとは思うが、一応確認の為にまず禦王殘の教室を尋ねた。しかし教室移動の為不在だった。いつもならまた今度来ればいいかぐらいだが、リミットは放課後まで。鶴の方を尋ねてみる。しかしこちらも移動教室にて不在。まだ何度かの休憩時間と昼休みがあるとはいえ、どうしても焦ってしまう。どうせ俺のクソみたいな推理なんて当たっていないのだから。
「いや、悪くない着眼点だと思うが。」
「......うん。」
「でも窃盗の方も関わってるとなると、恐らく生徒に協力者がいるんじゃないかしら?」
結局集まれたのは昼食と昼休みの時間。鶴が見えたから声をかけたら「私だけ仲間外れにしないで」とノアから言われたらしく合流。その為ノアにも事情を話し、旧生徒会1年で集まった。
そうなると生徒と体育教師の犯行となるのか。しかしやはり動機が見えない分、生徒を絞ることは難しい。唯一関わりのありそうな橄欖橋も空振りに終わったしな。そうなると他に怪しいのは誰だ?天文部はみんなプラネタリウムに行ってたし、坂上は嬬恋と一緒にいた。放課後までに絞れる気がしないな。
そんな折。
「やっぱりあなたも来たんですね。」
一足先に気配に気付いたノアの声する方向をみんなが見る。
「素直になれない橄欖橋先輩。」
そこにはいつもみたいなのほほんとした表情の橄欖橋はおらず、何とも言いづらいような顔をした彼女がいた。そこに遠慮のない言葉をぶつける。
「自分の父親がそんな愚行をすれば、素直には生きづらいですよね。自分の好きなものを探究した結果、父親は惨憺たるものとなった。飽き性なんて演じつつも本当に物事を好きになることが出来ない。」
確かにそう言われてみれば納得できる部分もあるが、いきなりそんな確信を突いてしまってもいいのだろうか、とも一瞬思ったが、俺にはそんな悠長な事は言ってられない。ノアは俺の事を思って、例え自分が嫌われても構わないくらいに、話を進めてくれているんだ。ノアの言葉を橄欖橋はただ静かに聞くだけだった。
「ここからは私の憶測ですが、父親への復讐が終わった後、あなたは自分が何をすればいいのか分からなくなったのではないですか?存外復讐心なんてそんなものです。そしてその後の過程は知りませんが、そんな空っぽの心を白花さんが救った。じゃなきゃあなたが白花という名前を聞いて手助けする理由も思いつきませんし、狐神を助ける理由もありませんしね。」
白花のことだから絶対橄欖橋の事を思ってはないだろうな。周りからの期待とか好感度アップとかその辺だろう。でもそんなものでも救われる人間はいる。形はどうあれ、人を救ったあいつは正しいと思う。にしても選挙の時とか痴漢の時の水仙の心境もそうだが、ノアは鶴や禦王殘と比べて人の心を理解する力がすごいな。
「そだね〜。......うん、そんな感じかな。だから最初私のところに来た時は、絶対退学させてやろって思ってたんだけど。もし真犯人がいるならやっぱりそっちに罰を受けてもらおうって感じかな〜。」
「そうなりゃあ話ははえぇな。知ってること全部話してもらえますか。知っての通りこいつには時間がないんで。」
「じゃあ話を聞かせてもらえるかな?」
放課後、遂にラスボスまで辿り着いた俺は理論武装をしてその扉を開いた。セーブ機能とかはないので一発勝負。負けたらどうなるかは分からないけど、恐らくただでは済まないだろう。鶴達に来てもらおうと思ったが、やめておいた方がいいと思うと橄欖橋に言われた。その意見には他の3人も同感だった。その為今は俺と樫野の2人っきり。
「橄欖橋さんがなーんか余計な事を言ったらしいね。何となく分かってたけど。後で少しだけ文句を言ってやろう。ごめんね、始めてもらっていい?」
やべー、緊張がやべー。今までも冤罪を解決してきたはずなのに、いざこうした舞台が揃えられるとそれはそれで緊張がやべー。とはいえみんなから事の次第は分かりやすく解説を受けた。大丈夫。それを話せばいいだけ。
「じゃあ、よろしくお願いします。」




